確率と期待値
mathprobabilityhighschoollecture
1導入
この講義で中心に置く発想は、場合を数えることと、平均的にどれだけ得るかを分けて考えることである。
確率の演習で混乱しやすいのは、「まず何を数えるのか」と「いま求めたいのは確率なのか期待値なのか」が曖昧なまま計算を始めてしまうことである。
確率では、まず起こりうる結果を整理し、そのうえで各結果にどれだけの重みを与えるかを決める。期待値は、その重みつき平均である。この 2 つを最初に分けて見るだけで、問題の見通しはかなり良くなる。
2用語と定義
確率 とは、事象が起こる起こりやすさを数で表したものである。
確率変数 とは、標本空間の各結果に実数を対応させる関数である。
期待値 とは、確率変数 X が x_1,\dots,x_n を取るとき
E[X]=x_1P(X=x_1)+\cdots+x_nP(X=x_n)
で定義される量である。
3方針
確率の問題では、まず標本空間を明確にする。そのあと等確率かどうかを判断し、場合の数で押すのか、条件付きで分解するのかを決める。
期待値では、全部の場合を並べたうえで、それぞれの値にその起こりやすさを掛けて足する。したがって「確率を求める段階」と「平均を作る段階」を分けて考えるのが基本である。
4直感的な説明
期待値は「実際の 1 回の結果」ではない。しかし同じ試行を何度も繰り返したときの平均として現れる。したがって確率と期待値は、未来を言い当てる道具ではなく、多数回の振る舞いを整理する道具である。
たとえば公平なさいころを 1 回振った結果は 1,2,3,4,5,6 のどれかだが、長く繰り返すと平均は 3.5 に近づく。3.5 という目は出なくても、全体の傾向を表す数字として意味がある。
5厳密な説明
5.11. 等確率なら場合の数
全体の場合の数を N、事象 A の場合の数を n(A) とすると
P(A)=\frac{n(A)}{N}
である。
重要なのは、この公式が「全部の結果が同じ起こりやすさを持つ」ときにしか使えないことである。ここを見落とすと、条件付き確率や偏った試行で崩れる。
5.22. 期待値は重みつき平均
確率変数 X が 0,1,2 をそれぞれ \frac14,\frac12,\frac14 の確率で取るなら
E[X]=0\cdot \frac14+1\cdot \frac12+2\cdot \frac14=1
である。
この式では、「値」と「その確率」を組にして見ることが本質である。値だけを足してもだめで、起こりやすい結果ほど強く平均に効く、という重みづけが入る。
5.33. 線形性
期待値の重要な性質は、和の期待値が各項の期待値の和になることである。つまり
E[X+Y]=E[X]+E[Y]
である。独立かどうかに関係なく成立するので、演習で強力である。
ここが期待値の便利さである。和の期待値を出したいとき、分布を全部作り直さなくても、各部分の期待値を足せばよい場合が多い。
6具体例
6.11. さいころの偶数の確率
公平なさいころを 1 回振るとき、標本空間は \{1,2,3,4,5,6\} である。
偶数の事象を A=\{2,4,6\} とすると、n(A)=3、全体は N=6 なので
P(A)=\frac{3}{6}=\frac12
である。
6.22. さいころの出目の期待値
X を出目とすると
E[X]
=1\cdot\frac16+2\cdot\frac16+3\cdot\frac16+4\cdot\frac16+5\cdot\frac16+6\cdot\frac16
=\frac{21}{6}
=3.5
である。
この 2 つは同じ試行でも、前者は「どれくらい起こるか」、後者は「平均的にどれくらいの値になるか」を見ている。
7別の見方
確率は比率の言葉、期待値は平均の言葉である。数え上げの問題では組合せが主役だが、期待値では個々の場合を全部追わずに済むことがある。
8見分け方
- 何通りあるか、起こる割合はどれくらいか、なら確率である。
- 平均的に何点か、何回か、なら期待値である。
- 独立や条件付きが出たら、掛け算か場合分けかを先に決める。
- 問題文に「少なくとも」「ちょうど」「高々」が見えたら、まず事象を集合として言い直する。
- 期待値を聞かれているのに、いきなり場合を全部列挙し始めたら、値と確率の組を先に表へ整理したほうが見通しがよくなる。
9どこまで成立するか
等確率の公式は、全結果が同じ重みを持つときにしか使えない。偏りがあるなら、個別の確率を直接扱う必要がある。
10最終形
\boxed{P(A)=\frac{n(A)}{N}\qquad (\text{等確率})}
\boxed{E[X]=\sum x_iP(X=x_i)}
\boxed{E[X+Y]=E[X]+E[Y]}
11一言でいうと
- 確率は「どれくらい起こるか」、期待値は「平均的にどれだけか」である。
- 問題では、まず数えるのか、平均を見るのかを決める。