力の図と運動方程式
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導入
この講義で最重要なのは、運動方程式を立式する前に、対象を1物体に固定して自由体図を作成することが必須であるという点だ。
式を先に記述しようとすると、どの力がどの物体に作用しているかが曖昧になり、誤答の原因となる。自由体図の作成から立式までの手順を確立することで、力学の計算ミスを防止できる。
用語と定義
自由体図 とは、ある1個の物体だけを取り出し、その物体に作用する力のみを矢印で図示した図である。
運動方程式 とは、
m\vec{a} = \sum\vec{F}
質量 m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、加速度 \vec{a}\ [\mathrm{m\cdot s^{-2}}]、合力 \sum\vec{F}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] の関係式である。
垂直抗力 とは、接触面が物体を面に垂直な方向に押し返す力である。
張力 とは、糸や棒が引く力である。
摩擦力 とは、接触面に沿って運動を妨げる方向に作用する力である。
方針
力学の問題に対する基本手順は次のとおりである。
- 対象の設定:複数の物体がある場合、まず「いずれの物体について立式するか」を決定する。
- 自由体図の作成:対象物体に作用するすべての力を矢印で図示する。
- 座標軸の設定:運動方向または変位の方向に沿って軸を設定する。
- 立式:軸方向ごとに運動方程式を組み立てる。
直感的な説明
自由体図は、「いまこの物体には何が作用しているか」を可視化する道具である。この可視化が不十分なまま式を記述すると、重力と垂直抗力の混同、作用・反作用の誤った同一視、座標の方向不一致といった誤りが発生する。
作用・反作用に関する注意:物体 A が物体 B に及ぼす力と、B が A に及ぼす力は、大きさが等しく向きが反対だが、異なる物体に作用している。したがって、1物体の自由体図に両方を記入してはならない。
厳密な説明
1. 対象の固定
運動方程式 m\vec{a} = \sum\vec{F} は、特定の1物体に対して成立する関係式である。複数の物体からなる系では、各物体について独立に立式する必要がある。
2. 自由体図の作成手順
対象物体を点または矩形で表し、以下の力を図示する。
- 重力:鉛直下向きに mg\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]
- 垂直抗力:接触面に垂直かつ物体から離れる方向に N\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]
- 張力:糸の延長方向に T\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]
- 摩擦力:運動(または運動の傾向)と反対方向に f\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]
物体の運動の向きを力として図示することは誤りである。慣性力(非慣性系のみに登場)と実在の力とを混同しないよう注意する。
3. 座標軸の設定と立式
水平方向を x 軸、鉛直方向を y 軸に設定するなら
ma_x = \sum F_x,\qquad ma_y = \sum F_y
と分解して立式する。運動しない方向では a = 0 となるため、釣り合いの式
\sum F = 0
が成立する。
具体例:斜面上の物体
傾斜角 \theta の斜面上で質量 m の物体が滑落する場合、斜面方向(下向きを正)と斜面に垂直な方向に座標を設定すると、
斜面方向:ma = mg\sin\theta
垂直方向:N - mg\cos\theta = 0
を得る。斜面に沿った軸を選択することで、重力の分解が一度で完了し、垂直抗力が垂直方向に現れることが確認できる。
見分け方
- 複数の力が登場する問題では、まず自由体図を作成する。
- 斜面や糸が登場する場合、座標軸を運動方向に合わせると立式が簡便になる。
- 運動しない方向が存在する場合、その方向では a = 0 として釣り合いの式を適用する。
- 作用・反作用で混乱した場合は、「いずれの物体について立式しているか」に立ち返る。
どこまで成り立つか
m\vec{a} = \sum\vec{F} は慣性系においてのみ成立する。加速する乗り物の内部(非慣性系)では慣性力を追加する必要があるが、高校物理では通常、地面に固定した座標系(慣性系)を使用するため、この点は問題にならない。
最終形
\boxed{m\vec{a} = \sum\vec{F}}
座標成分ごとに
\boxed{ma_x = \sum F_x,\qquad ma_y = \sum F_y}
一言でいうと
運動方程式は、自由体図で対象と力を確定してから立式する関係式である。