面積分と流束
mathvector-calculussurface-integrallecture
1導入
この講義では、曲面上のスカラー量の総和と、曲面を貫くベクトル場の法線成分の総和を区別して定義する。
2用語と定義
流束 は、ベクトル場の法線成分を積分する面積分であり、曲面をどれだけ通過するかを表す。
面積分 は、曲面上のスカラー量またはベクトル場の法線成分を積分する操作である。
3方針
曲面を \boldsymbol{r}(u,v) で表示し、接ベクトル \boldsymbol{r}_u,\boldsymbol{r}_v から法線方向を構成する。流束では、ベクトル場のうち法線方向の成分だけを数える。
4向き付き曲面
流束では、曲面の表裏を区別する必要がある。法線方向を反転すると、流束の符号も反転する。閉曲面では、通常は外向き法線を選択する。
曲面全体で連続な単位法線場 \boldsymbol n を選べるとき、その曲面を向き付け可能という。連結な曲面では 2 つの向きは \boldsymbol n と -\boldsymbol n である。向き付け不可能な曲面では、曲面全体に一貫した流束を定義できない。領域の境界として与えられた閉曲面では、外向きが標準の向きである。
5厳密な説明
\Omega\subset\mathbb R^2 を境界が区分的 C^1 の有界 Jordan 領域、D=\overline\Omega とし、\boldsymbol r を D の開近傍で C^1 とする。\Omega 内で \boldsymbol r_u\times\boldsymbol r_v\ne\boldsymbol0 かつ単射であるとき、S=\boldsymbol r(D) を正則曲面パッチという。境界上だけの重複は面積 0 なので積分値へ影響しない。内部で多重被覆するパラメータ表示の右辺は、曲面上の通常の積分ではなく、重複度を含む積分を表す。
S の近傍で定義された連続スカラー場 g の面積分を
\iint_S g\,dS
=\iint_D g(\boldsymbol r(u,v))\|\boldsymbol r_u\times\boldsymbol r_v\|\,du\,dv
と定義する。これは向きに依存せず、g=1 なら曲面の面積になる。
S の近傍で定義された連続ベクトル場 \boldsymbol F に対し、\boldsymbol r_u\times\boldsymbol r_v が選んだ向きと一致するとき、流束を
\iint_S \boldsymbol{F}\cdot \boldsymbol{n}\,dS
=\iint_D \boldsymbol{F}(\boldsymbol{r}(u,v))\cdot(\boldsymbol{r}_u\times\boldsymbol{r}_v)\,du\,dv
と定義する。パッチの内部では、単位法線は \boldsymbol n=(\boldsymbol r_u\times\boldsymbol r_v)/\|\boldsymbol r_u\times\boldsymbol r_v\| である。向きを反転すると流束の符号も反転する。
\boldsymbol{r}_u\times\boldsymbol{r}_v は、接平面に垂直な方向と微小面積を同時に表す。\|\boldsymbol{r}_u\times\boldsymbol{r}_v\|\,du\,dv は面積要素であり、向き付き流束では絶対値を取らずに \boldsymbol{r}_u\times\boldsymbol{r}_v\,du\,dv を使用する。
本講義で扱うコンパクトな区分的正則曲面を 1 個のパッチで正則かつ 1 対 1 に表示できない場合は、有限個の正則パッチに分割し、共通部分を面積 0 の境界に限定して、各パッチの積分を加算する。流束では、すべてのパッチの法線を選択した曲面の向きと整合させる。この構成により、後述する球面および閉曲面の積分も定義される。
\Omega' を境界が区分的 C^1 の別の有界 Jordan 領域、E=\overline{\Omega'} とする。\boldsymbol\varphi:E\to D を、E と D の開近傍間の C^1 微分同相の制限で \boldsymbol\varphi(E)=D を満たすものとし、\boldsymbol\rho=\boldsymbol r\circ\boldsymbol\varphi とする。スカラー面積分は Jacobian の絶対値により再パラメータ化で不変である。流束は \det D\boldsymbol\varphi>0 なら向きを保って不変である。\det D\boldsymbol\varphi<0 のとき、外積をそのまま使用すると反対向きの曲面を表すため、流束の符号が反転する。選択済みの幾何学的な向きを維持する場合は、外積の符号を補正する。
6具体計算
上向きの平面 z=0、0\le x\le 1,\ 0\le y\le 1 を考える。\boldsymbol{F}=(0,0,z+1) なら、法線は (0,0,1) であり、流束は
\iint_S \boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{n}\,dS=\int_0^1\int_0^1 1\,dx\,dy=1
である。下向きの法線を選択すると値は -1 になる。
7球面の例
\boldsymbol{F}=(x,y,z) とし、原点を中心とする半径 R>0 の球面を外向きに向き付ける。球面では \boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{n}=R であり、面積が 4\pi R^2 なので、流束は 4\pi R^3 になる。後続講義では Gauss 定理を使い、発散が 3、体積が 4\pi R^3/3 であることから同じ値を確認する。
8円柱の例
半径 R、高さ H の円柱側面を
\boldsymbol{r}(\theta,z)=(R\cos\theta,R\sin\theta,z)
で表示する。これは上下面を含まない側面だけの表示で、0\le\theta\le 2\pi、0\le z\le H である。\theta=0 と \theta=2\pi は同一の継ぎ目を表すが、パラメータ領域の境界での重複なので面積分の値に影響しない。外向きの向き付き面要素は
\boldsymbol{r}_\theta\times\boldsymbol{r}_z=(R\cos\theta,R\sin\theta,0)
である。\boldsymbol{F}=(x,y,0) なら、流束は
\int_0^H\int_0^{2\pi}R^2\,d\theta\,dz=2\pi R^2H
である。
9比較例: 面に平行な場
z=0 の上向き平面片に対し、\boldsymbol{F}=(1,0,0) は面に平行である。したがって \boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{n}=0 であり、流束は 0 になる。矢印が曲面上に存在しても、法線成分がなければ貫通量は発生しない。
10Gauss 定理への橋渡し
有界領域 V が区分的 C^1 境界を持ち、\boldsymbol F が \overline V の近傍で C^1 であるとする。外向きに向き付けた閉曲面 \partial V を通過する総流束は、V 内部の発散の体積積分と一致する。この事実が Gauss の発散定理である。閉曲面 \partial V は体積領域の境界であり、次のページで境界上の流束と内部の局所量である発散を接続する。特異点を V 内に含む場には、この条件のままでは適用できない。
11よくある誤り
- 法線方向を指定せずに流束を計算する。
- 面積要素 \|\boldsymbol{r}_u\times\boldsymbol{r}_v\| と向き付き面要素 \boldsymbol{r}_u\times\boldsymbol{r}_v を混同する。
- 曲面の境界を確認せず、Stokes 定理の向きを誤る。
12関連リンク
data/lecture/math/vector-calculus/vector-calculus-portal.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/gradient-divergence-and-curl.lecture.n.md
data/lecture/math/multivariable-calculus/parametrized-curves-and-surfaces.lecture.n.md
data/lecture/math/analysis/introduction-to-line-and-surface-integrals.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/green-gauss-and-stokes-theorems.lecture.n.md