Green・Gauss・Stokes の定理
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1導入
この講義では、Green・Gauss・Stokes の定理を、領域内部の微分量と境界上の積分量を結ぶ同一原理として確認する。
2方針
Green の定理は平面領域の回転と境界線の循環を結ぶ。Gauss の発散定理は体積領域の発散と境界面の流束を結ぶ。Stokes の定理は曲面上の curl と境界曲線の循環を結ぶ。
3定理を適用する前の確認事項
定理の適用前には、積分対象、向き、および領域内部における場の滑らかさを確認する必要がある。Green では平面領域と正向きの境界、Gauss では閉曲面と外向き法線、Stokes では向き付けられた曲面と右手則により誘導される境界曲線の向きが前提になる。
4代表式
Green の定理の一形は
\oint_{\partial D} P\,dx+Q\,dy=\iint_D\left(\frac{\partial Q}{\partial x}-\frac{\partial P}{\partial y}\right)\,dA
D は有限個の区分的 C^1 Jordan 曲線を境界に持つ有界平面領域、P,Q は \overline D の開近傍で C^1 級とする。\partial D は誘導された正の向き、すなわち外周は反時計回り、穴の境界は時計回りに向き付ける。左辺は全境界成分の循環の和、右辺は内部の回転密度の総和である。
Gauss の発散定理は
\iint_{\partial V}\boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{n}\,dS
=\iiint_V \nabla\cdot\boldsymbol{F}\,dV
である。
V は区分的 C^1 境界を持つ有界領域、\boldsymbol{F} は \overline V の開近傍で C^1 級とする。\boldsymbol n は V から外向きの単位法線であり、空洞の境界では空洞側を向く。左辺は全境界面成分を通る総流束、右辺は内部の発散密度の体積積分である。
Stokes の定理は、向き付けられた曲面 S とその境界 \partial S に対して
\oint_{\partial S}\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r}
=
\iint_S(\nabla\times\boldsymbol{F})\cdot\boldsymbol{n}\,dS
と述べられる。S は向きを選択したコンパクトな区分的 C^1 正則曲面で、境界も区分的 C^1 とし、\boldsymbol{F} は S を含む開集合で C^1 級とする。\partial S が複数の成分を持つとき、左辺は各成分の線積分の和である。境界曲線は、選択した法線 \boldsymbol n に右手の親指を向けたときに指が曲がる方向である。同値に、境界を進行する観察者が頭部を \boldsymbol n の方向へ向けると、曲面は左側に位置する。\boldsymbol n を反転すると境界の向きも反転する。
5各定理の役割
Green の定理は平面領域で、境界曲線に沿う循環を内部の curl の積分へ変換する。Gauss の定理は閉曲面を通過する流束を内部の divergence の積分へ変換する。Stokes の定理は曲面の境界に沿う循環を曲面上の curl の流束へ変換する。
| 定理 | 境界側 | 内部側 |
| Green | 平面境界の循環 | 領域内の回転密度 |
| Gauss | 閉曲面の流束 | 体積内の発散密度 |
| Stokes | 境界曲線の循環 | 曲面上の curl の法線成分 |
6なぜ同一原理と言えるか
領域を小片へ分割すると、内部で接する人工的な境界の寄与は向きが逆になるため相殺される。最後に残るのは、穴や空洞の境界も含む領域全体の境界である。この相殺が、Green・Gauss・Stokes の背後にある共通構造である。
7Green の計算例
\boldsymbol{F}=(-y/2,x/2) とし、D を単位円板とする。Green の定理により、
\oint_{\partial D}\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r}
=\iint_D 1\,dA=\pi
である。境界を直接パラメータ表示しても同じ値を得る。この一致が、境界積分と内部積分の対応を示す。
直接計算では、\partial D を \boldsymbol{r}(t)=(\cos t,\sin t)、0\le t\le 2\pi と置けば、
\boldsymbol{F}(\boldsymbol{r}(t))=\left(-\frac{\sin t}{2},\frac{\cos t}{2}\right),\qquad
\boldsymbol{r}'(t)=(-\sin t,\cos t)
だから
\boldsymbol{F}(\boldsymbol{r}(t))\cdot\boldsymbol{r}'(t)=\frac12
となり、
\oint_{\partial D}\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r}
=\int_0^{2\pi}\frac12\,dt
=\pi
を得る。Green の定理は、この直接計算を内部積分へ変換し、境界積分と内部積分の構造的関係を明確にする。
8Gauss の計算例
\boldsymbol{F}=(x,y,z) とし、V を原点を中心とする半径 R>0 の球とする。\nabla\cdot\boldsymbol{F}=3 なので、
\iiint_V\nabla\cdot\boldsymbol{F}\,dV=3\cdot\frac{4\pi R^3}{3}=4\pi R^3
である。一方、境界球面では \boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{n}=R であり、面積は 4\pi R^2 なので流束も 4\pi R^3 である。
この例は、発散が各点で一定値 3 を取る場の総流束が、体積に比例して増加することを示している。Gauss の定理は、表面の直接積分より内部の divergence のほうが簡単な場合に特に有効である。
9Stokes の計算例
\boldsymbol{F}=(-y/2,x/2,0) とし、S を xy 平面上の単位円板、法線を上向きとする。\nabla\times\boldsymbol{F}=(0,0,1) なので、
\iint_S(\nabla\times\boldsymbol{F})\cdot\boldsymbol{n}\,dS=\pi
である。境界は反時計回りの単位円であり、線積分も \pi になる。Green の定理は、この平面 Stokes 定理の形として解釈できる。
10直接計算と定理利用の使い分け
境界が単純で、場の表示も簡単なら直接計算で十分である。一方、境界が複雑で内部量のほうが簡単なら、Green・Gauss・Stokes により計算が容易な積分表示へ変換することが有効である。
11微分形式への接続
これら三つの定理は、次元や積分対象が異なるだけで、内部の微分と境界の積分を結ぶ同一構造を持つ。この構造は微分形式により一般化される。
data/lecture/math/exterior-algebra/general-stokes-theorem-and-vector-calculus-dictionary.lecture.n.md
12Laplacian への接続
u を \overline V の開近傍で C^2 とし、\boldsymbol F=\nabla u を Gauss の発散定理へ代入すると、
\iint_{\partial V}\nabla u\cdot\boldsymbol n\,dS
=\iiint_V\Delta u\,dV
となる。左辺は \partial u/\partial n=\nabla u\cdot\boldsymbol n の境界面上の面積分、すなわち勾配の外向き流束であり、内部の Laplacian と結ばれる。次講義では \Delta u=\nabla\cdot\nabla u の意味と物理的応用を扱う。
data/lecture/math/vector-calculus/laplacian-and-physical-applications.lecture.n.md
13特異点がある場合
領域の向き、境界、滑らかさを確認する。特異点が領域内部にある場合は、その点を除外した領域で再構成する必要がある。たとえば
\boldsymbol{F}(x,y)=\left(-\frac{y}{x^2+y^2},\frac{x}{x^2+y^2}\right)
は原点で定義されないため、原点を含む円板へ Green の定理をそのまま適用してはならない。
原点の周囲の小円板を除いて環状領域へ Green の定理を適用すると、外周は反時計回り、内周は時計回りに向き付けられる。この場では領域内の curl は 0 だが、外周の循環 2\pi と内周の循環 -2\pi が相殺する。特異点を除外するときは、新たに生じる内側境界の寄与を捨ててはならない。
14関連リンク
data/lecture/math/vector-calculus/vector-calculus-portal.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/line-integrals-and-conservative-fields.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/surface-integrals-and-flux.lecture.n.md