線積分と保存場
mathvector-calculusline-integrallecture
1導入
この講義では、線積分を曲線の接方向に沿う場の成分を総和する操作として理解する。
2用語と定義
U\subset\mathbb R^n を開集合とし、\boldsymbol r:[a,b]\to U を向き付けられた区分的 C^1 曲線とする。連続スカラー場 g:U\to\mathbb R のスカラー線積分を
\int_C g\,ds=\int_a^b g(\boldsymbol r(t))\|\boldsymbol r'(t)\|\,dt
と定義する。連続ベクトル場 \boldsymbol F:U\to\mathbb R^n の仕事線積分を
\int_C\boldsymbol F\cdot d\boldsymbol r
=\int_a^b\boldsymbol F(\boldsymbol r(t))\cdot\boldsymbol r'(t)\,dt
と定義する。本講義では主に後者を扱う。
保存場 は、ある \phi\in C^1(U) により \boldsymbol{F}=\nabla\phi と表現できるベクトル場である。この \phi をポテンシャル関数という。
3方針
ベクトル場の線積分では、移動方向と同じ成分だけが仕事に寄与する。そのため内積 \boldsymbol{F}(\boldsymbol{r}(t))\cdot\boldsymbol{r}'(t) を積分する。保存場では、線積分は経路ではなく始点と終点だけに依存する。
4厳密な説明
前掲の定義により、
\int_C \boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r}
=\int_a^b \boldsymbol{F}(\boldsymbol{r}(t))\cdot \boldsymbol{r}'(t)\,dt
である。\boldsymbol{F}=\nabla\phi なら、この値は \phi(\boldsymbol{r}(b))-\phi(\boldsymbol{r}(a)) になる。
\psi:[\alpha,\beta]\to[a,b] を連続かつ区分的 C^1 の全単射とし、\boldsymbol\rho=\boldsymbol r\circ\psi とする。\psi が単調増加なら置換積分により仕事線積分の値は変わらない。\psi が単調減少なら曲線の向きが反転し、値の符号が反転する。スカラー線積分は \|\boldsymbol r'\| を使うため、向きの反転では符号を変えない。
5基本定理としての保存場
\boldsymbol{F}=\nabla\phi なら、曲線の C^1 な各区間で連鎖律により
\frac{d}{dt}\phi(\boldsymbol{r}(t))=\nabla\phi(\boldsymbol{r}(t))\cdot\boldsymbol{r}'(t)
である。したがって線積分は端点の値の差だけで決定される。経路を変更しても値が変化しない理由はここにある。
本講義では、U の任意の 2 点を U 内の区分的 C^1 曲線で結べるとき、領域 U は経路連結であるという。開集合では、この条件は連続曲線を用いる通常の定義と同値である。さらに U を開かつ経路連結とし、\boldsymbol F を連続とする。このとき次の 3 条件は同値である。
- \boldsymbol F=\nabla\phi となる \phi\in C^1(U) が存在する。
- U 内の 2 点を結ぶ仕事線積分が経路によらない。
- U 内のすべての区分的 C^1 閉曲線で \oint_C\boldsymbol F\cdot d\boldsymbol r=0 である。
1 から 2 は前掲の連鎖律で従う。2 を仮定し、基点 \boldsymbol p_0 を固定して
\phi(\boldsymbol p)=\int_{\boldsymbol p_0}^{\boldsymbol p}\boldsymbol F\cdot d\boldsymbol r
と定義する。経路独立性により、この値は経路の選択によらない。U は開集合であるため、十分に小さい h に対して \boldsymbol p から \boldsymbol p+h\boldsymbol e_i までの線分は U 内に含まれる。したがって
\frac{\phi(\boldsymbol p+h\boldsymbol e_i)-\phi(\boldsymbol p)}{h}
=\frac{1}{h}\int_0^h F_i(\boldsymbol p+s\boldsymbol e_i)\,ds
\longrightarrow F_i(\boldsymbol p)
が \boldsymbol F の連続性から成立する。よって \partial_i\phi=F_i であり、\phi\in C^1(U) かつ \nabla\phi=\boldsymbol F を得る。2 から 3 は、任意の閉曲線と同一の始点および終点をもつ定値曲線の積分を比較すれば従う。3 から 2 は、2 本の経路の 1 本を逆向きにして連結し、得られる閉曲線に 3 を適用すれば従う。
6領域条件と反例
U\subset\mathbb R^2 または U\subset\mathbb R^3 を開かつ単連結とし、\boldsymbol F\in C^1(U) とする。単連結とは、U 内の任意の閉曲線を U の外へ出ずに 1 点へ連続的に縮められることである。このとき二次元では \operatorname{curl}_{2D}\boldsymbol F=0、三次元では \nabla\times\boldsymbol F=\boldsymbol0 が U の全点で成立すれば、\boldsymbol F は保存場である。
前講義で予告したように、領域に穴がある場合は curl が 0 だけでは十分でない。U=\mathbb{R}^2\setminus\{\boldsymbol0\} 上の
\boldsymbol{F}=\left(-\frac{y}{x^2+y^2},\frac{x}{x^2+y^2}\right)
は C^\infty で、U の全点で \operatorname{curl}_{2D}\boldsymbol F=0 である。しかし \boldsymbol r(t)=(\cos t,\sin t)、0\le t\le2\pi とすると \boldsymbol F(\boldsymbol r(t))=\boldsymbol r'(t) なので、反時計回りの単位円に沿う線積分は 2\pi になる。したがって curl が 0 という局所条件だけでは保存場を保証できない。単連結は、この含意を保証する標準的な十分条件であり、個々の保存場に必要な条件ではない。
7物理例
力場が保存場である場合、仕事は始点と終点だけで決定される。位置エネルギーを V とする物理学の規約では \boldsymbol F=-\nabla V なので、本講義のポテンシャルは \phi=-V に対応する。重力場のような保存力では、閉曲線に沿う仕事は 0 である。
8判別の手順
- 領域内のすべての区分的 C^1 閉曲線で線積分が 0 なら、経路独立と保存場を導ける。
- 開かつ単連結な領域の C^1 場で curl が 0 なら保存場である。
- 穴のある領域では、curl が 0 であっても経路依存が残ることがある。
9具体例 1: 保存場
\phi(x,y)=x^2y とすると、\nabla\phi=(2xy,x^2) である。点 (0,0) から (1,1) までの任意の区分的 C^1 曲線 C に対して、
\int_C (2xy,x^2)\cdot d\boldsymbol{r}=\phi(1,1)-\phi(0,0)=1
である。直線経路または折線経路のいずれを選択しても、値は変化しない。
10具体例 2: 非保存場
\boldsymbol{F}=(-y,x) を単位円 \boldsymbol{r}(t)=(\cos t,\sin t)、0\le t\le 2\pi に沿って積分する。このとき \boldsymbol{F}(\boldsymbol{r}(t))=(-\sin t,\cos t)、\boldsymbol{r}'(t)=(-\sin t,\cos t) なので、
\oint_C\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r}
=\int_0^{2\pi}1\,dt=2\pi
である。閉曲線の積分が 0 でないため、この場は保存場ではない。
11関連リンク
data/lecture/math/vector-calculus/vector-calculus-portal.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/gradient-divergence-and-curl.lecture.n.md
data/lecture/math/multivariable-calculus/parametrized-curves-and-surfaces.lecture.n.md
data/lecture/math/analysis/introduction-to-line-and-surface-integrals.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/surface-integrals-and-flux.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/green-gauss-and-stokes-theorems.lecture.n.md