Laplacian と物理応用
mathvector-calculuslaplacianlecture
1導入
この講義では、Laplacian が局所平均からの偏差を特徴づけ、拡散・波動・ポテンシャルを記述する中心的な演算子であることを説明する。
2用語と定義
\Omega\subset\mathbb R^n を開集合とする。Laplacian は、f\in C^2(\Omega) であるスカラー場に対して
\Delta f=\nabla\cdot\nabla f
で定義される二階線形微分演算子である。\mathbb R^n の直交座標では
\Delta f=\sum_{i=1}^n\frac{\partial^2f}{\partial x_i^2}
となる。以下では Euclidean 空間のスカラー Laplacian を扱う。前講義では Gauss の発散定理から、\Delta u の体積積分が勾配 \nabla u の外向き境界流束に等しいことを確認した。この講義では、その局所的な意味を平均値との関係から解説する。
3方針
Laplacian は、一点の値と、その点を囲む小球面での平均との偏差の主要項を与える。この関係を Taylor 展開で導出してから、熱方程式・波動方程式・Laplace 方程式・Poisson 方程式へ接続する。
4局所平均からの差
f\in C^2(\Omega)、x\in\Omega とし、x を中心とする半径 r の閉球が \Omega に含まれるとする。その境界球面を \partial B_r(x) と書き、球面積で正規化した球面平均を
M_r f(x)=\frac{1}{|\partial B_r(x)|}\int_{\partial B_r(x)}f\,dS
と定義する。r\to0 で Taylor 展開すると、
M_r f(x)=f(x)+\frac{r^2}{2n}\Delta f(x)+o(r^2)
を得る。ここで o(r^2) は、r\to0 で o(r^2)/r^2\to0 を満たす剰余項を表す。一次の項と二階偏導関数行列 Hessian の非対角項は球面上の対称性で平均が 0 になり、対角項の和だけが Laplacian として残る。
したがって \Delta f(x)>0 なら、主要項が剰余項を支配する十分小さい r に対して、周囲の平均は中心の値より高い。\Delta f(x)<0 なら逆である。ただし、一点で \Delta f(x)=0 というだけでは、有限半径の平均と f(x) が等しいとは限らない。
一次元では、Laplacian は二階微分そのものであり、グラフの局所的な凹凸を特徴づける。高次元では、互いに直交する方向の二階変化を合計する。
\Delta f=0 が \overline{B_R(x)} の近傍で成立するとする。球面平均を単位球面 S^{n-1} 上の積分として微分し、Gauss の発散定理を適用すると、0<r<R で
\frac{d}{dr}M_r f(x)
=\frac{1}{|S^{n-1}|r^{n-1}}\int_{\partial B_r(x)}\nabla f\cdot\boldsymbol n\,dS
=\frac{1}{|S^{n-1}|r^{n-1}}\int_{B_r(x)}\Delta f\,dV=0
となる。したがって M_r f(x) は r に依存せず、r\to0 で M_r f(x)\to f(x) であるため、すべての 0<r<R において M_r f(x)=f(x) が成立する。これが調和関数の平均値性質である。
5代表例
以下では、均質・等方・定係数の最も単純な古典モデルと十分滑らかな古典解を考える。熱方程式では空間について C^2、時間について C^1、波動方程式では空間・時間について C^2、Laplace・Poisson 方程式では空間について C^2 を仮定する。
熱拡散率 \kappa>0 を持つ熱方程式は
u_t=\kappa\Delta u
であり、温度が周囲との差を均すように変化することを表す。
Laplace 方程式
\Delta u=0
は、内部に源のない平衡状態を表す。この解が調和関数である。
| 方程式 | Laplacian の役割 |
| 熱方程式 u_t=\kappa\Delta u | 周囲との差を均して温度を拡散させる |
| 波動方程式 u_{tt}=c^2\Delta u | 空間的な張力や曲がりを加速度へ変換する |
| Poisson 方程式 -\Delta u=f | ここではこの符号規約を採用し、源 f からポテンシャルを決定する |
| Laplace 方程式 \Delta u=0 | 源のない平衡を表す |
6調和関数の例
u(x,y)=x^2-y^2 では u_{xx}=2、u_{yy}=-2 であるため、\Delta u=0 である。このような関数を調和関数という。この関数は、その定義域内に閉包が含まれるすべての球で平均値性質を満たす。
別の例として u(x,y)=\log\sqrt{x^2+y^2} は、原点を除く領域で調和である。ただし原点に特異点があるため、領域を指定せずに全平面の調和関数として扱ってはならない。この例は Green 関数や基本解への入口になる。
7座標系による式の変化
二次元の直交座標では \Delta f=f_{xx}+f_{yy} である。r>0 の極座標では
\Delta f=f_{rr}+\frac{1}{r}f_r+\frac{1}{r^2}f_{\theta\theta}
となる。この式は x=r\cos\theta、y=r\sin\theta に連鎖律を適用し、f_{xx}+f_{yy} を整理して導出できる。r=0 では極座標そのものが特異なので、この表示をそのまま代入しない。同じ Euclidean Laplacian でも座標表示は変化し、1/r などの項は座標変換の結果として現れる。
8単位の確認
熱方程式で u の単位を \mathrm{K}、長さの単位を \mathrm{m} とすると、\Delta u の単位は \mathrm{K/m^2} である。\kappa の単位が \mathrm{m^2/s} なら、\kappa\Delta u は \mathrm{K/s} となり、u_t と一致する。
9混同しやすい点
scalar Laplacian はスカラー場へ作用する。\mathbb R^3 の直交座標では、C^2 級ベクトル場 \boldsymbol F の vector Laplacian を各成分へスカラー Laplacian を作用させて定義でき、
\Delta\boldsymbol F=\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol F)-\nabla\times(\nabla\times\boldsymbol F)
が成立する。右辺を各成分で展開すると混合偏微分の項が相殺し、\Delta F_i だけが残る。曲線座標で「表示成分を単純に二階微分する」だけでは、基底の変化を落とすため同じ演算子にならない。
10どこまで成立するか
ここで扱ったのは Euclidean 空間の Laplacian と均質・等方な定係数モデルである。不均質または異方的な媒質では、たとえば \nabla\cdot(A(x)\nabla u) のような可変係数演算子が現れる。一般の Riemann 多様体では計量から定まる Laplace--Beltrami 演算子を用いる。また、平均値性質は一点の \Delta f=0 からではなく、球を含む領域での調和性から得られる。
11関連リンク
data/lecture/math/partial-differential-equations/heat-wave-and-laplace-equations.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/green-gauss-and-stokes-theorems.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/vector-calculus-portal.lecture.n.md
data/lecture/physics/waves/wave-equation-basics.lecture.n.md