heat・wave・Laplace 方程式
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1導入
この講義では、PDE の代表例を、必要なデータ、情報の依存範囲、保存・散逸、境界の役割という共通軸で比較する。直前の分類では、heat は放物型、wave は双曲型、Laplace は楕円型であることを確認した。この講義では、その型の差異が標準的な定係数モデルに与える影響を解説する。
data/lecture/math/partial-differential-equations/classification-of-second-order-linear-pdes.lecture.n.md
2比較する標準設定
このページでは \kappa>0、c>0 とし、外力・熱源・減衰項を持たない定係数の方程式と、十分滑らかな古典解を考える。heat と wave は 1 空間次元の (x,t)、Laplace は \Omega\subset\mathbb R^n の空間変数で書く。
| モデル | 型 | 方程式 | 時間階数 |
| heat | 放物型 | u_t=\kappa u_{xx} | 1 |
| wave | 双曲型 | u_{tt}=c^2u_{xx} | 2 |
| Laplace | 楕円型 | \Delta u=0 | 時間変数なし |
3方程式だけでは問題が定まらない
PDE の問題は、方程式、領域、データを組み合わせて初めて定まる。全空間 x\in\mathbb R の heat と wave には空間境界がない。有界区間 0<x<L では、heat と wave の両方に端点での Dirichlet・Neumann・Robin などの境界条件が必要である。
- heat は時間について一階なので、初期温度 u(x,0)=f(x) を 1 個与える。
- wave は時間について二階なので、初期変位 u(x,0)=f(x) と初期速度 u_t(x,0)=g(x) を与える。
- Laplace は時間発展を持たず、Dirichlet データ u|_{\partial\Omega}=h などを課す境界値問題として扱う。
有界領域の古典解では、初期時刻と空間境界が接する角でデータが一致する適合条件も必要になる。純 Neumann の Laplace 問題には適合条件と、定数分だけの不定性がある。問題設定の詳細は先の初期値・境界値問題の講義に委ねる。
data/lecture/math/partial-differential-equations/initial-and-boundary-value-problems.lecture.n.md
4heat: 無限伝播と平滑化
全空間 \mathbb R で f\in C_c(\mathbb R) とする。ここで C_c(\mathbb R) は連続で有界な区間の外では 0 になる関数、すなわち連続なコンパクト台の関数を表す。heat の解は熱核
G_t(x)=\frac{1}{\sqrt{4\pi\kappa t}}
\exp\left(-\frac{x^2}{4\kappa t}\right),\qquad t>0
を使って
u(x,t)=\int_{\mathbb R}G_t(x-y)f(y)\,dy
と書ける。これは t>0 で滑らかな古典解になり、t\downarrow0 で f に一様に収束する。G_t(x-y)>0 なので、f\ge0 かつ f\not\equiv0 なら、どれほど離れた x でも t>0 には u(x,t)>0 となる。これは擾乱の影響が正の時刻に全空間へ及ぶ無限伝播速度を表す。熱核の導出は Fourier 変換の講義で扱う。
data/lecture/math/partial-differential-equations/fourier-transforms-and-pdes.lecture.n.md
有界区間 0<x<L、斉次 Dirichlet 条件 u(0,t)=u(L,t)=0 では、L^2 ノルムの二乗は
\frac{d}{dt}\frac12\int_0^L u^2\,dx
=-\kappa\int_0^L u_x^2\,dx\le0
と散逸する。一方、斉次 Neumann 条件 u_x(0,t)=u_x(L,t)=0 では
\frac{d}{dt}\int_0^L u\,dx
=\kappa[u_x]_0^L=0
なので、平均温度が保存される。Neumann 条件でも、L^2 ノルムの二乗に対する同じ部分積分では境界項が消滅するため、この量は非増加である。境界条件が異なれば、保存量と長時間挙動も変わる。
境界条件を満たす空間固有関数で、線形 PDE の時間発展を独立に追える空間形状をモードと呼ぶ。斉次 Dirichlet 条件では \sin(n\pi x/L) が空間モードであり、その時間振幅を組み合わせた
u_n(x,t)=e^{-\kappa(n\pi/L)^2t}\sin(n\pi x/L)
を代入すれば方程式と境界条件を満たす。n が大きい高周波ほど速く減衰することが、平滑化の仕組みを示唆する。なぜ正弦が選ばれるか、一般初期値をどう重ね合わせるかは次の変数分離の講義に委ねる。
5wave: 有限伝播と energy
全空間 x\in\mathbb R、t\ge0 で f\in C^2(\mathbb R)、g\in C^1(\mathbb R) とすると、Cauchy 問題の d'Alembert 公式は
u(x,t)=\frac{f(x-ct)+f(x+ct)}{2}
+\frac{1}{2c}\int_{x-ct}^{x+ct}g(s)\,ds
である。点 (x,t) の値は、初期線の区間 [x-ct,x+ct] のデータだけに依存する。この依存領域が、波の影響が速度 c を超えて伝わらないことを表す。波動演算子
\partial_t^2-c^2\partial_x^2
=(\partial_t-c\partial_x)(\partial_t+c\partial_x)
の因数分解と特性座標 x-ct,x+ct が、この公式の背景にある。有界区間では境界に到達した波の反射を境界条件に従って扱う必要があり、全空間の公式をそのまま使えない。
有界区間で
E(t)=\frac12\int_0^L\left(u_t^2+c^2u_x^2\right)dx
と置くと、無外力では
E'(t)=c^2[u_tu_x]_0^L
である。固定端 u=0 なら端点で u_t=0、自由端 u_x=0 なら端点で u_x=0 なので、どちらも境界流束が消えて E(t)=E(0) となる。境界入力・外力・減衰があれば、energy は一般に変化する。
data/lecture/math/partial-differential-equations/introduction-to-energy-methods.lecture.n.md
6Laplace: 時間発展のない大域的境界依存
Laplacian の講義で、\Delta u=0 の C^2 解を調和関数と呼び、平均値性質を持つことを確認した。ここでは時間に沿う伝播ではなく、境界と内部の大域的な結合に注目する。
たとえば単位円板で、h:\mathbb R\to\mathbb R を連続な 2\pi 周期関数とし、e^{i\alpha}=(\cos\alpha,\sin\alpha) と表記する。Dirichlet データを u(e^{i\varphi})=h(\varphi) とすると、Laplace 方程式の境界表現である Poisson 積分公式
u(re^{i\theta})
=\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}
\frac{1-r^2}{1-2r\cos(\theta-\varphi)+r^2}
h(\varphi)\,d\varphi,
\qquad 0\le r<1
は、1 個の内部点の値が境界全体のデータから決まることを示す。Laplace 方程式には時間変数がないため、これを有限または無限伝播と呼ぶのではなく、静的な大域依存と区別する。
\Omega を有界連結領域とし、u\in C^2(\Omega)\cap C(\overline\Omega) が \Delta u=0 を満たすとする。maximum principle により、u の最大値と最小値は \partial\Omega で達成される。この原理から同じ Dirichlet データを持つ調和関数の一意性が従う。ただし解の存在は別に示る必要があり、純 Neumann 問題は定数だけの不定性を持つ。
data/lecture/math/partial-differential-equations/maximum-principle-basics.lecture.n.md
7同じ軸での比較
| 比較軸 | heat | wave | Laplace |
| 必要な基本データ | 初期値 1 個 | 初期値 2 個 | Dirichlet などの境界値 |
| 有界領域 | 側面境界条件も必要 | 側面境界条件も必要 | 空間境界条件を課す |
| 情報依存 | 正時刻で全空間へ即時に及ぶ | 速度 c の依存領域 | 時間因果なし・境界全体と大域結合 |
| 積分量 | 斉次 Dirichlet・Neumann で二乗積分量が非増加、斉次 Neumann で平均を保存 | 閉じた系で energy を保存 | 時間保存則ではなく静的平衡 |
| 点ごとの制御 | 初期面と側面による maximum principle | 同様の maximum principle なし | 空間境界による maximum principle |
| 典型的な長時間像 | 零 Dirichlet なら 0、斉次 Neumann なら初期平均、固定した非零境界なら定常分布へ緩和 | 有界固定端・無減衰なら一般に振動が継続 | 時間発展を持たない |
熱方程式の maximum principle で値を制御する境界は、初期面と空間境界からなる放物型境界であり、終時刻の上面は含めない。この詳細と Laplace 方程式の maximum principle の証明は、後の専用講義で扱う。
長時間挙動の行は、この講義の 1 次元・定係数・外力および熱源なしという設定において、時間に依存しない斉次または固定境界条件を課した十分正則な解の典型像を示す。
8単位からの確認
熱方程式で u を温度、t を時間、x を長さとすると、\kappa は「長さの 2 乗/時間」の次元を持つ。波動方程式の c は「長さ/時間」であり、実際の伝播速度になる。この次元の差も、拡散長が \sqrt{\kappa t}、波の到達距離が ct と異なることに対応する。
9どこまで成立するか
ここで示した公式と恒等式は、定係数・外力および熱源なし・十分な正則性という仮定に依存する。非線形拡散、減衰、外力、不均一媒質、低正則性のデータでは、保存則・伝播速度・maximum principle の形を改めて確認する必要がある。この講義は解法を完結させず、次の変数分離法、Fourier 解析、maximum principle、energy method が担う役割を明示する。
10関連リンク
data/lecture/math/partial-differential-equations/separation-of-variables-and-fourier-series.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/laplacian-and-physical-applications.lecture.n.md