PDE の初期値問題と境界値問題
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1導入
PDE の問題は、方程式だけでは定まらない。未知関数を考える領域と、どの場所にどの条件を与えるかを組み合わせて、はじめて一つの問題になる。
この講義では、初期値問題・境界値問題・初期境界値問題を区別し、条件が多いか少ないかだけでなく、存在・一意性・安定性と適合条件まで確認する。
2問題を置く集合
\Omega\subset\mathbb R^n を連結な空間領域、\partial\Omega をその境界、T>0 を終端時刻とする。この講義では、\partial\Omega 上の外向き単位法線と発散定理を使用できる程度に境界が滑らかであると仮定する。時間発展を扱うときは、時空領域
Q_T=\Omega\times(0,T)
で u(x,t) を考える。t=0 の断面 \Omega\times\{0\} が初期面、\partial\Omega\times(0,T) が側面境界である。初期条件と境界条件は、異なる集合に置かれる。
3三つの問題形式
初期値問題 は、初期面でデータを与え、その後の時間発展を求める問題である。Cauchy 問題はより一般には初期超曲面にデータを置く問題であり、このトラックでは全空間 \mathbb R^n の t=0 にデータを置く標準例を扱う。
境界値問題 は、境界を持つ領域で境界データを与えて解を求める問題である。このページでは、時間を含まない Laplace 方程式や Poisson 方程式を代表例として扱う。
初期境界値問題 は、境界を持つ空間領域で時間発展を扱い、初期面と側面境界の両方にデータを与える問題である。このページでは主に有界領域を考え、有限区間上の熱方程式や波動方程式を標準例とする。
| 形式 | 方程式を課す場所 | データを与える場所 | 代表例 |
| 初期値問題 | \mathbb R^n\times(0,T) | t=0 | 全空間の transport・heat・wave |
| 境界値問題 | \Omega | \partial\Omega | Laplace・Poisson |
| 初期境界値問題 | \Omega\times(0,T) | t=0 と \partial\Omega\times(0,T) | 有界領域の heat・wave |
4境界条件の三つの型
n を \partial\Omega 上の外向き単位法線とし、法線微分を
\partial_nu=\nabla u\cdot n
と定める。代表的な境界条件は次の三つである。
- Dirichlet 条件: u=g。境界で未知関数の値を指定する。
- Neumann 条件: \partial_nu=h。境界で外向き法線方向の微分を指定する。
- Robin 条件: \alpha u+\beta\partial_nu=r。値と法線微分の線形結合を指定する。\alpha,\beta は同時に 0 ではないとする。
Robin 条件を書くだけで適切性が自動的に従うわけではない。一意性や安定性には、係数の符号や境界の分割に追加仮定が必要である。
境界全体で同じ型を使う必要はない。\Gamma_D と \Gamma_N を重ならない境界部分とし、\partial\Omega=\Gamma_D\cup\Gamma_N と分け、\Gamma_D で Dirichlet 条件、\Gamma_N で Neumann 条件を課すものを混合境界条件という。これは一つの場所で値と法線微分を結合する Robin 条件とは異なる。
Neumann 条件を流束として読むときは符号に注意する。k>0 を熱伝導率とし、熱流束を q=-k\nabla u と定めれば、外向き流束は
q\cdot n=-k\partial_nu
である。したがって「\partial_nu>0」と「外向きの熱流束が正」は同じ意味ではない。どちらをデータとしているかを式から確認する必要がある。
5時間階数と初期条件
標準的な発展方程式では、時間についての階数が必要な初期データの数を示す。
熱方程式
u_t-\kappa\Delta u=0
は時間について一階なので、初期分布 u(x,0)=f(x) を与える。波動方程式
u_{tt}-c^2\Delta u=0
は時間について二階なので、初期変位と初期速度
u(x,0)=f(x),\qquad u_t(x,0)=v(x)
を与える。ただし「階数と同数を置けば必ずよい」という規則ではない。方程式に拘束条件がある場合や、データを置く面が方程式の特性的な面である場合は、独立に指定できるデータが変わる。一階 PDE でデータを置ける曲線の条件は、次の特性曲線法で扱う。
6transport 方程式: 条件を置く境界を選ぶ
c>0 として、有界区間 0<x<L の transport 方程式
u_t+cu_x=0
を考える。情報は速度 c で右へ進むので、x=0 は情報が領域へ入る流入境界、x=L は情報が出る流出境界である。初期値 u(x,0)=f(x) に加えて、流入境界の値 u(0,t)=a(t) を指定するのが基本である。流出境界 u(L,t) は内部から運ばれて決まるため、そこにも任意の値を指定すると一般には過剰条件になる。
角 (0,0) では f(0)=a(0) が適合条件になる。また、c<0 なら流入境界は x=L に入れ替わる。この例は、境界条件の場所と個数が幾何学的な端点の数ではなく、特性がどちらから情報を運ぶかで決まることを示す。
7適切性
適切な問題 とは、指定した解のクラスで次の三条件を満たす問題である。
- 存在: 条件を満たす解がある。
- 一意性: 条件を満たす解が一つに定まる。
- 安定性: データを少し変えたとき、解も選んだ尺度で少しだけ変わる。
三条件目は Hadamard の意味での連続依存性である。「公式が書ける」ことだけでは適切性の証明にならない。どの関数空間でデータと解の大きさを測るかも問題設定の一部である。このページでは古典解を念頭に条件の配置を整理し、energy estimate による一意性と連続依存性は後の energy method で扱う。
たとえば熱方程式を時間と逆向きに解いて過去の温度を復元する問題では、空間的に細かく振動する高周波成分の小さな誤差が指数的に増幅される。形式的に解を逆算できても、データへの連続依存性を失えば適切な問題ではない。存在・一意性と安定性を分けて確認する理由がここにある。
data/lecture/math/partial-differential-equations/introduction-to-energy-methods.lecture.n.md
8初期面と境界の適合条件
初期面と側面境界は \partial\Omega\times\{0\} で交わる。この角で二つのデータが矛盾しないための条件を適合条件という。
たとえば熱方程式に
u(x,0)=f(x),\qquad u(x,t)=g(x,t)\quad(x\in\partial\Omega)
という Dirichlet 条件を課し、閉領域まで連続な古典解を求めるなら、少なくとも
f(x)=g(x,0)\qquad(x\in\partial\Omega)
が必要である。Neumann 条件 \partial_nu=h なら、十分滑らかな初期値に対して \partial_nf=h(\cdot,0) が必要になる。さらに高い正則性を要求すれば、方程式を使って得られる高階の適合条件も必要になる。
固定端の一次元波動方程式で u(0,t)=u(L,t)=0 を課す場合、滑らかな古典解には
f(0)=f(L)=0
が必要であり、境界条件を時間微分できる正則性まで要求するなら
v(0)=v(L)=0
も必要である。適合条件が破れていても、弱い意味や t>0 に限れば解を扱える場合があるため、「解が全くない」と一括りにはしない。どの解概念と境界での連続性を要求するかを先に固定する。
9熱方程式: 境界が総量を変える
u_t=\kappa\Delta u を滑らかな有界領域で考える。発散定理により
\frac{d}{dt}\int_\Omega u\,dx
=\kappa\int_{\partial\Omega}\partial_nu\,dS
である。したがって斉次 Neumann 条件 \partial_nu=0 では総量 \int_\Omega u\,dx が保存される。一方、Dirichlet 条件では境界を通じた流出入が一般には 0 でなく、総量は保存されない。この違いは、境界条件が単なる計算上の付属物ではなく、モデルの外部との接続を表すことを示す。
10Laplace・Poisson 方程式: 純 Neumann 問題の例外
Dirichlet 問題では、適切な仮定のもとで境界値が調和関数を一意に定める。これに対し純 Neumann 問題では、u が解なら u+C も同じ法線微分を持つため、解は定数分だけしか定まらない。
さらに
-\Delta u=F\quad\text{in }\Omega,\qquad \partial_nu=h\quad\text{on }\partial\Omega
を積分すると、発散定理から必要条件
\int_\Omega F\,dx=-\int_{\partial\Omega}h\,dS
を得る。Laplace 方程式 F=0 なら、\int_{\partial\Omega}h\,dS=0 が必要である。この条件を満たさないデータには解がない。満たす場合も一意性を得るには、たとえば \int_\Omega u\,dx=0 のような正規化を追加する。
11条件を過不足なく読む
- 方程式、空間領域、時間区間、解概念を最初に固定する。
- 初期値問題・境界値問題・初期境界値問題のどれかを区別する。
- 境界の外向き法線と流束の符号規約を確認する。
- 時間階数だけで機械的に条件数を決めず、特性や拘束条件を確認する。
- 初期面と側面境界の交わりで適合条件を確認する。
- 存在・一意性・安定性を別々の主張として確認する。
- 純 Neumann 問題では積分条件と定数の不定性を確認する。
12どこまで成立するか
このページは滑らかな領域と標準的な線形 PDE を中心に、条件の配置を説明した。境界が滑らかでない場合、係数が不連続な場合、非線形方程式で衝撃波が生じる場合には、古典解ではなく弱解やトレースの理論が必要になる。また、適切性の証明には maximum principle、energy estimate、固有関数展開など、方程式の型に応じた道具が必要である。
13次に読むページ
一階 PDE では、初期データをどの曲線に置けるかを特性曲線法で判定する。二階 PDE では主部を分類し、適切な追加仮定のもとで自然な問題設定と情報伝播を考察する。その後、heat・wave・Laplace 方程式で条件が解の性質をどう変えるかを比較する。
data/lecture/math/partial-differential-equations/method-of-characteristics.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/classification-of-second-order-linear-pdes.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/heat-wave-and-laplace-equations.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/green-gauss-and-stokes-theorems.lecture.n.md