PDE とは何か
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1導入
この講義では、PDE を複数の独立変数に依存する未知関数と、その偏導関数の関係として解釈する方法を説明する。独立変数は空間と時間とは限らず、Laplace 方程式のように複数の空間変数だけを持つ静的な PDE もある。
偏微分方程式 は、複数の独立変数を持つ一つ以上の未知関数と、その偏導関数を含む方程式または方程式系である。この講義ではスカラー値の未知関数を持つ単一の PDE を扱う。たとえば u(x,t) では u が未知関数、x,t が独立変数である。
2階数と線形性
PDE の階数は、方程式に現れる偏導関数のうち最も高い階数である。たとえば
u_t=\kappa u_{xx}
は u_{xx} を含むので PDE 全体としては二階である。ただし時間については一階であり、この二つを混同しない。
線形 PDEでは、未知関数とその各導関数が一乗で現れ、それらの積を含まず、係数は独立変数だけに依存する。既知の係数からなる作用素を L と書けば、L[\alpha u+\beta v]=\alpha L[u]+\beta L[v] が成立する。L[u]=0 と L[u]=f はそれぞれ斉次・非斉次の線形方程式であり、右辺が 0 であることは線形性そのものの条件ではない。一方、u_t=u\,u_x のように未知関数とその導関数の積を含む方程式は非線形である。
3PDE の問題を定める要素
方程式だけでは、どの問題を解くかは定まらない。このトラックでは、まず次の要素を分けて確認する。
- 未知関数と独立変数
- 方程式と係数に置く仮定
- 未知関数を考える定義域
- 初期時刻や境界などに与えるデータ
- どの正則性を持つ解を求めるか
このページでは、指定した連続性と微分可能性を持ち、方程式を領域内部の各点で、データをそれぞれが置かれた集合の各点で満たす解を古典解と呼ぶ。係数の滑らかさやデータとの適合まで含め、どの正則性を要求するかは問題ごとに明記する。
4ODE との違い
ODE と PDE の本質的な違いは、データの名前ではなく、独立変数の個数と微分の種類にある。
| 観点 | ODE | PDE |
| 未知関数 | 1 個の独立変数に依存 | 複数の独立変数に依存 |
| 微分 | 常微分 | 偏微分 |
| 定義域 | 区間 | 平面・空間・時空などの領域 |
| データ | 初期値や端点値など | 初期面や境界の一部など |
ODE にも境界値問題があり、PDE にも空間境界を持たない全空間の問題がある。PDE では定義域の幾何が多様なので、「どこにどのデータを置けるか」を方程式の階数や型とともに判断する必要がある。
5熱方程式を読む
\kappa>0 とし、全空間 x\in\mathbb R、t>0 で
u_t=\kappa u_{xx},\qquad u(x,0)=f(x)
を考える。未知関数は u(x,t)、PDE を課す内部領域は \mathbb R\times(0,\infty)、初期データを置く面は t=0 である。方程式は二階線形 PDE で、時間については一階である。全空間には空間境界がないので、ここでは空間境界条件を課さない。古典解には、たとえば u\in C^{2,1}(\mathbb R\times(0,\infty))\cap C(\mathbb R\times[0,\infty)) を要求する。ここでは C^{2,1} を、u,u_x,u_{xx},u_t が連続である関数のクラスという意味で用いる。
たとえば f(x)=\sin x のとき
u(x,t)=e^{-\kappa t}\sin x
は
u_t=-\kappa e^{-\kappa t}\sin x,
\qquad
u_{xx}=-e^{-\kappa t}\sin x
を満たすので u_t=\kappa u_{xx} であり、u(x,0)=\sin x でもある。したがって、この問題の古典解である。解の候補式を得た場合は、方程式だけでなく定義域とデータも確認する。
6領域が変わるとデータも変わる
同じ熱方程式を有界区間 0<x<L で一意に定まる標準的な初期境界値問題として設定するには、初期データに加えて端点でのデータが必要になる。古典解を閉領域まで連続に求めるなら、初期データと端点データが角で一致する適合条件も確認する。具体的な初期条件・境界条件の種類は次の講義で定義する。
data/lecture/math/partial-differential-equations/initial-and-boundary-value-problems.lecture.n.md
7代表モデルへの地図
外力・熱源のない定係数モデルを記号だけ並べると、\kappa>0、c>0 に対して次のようになる。
| モデル | 方程式 | 時間変数 |
| heat | u_t=\kappa u_{xx} | あり・時間について一階 |
| wave | u_{tt}=c^2u_{xx} | あり・時間について二階 |
| Laplace | \Delta u=0 | なし |
ここで x=(x_1,\ldots,x_n)\in\mathbb R^n とし、\Delta u=\sum_{j=1}^n u_{x_jx_j} は各空間方向の二階偏微分の和である。これらの型、必要なデータ、情報伝播、保存・散逸の違いは後の講義で仮定とともに比較する。方程式の名前だけで存在・一意性・安定性を結論してはならない。
8読解チェックリスト
- 未知関数と独立変数は何か。
- PDE 全体の階数と、時間についての階数はそれぞれ何か。
- 線形か非線形か。係数にどの仮定があるか。
- 定義域は全空間か有界領域か。
- どこにどのデータを置き、どの解のクラスを求めるか。
- 候補は方程式とすべてのデータを満たすか。
9次の分岐
まず初期値問題・境界値問題・初期境界値問題を区別する。その後、一階 PDE では特性曲線法へ、二階線形 PDE では主部による型分類へ進む。代表モデルの比較は、その分類を確認してから行う。
data/lecture/math/partial-differential-equations/method-of-characteristics.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/classification-of-second-order-linear-pdes.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/heat-wave-and-laplace-equations.lecture.n.md
10どこまで成立するか
このページでは十分に滑らかな古典解を入口にした。古典微分を持たない関数も扱えるようにするには、関数空間を指定し、試験関数に対する積分恒等式や分布微分で方程式を満たす意味を定める。このような弱解に許す正則性や一意性の条件は、方程式ごとに確認する。
11関連リンク
data/lecture/math/partial-differential-equations/partial-differential-equations-portal.lecture.n.md