特性曲線法
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1導入
この講義では、一階 PDE を特性曲線に沿って ODE へ還元し、その ODE から局所的な古典解を再構成する方法を説明する。ただし、データを置く曲線が特性方向と平行な場合や、異なる特性が交差する場合には、存在・一意性・滑らかさが失われうる。
2用語と定義
特性曲線 は、PDE の微分方向に沿って進む曲線であり、その上で偏微分方程式が ODE に還元される。
3一般形と特性 ODE
(x,t,z) の開集合 D\subset\mathbb R^3 で a,b,F\in C^1(D) とする。準線形とは、最高階の微分が線形に現れ、その係数が独立変数と未知関数に依存してよい形である。このページでは準線形の一階 PDE
a(x,t,u)u_x+b(x,t,u)u_t=F(x,t,u)
に対し、z(s)=u(x(s),t(s)) と置く。連鎖律から
\frac{dz}{ds}=u_x\frac{dx}{ds}+u_t\frac{dt}{ds}
なので、特性方程式
\frac{dx}{ds}=a(x,t,z),\qquad
\frac{dt}{ds}=b(x,t,z),\qquad
\frac{dz}{ds}=F(x,t,z)
を得る。C^1 係数なら、この ODE は各初期点の近くで局所的に一意な解を持つ。F\equiv0 ならすべての特性上で z、すなわち u が保存される。一般には z も ODE に従って変化する。
4データを置く曲線
区間 I 上で x_0,t_0,h\in C^1(I) とし、(x_0(r),t_0(r),h(r))\in D を満たす初期曲線とデータを
\gamma(r)=(x_0(r),t_0(r)),\qquad
u(x_0(r),t_0(r))=h(r)
とする。曲線上の特性方向は (a,b) である。初期曲線と特性方向が横断する、すなわち
x_0'(r)b(x_0,t_0,h)-t_0'(r)a(x_0,t_0,h)\ne0
であるとき、この初期曲線を非特性的という。この行列式は、(r,s) から (x,t) への特性座標写像が初期曲線の近くで局所的に逆写像を持つための条件である。したがって特性 ODE で得た z(r,s) を u(x,t) として戻せる。
実際、逆写像を (r,s)=(r(x,t),s(x,t)) とし、u(x,t)=z(r(x,t),s(x,t)) と定義する。特性 ODE と連鎖律から
z_s=u_x\,x_s+u_t\,t_s=a(x,t,u)u_x+b(x,t,u)u_t=F(x,t,u)
が成立する。また s=0 では (x,t,z)=(x_0(r),t_0(r),h(r)) なので、u(x_0(r),t_0(r))=h(r) も成立する。したがって、ODE から再構成した u は PDE と初期条件の双方を満たす。
正規形
u_t+A(x,t,u)u_x=C(x,t,u)
で x_0(r)=r, t_0(r)=0 とすれば、上の行列式は 1 である。したがって、h\in C^1(I) で持ち上げた曲線が D 内にある限り、標準的な t=0 の初期線は非特性的であり、局所古典解を構成するためのデータを置ける。
この構成が有効なのは、持ち上げた特性 (x,t,z) が D の中にあり、ODE 解が存在し、特性座標写像の Jacobian が 0 でない範囲である。解の定義域はこの写像の像であり、自動的に全空間・全時刻へ広がるわけではない。大域解には、ODE の大域存在と写像の大域的な一対一性・到達性を別に示す必要がある。
行列式が 0 の特性的な曲線に任意のデータを置くと、同じ特性上でデータが矛盾して解が存在しない場合や、特性の外側へ値を決められず一意性を失う場合がある。条件は曲線の本数だけでなく、PDE の微分方向との位置関係で判断する。
5定係数 transport の具体例
g\in C^1(\mathbb R) とし、全空間の Cauchy 問題
u_t+2u_x=0,\qquad u(x,0)=g(x)
を考える。特性曲線は x-2t=\xi であり、その上では du/dt=u_t+2u_x=0 である。したがって
u(x,t)=g(x-2t)
となる。初期形状が速度 2 で右方向へ移動する。
6生成・消滅項がある場合
c,\lambda\in\mathbb R を定数、g\in C^1(\mathbb R) とし、
u_t+cu_x=\lambda u,\qquad u(x,0)=g(x)
を考える。特性は x=\xi+ct であり、その上では
\frac{d}{dt}u(\xi+ct,t)=\lambda u(\xi+ct,t)
となる。したがって
u(x,t)=e^{\lambda t}g(x-ct)
である。形は速度 c で移動するが、値は \lambda に応じて増幅または減衰する。「特性に沿って一定」は右辺が 0 の場合だけであり、特性曲線法そのものは値が変わる ODE にも適用できる。
7変係数の例
g\in C^1(\mathbb R) とし、u_t+xu_x=0 を考える。特性曲線は x'=x,\ t'=1 を満たす。したがって x(t)=Ce^t であり、xe^{-t} が保存される。初期条件 u(x,0)=g(x) なら、u(x,t)=g(xe^{-t}) となる。
ここでは初期点 \xi と時刻 t から x=\xi e^t を得る。逆写像 \xi=xe^{-t} が存在するため、特性上の値を u(x,t) として戻せる。一般の問題でも、特性 ODE を解くだけでなく、特性のラベルと時刻から空間点への写像が一対一である範囲を確認する必要がある。その範囲が古典解の定義域になる。
8Burgers 方程式と特性交差
非線形の例として g\in C^1(\mathbb R) を仮定し、
u_t+uu_x=0,\qquad u(x,0)=g(x)
を考える。初期点 \xi から出る特性上では u=g(\xi) が一定なので、
x=\xi+t g(\xi),\qquad u=g(\xi)
である。\xi から x への写像の微分は
\frac{\partial x}{\partial\xi}=1+t g'(\xi)
となる。この量が 0 でない間は、\xi を (x,t) から局所的に復元でき、古典解を構成できる。ある \xi で 1+t g'(\xi)=0 になると特性座標写像が局所可逆性を失い、一価で滑らかな古典解をこの構成のまま続けられない。圧縮が進む場合は、その後に異なる特性が同じ点へ到達して交差する。
さらに陰関数を微分すると、古典解の範囲で
u_x(x,t)=\frac{g'(\xi)}{1+t g'(\xi)}
となる。したがって座標写像の退化と同時に、分母が 0 へ近づいて勾配が発散しうる。
特に
m=\inf_\xi g'(\xi)
が -\infty<m<0 なら、最初の座標退化・勾配破綻時刻の候補は
T_*=-\frac{1}{m}
である。ただしこの式を厳密な破綻時刻として使うには、g の正則性や下限の達成などを確認する必要がある。g'(\xi)\ge0 が全ての \xi で成立するなら、正の時刻にはこの機構による特性交差は起こらない。交差後は保存則の積分形に基づく弱解と、解を選ぶ entropy 条件が必要になる。これらは後の transport と保存則の講義で定義する。
9不適用の例
二階 PDE では、一階の方向微分を ODE へ変換する構造が直接には成立しない。たとえば熱方程式 u_t=\kappa u_{xx} は拡散を含むため、単一の曲線に沿って値が保存される問題ではない。
二階 PDE にも特性方向という概念はあるが、ここで扱った三本の特性 ODE による直接の再構成とは別の理論である。二階主部の特性と型は次の分類講義で扱う。
data/lecture/math/partial-differential-equations/classification-of-second-order-linear-pdes.lecture.n.md
10どこまで成立するか
特性曲線法で古典解を構成するには、特性 ODE の局所存在と一意性、初期曲線の非特性条件、座標写像の局所可逆性を確認する必要がある。係数が滑らかでない場合、ODE 自体の一意性が失われる場合、特性が交差する場合には、この手順をそのまま続けられない。
11関連リンク
data/lecture/math/differential-equations/first-order-ode-solution-diagnostics.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/initial-and-boundary-value-problems.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/transport-equations-and-conservation-laws.lecture.n.md