transport 方程式と保存則
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1導入
この講義では、transport 方程式を量が流れに沿って移動する式として確認し、保存則との関係を説明する。前の Green 関数までで二階線形 PDE の構成法を確認したので、ここでは特性曲線法で扱った一階 PDE へ戻り、不連続を含む非線形問題まで進む。
2基本形
u_t+c u_x=0
は一定速度 c で形状が移動する transport 方程式である。これは流束を f(u)=cu とした保存則でもある。特性曲線 x-ct=\text{constant} に沿って u は保存される。
初期条件を u(x,0)=g(x) とすると、解は
u(x,t)=g(x-ct)
である。正の c なら波形は右へ速度 c で移動する。熱方程式のように形が滑らかに崩れるのではなく、初期形状が平行移動することが特徴である。
3保存則
保存則 は、密度 u と流束 f(u) の間に
u_t+f(u)_x=0
の関係があることをいう。u(x,t) は単位長あたりの保存量、f(u(x,t)) は単位時間に点 x を右向きに通過する量を表す。
4積分形から PDE へ
区間 [a,b] に含まれる量を \int_a^b u(x,t)\,dx とする。保存される量の変化は、端点から出入りする流束で決定されるため、
\frac{d}{dt}\int_a^b u(x,t)\,dx=f(u(a,t))-f(u(b,t))
となる。u が十分に滑らかなら、積分の時間微分と微積分学の基本定理により
\int_a^b\left(u_t+f(u)_x\right)\,dx=0
である。これがすべての [a,b] で成立するため、u_t+f(u)_x=0 を得る。これが積分形を局所化する、という意味である。逆に PDE を [a,b] で積分すれば積分形へ戻る。
全実数直線で u(\cdot,t)\in L^1(\mathbb R)、すなわち \int_{\mathbb R}|u(x,t)|\,dx<\infty とし、f(u(x,t))\to0 が x\to\pm\infty のとき成立するとする。さらに積分の時間微分と極限を交換できるだけ十分な正則性を仮定すれば、a\to-\infty、b\to\infty として
\frac{d}{dt}\int_{\mathbb R}u(x,t)\,dx=0
を得る。つまり、局所的な流出入があっても、無限遠から流入・流出しなければ総量は保存される。
5弱解は積分形を満たす
後で見るように、非線形保存則では滑らかな初期値からも衝撃波が生じうる。衝撃波では u_x が通常の関数として存在しないため、PDE を各点で満たす古典解ではなく、積分を通して保存則を満たす弱解を使う。まず u と f(u) は局所可積分、すなわち任意の有界な時空領域で絶対値の積分が有限であるとする。これは u,f(u)\in L^1_{\mathrm{loc}}(\mathbb R\times[0,\infty)) と書く。
局所可積分な初期値 g\in L^1_{\mathrm{loc}}(\mathbb R) による u(x,0)=g(x) に対し、t=0 まで滑らかで、x 方向と t 方向の十分遠くでは 0 になる試験関数 \varphi\in C_c^\infty(\mathbb R\times[0,\infty)) を任意に取る。このとき
\int_0^\infty\!\int_{\mathbb R}
\left(u\varphi_t+f(u)\varphi_x\right)\,dx\,dt
+\int_{\mathbb R}g(x)\varphi(x,0)\,dx=0
を満たす u を弱解という。滑らかな解なら、部分積分によりこの式は元の PDE と初期条件に戻る。この定義は u 自身の微分を要求しないため、不連続を許す。
6有限伝播速度
transport 方程式では、初期分布の情報が特性曲線に沿って移動する。この性質は熱方程式の拡散と対照的である。不連続初期値がある場合は、不連続も特性に沿って伝播する。非線形保存則で不連続を許した後の有限伝播には、後で述べる entropy 条件による解の選択も必要である。
7非線形保存則と特性の交差
u_t+f(u)_x=0 は u_t+f'(u)u_x=0 と書ける。値 u により特性速度 f'(u) が変化するため、大きい値と小さい値が異なる速度で進む。特性が交差すると古典解は破綻し、衝撃波を含む弱解が必要になる。
不連続が速度 s で移動し、左状態を u_L、右状態を u_R とすると、Rankine--Hugoniot 条件は
s=\frac{f(u_L)-f(u_R)}{u_L-u_R}
である。実際、不連続をまたぐ細い時空領域に積分保存則を適用すると
s(u_L-u_R)=f(u_L)-f(u_R)
という収支を得る。これを u_L\ne u_R のもとで s について解いたものが Rankine--Hugoniot 条件である。ただし、この条件だけでは弱解は一意に決まらない。
8entropy 条件と Burgers 方程式
このページで扱う空間一次元のスカラー保存則では、entropy 条件 は、複数の弱解から物理的に適切な解を選択する許容条件である。標準的な仮定のもとでは、微小な粘性を加えた
u_t+f(u)_x=\varepsilon u_{xx},\qquad \varepsilon>0
の \varepsilon\downarrow0 で得られる極限が Kruzhkov entropy 解と一致する。この講義では vanishing viscosity を選択原理として使用し、その極限の存在・収束・一意性の証明は射程外とする。f''(u)>0 の凸流束で u_L>u_R の shock なら、Lax entropy 条件
f'(u_L)>s>f'(u_R)
は左右の特性曲線が shock へ流入することを要求する。
二つの初期値 g_1,g_2 と、それらに対応する entropy 解 u_1,u_2 が共通の区間 I に値を取り、\sup_{v\in I}|f'(v)|\le M<\infty とする。標準的な局所 L^1 収縮評価は、任意の a<b に対して
\int_a^b|u_1(x,t)-u_2(x,t)|\,dx
\le\int_{a-Mt}^{b+Mt}|g_1(x)-g_2(x)|\,dx
を与える。したがって g_1=g_2 が [a-Mt,b+Mt] で成立すれば、u_1=u_2 は時刻 t の [a,b] でほとんどいたるところ成立する。この不等式が entropy 解の有限伝播速度を厳密に表す。局所収縮定理の証明はこの講義の射程外である。
代表例は f(u)=u^2/2 とした Burgers 方程式
u_t+uu_x=0
である。初期値が x<0 で u_L、x>0 で u_R となる Riemann 問題を考える。u_L=1、u_R=0 なら Rankine--Hugoniot 条件から s=1/2 であり、1>s>0 なので entropy 条件を満たす shock になる。反対に u_L=0、u_R=1 では特性が扇状に開き、t>0 で
u(x,t)=
\begin{cases}
0, & x/t\le0,\\
x/t, & 0<x/t<1,\\
1, & x/t\ge1
\end{cases}u(x,t)=
\begin{cases}
0, & x/t\le0,\\
x/t, & 0<x/t<1,\\
1, & x/t\ge1
\end{cases}
という希薄波 (rarefaction wave) が entropy 解になる。
9図式による確認
定係数 transport では、特性曲線は x-ct=\text{constant} の平行線である。非線形保存則では、特性の傾きが u に依存する。扇状に広がれば rarefaction、交差すれば shock が発生する。この図式は特性曲線法と保存則を接続する。
10どこまで成立するか
非線形保存則では、弱解の存在だけでなく、entropy 条件による一意性、初期値への安定性、shock 同士の相互作用を調べる理論が必要になる。このページでは空間一次元の凸流束への入口だけを扱った。
11関連リンク
data/lecture/math/partial-differential-equations/introduction-to-green-functions.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/method-of-characteristics.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/heat-wave-and-laplace-equations.lecture.n.md