一階微分方程式の解法診断
mathdifferential-equationsfirst-orderlecture
1導入
この講義では、一階方程式を構造が明瞭で必要な変形が少ない型から順に診断し、解法を選択する方法を説明する。1 つの方程式が複数の型に属することがあるため、診断木は排他的分類ではなく優先手順として読む。
2診断順序の根拠
診断の順序は、確認に必要な変形量で決定する。変数分離形と自律方程式は式の因子構造や右辺の依存関係を直接確認できる。一階線型は、係数が x のみに依存し、y と y' が線型に現れるかを確認する。完全微分方程式、Bernoulli 型、同次形は、それぞれ微分形式の変換や置換を必要とするため、その後に確認する。
この順序を採用すると、単純な構造を複雑な置換で覆う誤用を避けられる。診断は計算の前処理であり、解法そのものではない。
3診断木
- 右辺の定義域と、これから割る因子が 0 になる場合を確認する。
- y'=F(y) なら自律方程式として F(c)=0 の平衡解 y=c を先に保全する。非平衡枝は変数分離できる。
- y'=f(x)g(y) に整理できるなら変数分離を第一候補にする。ただし g(y)=0 の定数解を除外しない。
- y'+P(x)y=Q(x) に整理できるなら積分因子を用いる。変数分離形にもなる場合は、計算手順が短い方法を選択する。
- M(x,y)dx+N(x,y)dy=0 なら、完全性 M_y=N_x と領域条件を確認する。
- y'+P(x)y=Q(x)y^n なら Bernoulli 置換 u=y^{1-n} を検討する。
- y'=F(y/x) なら、x\ne0 の区間で v=y/x の置換を検討する。
4判定表
| 型 | 判定語 | 典型的な誤判定 |
| 変数分離形 | x の因子と y の因子に分解できる | x+y を積のように扱う |
| 一階線型 | 係数が x のみに依存し、y,y' が線型に出現する | yy' や y^2 を含むのに線型と判定する |
| 完全微分方程式 | Mdx+Ndy の形 | 領域条件を省略する |
| Bernoulli | y^n を含むが置換で線型化できる | 非線型という理由だけで除外する |
| 同次形 | y/x の関数 | 同次線型と混同する |
5分岐ごとの確認点
| 分岐 | 確認する式の特徴 | 失敗しやすい判断 |
| 変数分離形 | y'=f(x)g(y) または A(y)y'=B(x) | x+y を f(x)g(y) と誤認する |
| 一階線型 | y' と y が一次で、係数が x のみ | yy' や y^2 を含む式を線型と判定する |
| 完全微分方程式 | Mdx+Ndy=0 で M_y=N_x | 領域の穴や、単連結性など大域的完全性を保証する十分条件を省略する |
| Bernoulli | y'+P(x)y=Q(x)y^n | n=0,1 の退化を通常の Bernoulli 型として処理する |
| 同次形 | y'=F(y/x) | 同次線型 L[y]=0 と混同する |
6具体例
y'=xy
は変数分離形であると同時に、y'-xy=0 という一階線型でもある。まず y=0 が定数解であることを保全し、y\ne0 の枝では計算手順が短い変数分離を選択する。
y'+xy=1
は分離ではなく P(x)=x,\ Q(x)=1 の一階線型である。したがって積分因子を選択する。
7変形後に診断が変化する例
y'=\frac{y}{x}+\left(\frac{y}{x}\right)^2,\qquad x\ne0
は x>0 または x<0 の各区間で考える。v=y/x と置換すると y=vx、y'=v+xv' であるため、
v+xv'=v+v^2
となり、xv'=v^2 の変数分離形へ変換される。v^2 で割る前に、v=0、すなわち y=0 が解であることも確認する。
この例では、y/x だけを通して x,y が現れることが同次形置換の根拠になる。置換後にも除算で失う枝の確認を繰り返し、x=0 を横切る解をこの計算から主張しない。
8診断不能な場合の扱い
y'=\sin(xy)
のような方程式は、上の初等的な型に直接該当しない。右辺 f(x,y)=\sin(xy) と y による偏導関数 f_y(x,y)=x\cos(xy) は連続である。局所解の存在には f の連続性を、一意性には y に関する局所 Lipschitz 連続性を使用することを、後続の存在・一意性定理の講義で確認する。この場合は、初等解法の探索を継続するより、後続の講義で導入する方向場・数値解法・定性的解析へ移行する判断が妥当である。
9適用範囲
この診断木は初等解法の入口である。診断木のどこにも該当しない方程式でも、解が存在しないとは限らない。数値解法や定性的解析へ移行する判断が必要になる。
10演習リンク
data/exercise/math/differential-equations/classifying-and-solving-first-order-odes.exercise.n.md
11次に参照するページ
data/lecture/math/differential-equations/lipschitz-condition-and-continuity.lecture.n.md
12関連リンク
data/lecture/math/differential-equations/separable-equations-and-autonomous-systems.lecture.n.md
data/lecture/math/differential-equations/first-order-linear-odes-and-integrating-factors.lecture.n.md