Lipschitz 条件とは何か:連続との違い
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1導入
この講義では、連続であることと Lipschitz 連続であることを区別し、初期値問題の一意性を導く標準的な十分条件を定義する。
2用語と定義
y'=f(x,y) を領域 R で考える。y に関する Lipschitz 条件とは、R 内の同じ x と、(x,y_1),(x,y_2)\in R に対して、x,y_1,y_2 に共通な定数 L\ge 0 が存在し、
|f(x,y_1)-f(x,y_2)|\le L|y_1-y_2|
が成立することである。x ごとに異なる定数を選ぶのではなく、R 全体で 1 つの L を使う点が重要である。
各点の周りの小さな領域ごとにこの条件が成立するとき局所 Lipschitz、考える全領域で 1 つの L を使えるとき大域 Lipschitzという。
3Lipschitz 条件を導入する理由
各 x を固定したときの y 方向の連続性は、y の十分小さい変化に対して f(x,y) の変化も十分小さくなることを保証する。一方、y に関する Lipschitz 条件は、その変化量を L|y_1-y_2| という線型上界で一様に制御する。ただし、この条件だけでは x 方向の連続性を保証しない。初期値から出発した 2 本の候補解が離れすぎないことを示すためには、y 方向のこの倍率制御が重要である。
4一意性に作用する理由
ここでは、f が連続であり、対象領域上で y に関して共通の定数 L を持つ Lipschitz 条件を満たすとする。さらに、同一の初期値を持つ 2 解 y_1,y_2 が存在すると仮定し、それらが一致することだけを証明する。解の存在は Lipschitz 条件だけからは導かず、後続の存在定理で連続性とともに扱う。
まず x\ge x_0 とする。積分形で表すと、
y_i(x)=y_0+\int_{x_0}^{x} f(t,y_i(t))\,dt
である。したがって差を取ると、
|y_1(x)-y_2(x)|
\le
\int_{x_0}^{x}|f(t,y_1(t))-f(t,y_2(t))|\,dt
となる。ここで y に関する Lipschitz 条件があれば、
|y_1(x)-y_2(x)|
\le
L\int_{x_0}^{x}|y_1(t)-y_2(t)|\,dt
を得る。この不等式から差が 0 であることを導くため、次の Gronwall 不等式の特殊形を使用する。
4.1命題:Gronwall 不等式の零初期値形
u:[a,b]\to[0,\infty) を連続関数とし、L\ge0 とする。すべての x\in[a,b] に対して
u(x)\le L\int_a^x u(t)\,dt
が成立するなら、u(x)=0 が [a,b] 全体で成立する。
4.1.1証明
H(x)=\int_a^x u(t)\,dt
とおく。u は連続で非負なので、H は微分可能で H(a)=0、H(x)\ge0、H'(x)=u(x) を満たす。仮定より
H'(x)\le LH(x)
である。したがって
\frac{d}{dx}\left(e^{-Lx}H(x)\right)
=e^{-Lx}(H'(x)-LH(x))\le0
である。ゆえに e^{-Lx}H(x)\le e^{-La}H(a)=0 である。一方、H(x)\ge0 なので H(x)=0 であり、u(x)=H'(x)=0 を得る。
共通定義区間から任意に x\ge x_0 を 1 点固定する。x_0 と x を結ぶ閉区間では、両解のグラフに同一の Lipschitz 定数 L を適用できるため、命題を u(t)=|y_1(t)-y_2(t)|、a=x_0、b=x に適用して y_1(x)=y_2(x) を得る。x<x_0 を固定した場合は
u(t)\le L\int_t^{x_0}u(\tau)\,d\tau\qquad (x\le t\le x_0)
である。s=x_0-t、w(s)=u(x_0-s) とおけば、0\le s\le x_0-x で
w(s)\le L\int_0^s w(\sigma)\,d\sigma
となるため、同じ命題から w=0、したがって y_1(x)=y_2(x) を得る。x は共通定義区間の任意の点であるため、2 解はその区間全体で一致する。この構造が、Lipschitz 条件によって一意性が導かれる理由である。
連続性だけでは、この差を定数倍で抑制する不等式を得られない。連続と Lipschitz 連続の違いは、値の近接だけでなく、近接の速度を制御できるかにある。
5具体例
5.1Lipschitz 条件を満たす例
f(y)=3y+1 では
|f(y_1)-f(y_2)|=3|y_1-y_2|
であるため、L=3 と選択できる。
5.2連続だが Lipschitz でない例
f(y)=\sqrt{|y|} は y=0 で連続である。しかし
\frac{|f(y)-f(0)|}{|y-0|}=\frac{\sqrt{|y|}}{|y|}=\frac{1}{\sqrt{|y|}}
は y\to 0 で発散する。したがって y=0 の近傍で 1 つの定数 L により差を抑制できない。
5.3\partial f/\partial y の連続性との関係
初期点を内部に含む閉かつ有界な小長方形 R を取る。\partial f/\partial y が R で連続なら、「閉かつ有界な領域上の連続関数は最大値を持つ」という性質により
L=\max_{(x,y)\in R}\left|\frac{\partial f}{\partial y}(x,y)\right|
が有限になる。各 x を固定して平均値定理を使えば、R 上で y に関する Lipschitz 条件を得る。開または非有界な領域で、連続というだけから有界性を結論してはならない。また、これは十分条件であり、必要条件ではない。
6適用範囲
Lipschitz 条件は一意性を保証する標準的な条件である。しかし、Lipschitz 条件が破綻しても、必ず非一意になるわけではない。定理の仮定が不成立であることは、結論の否定を意味しない。
局所 Lipschitz 性だけでは、全時間での存在までは結論できない。大域存在には、Lipschitz 性に加えて右辺の定義域や成長を確認する。次のページで、連続性による局所存在と Lipschitz 性による一意性を区別し、局所解をどこまで延長できるかを最大存在区間として扱う。
7直前の講義
data/lecture/math/differential-equations/first-order-ode-solution-diagnostics.lecture.n.md
8次に参照するページ
data/lecture/math/differential-equations/existence-uniqueness-and-lipschitz-condition.lecture.n.md
9演習リンク
data/exercise/math/differential-equations/existence-uniqueness-and-numerical-methods.exercise.n.md