初期値問題の存在・一意性と最大存在区間
mathdifferential-equationsexistence-uniquenesslecture
1導入
この講義では、初期値問題で「解が存在すること」と「解が 1 本に決定されること」を分離して理解する。
2対象とする初期値問題
標準形は
y'=f(x,y),\qquad y(x_0)=y_0
である。ここで問題にするのは、解の公式ではなく、初期点 (x_0,y_0) の近傍で解が存在するか、さらに一意に決定されるかである。
3存在と一意性を区別する理由
解析解が得られなくても、解の存在や一意性は判定できる。存在には右辺 f の連続性が基本になる。一方、y 方向への局所 Lipschitz 性は一意性を導く標準的な十分条件である。Lipschitz 性は必要条件ではない。
data/lecture/math/differential-equations/lipschitz-condition-and-continuity.lecture.n.md
4局所存在・一意性定理
4.1Peano の存在定理
D\subset\mathbb{R}^2 を開領域とし、(x_0,y_0)\in D とする。f:D\to\mathbb{R} が連続なら、ある h>0 が存在し、初期値問題
y'=f(x,y),\qquad y(x_0)=y_0
は |x-x_0|<h で少なくとも 1 つの解をもつ。この定理は一意性を主張しない。
4.2Picard--Lindelof の定理
D\subset\mathbb{R}^2 を開領域とし、(x_0,y_0)\in D とする。f:D\to\mathbb{R} が連続で、y に関して局所 Lipschitz なら、ある h>0 が存在し、上の初期値問題は |x-x_0|<h で一意解をもつ。ここで一意とは、同じ初期条件を満たす 2 解が共通定義区間で一致することを意味する。
この関係は、次の二段構成で整理できる。
\text{$f$ が連続} \Longrightarrow \text{局所解の存在}
\text{$f$ が連続かつ $y$ について局所 Lipschitz} \Longrightarrow \text{局所一意解の存在}
\frac{\partial f}{\partial y}\text{ が連続} \Longrightarrow \text{$y$ について局所 Lipschitz}
5Lipschitz 条件が一意性に作用する理由
直前のページでは、同一初期値を持つ 2 解の差を Lipschitz 定数で抑え、Gronwall 不等式へ接続した。このページでは、その機構を Picard-Lindelof の仮定と結論として使用する。
6判定表
| 状況 | 結論 | 注意 |
| f が連続 | 局所解の存在 | 一意性までは保証しない |
| f が連続かつ y について局所 Lipschitz | 局所一意解の存在 | 最大存在区間は別途確認する |
| \partial f/\partial y が連続 | Lipschitz 条件を確認しやすい | 十分条件であり、必要条件ではない |
| Lipschitz 条件が不成立 | 定理の仮定が使えない | 非一意が必ず発生するわけではない |
7最大存在区間と延長
f が開領域 D で連続かつ y に関して局所 Lipschitz であるとする。Picard--Lindelof の定理による局所一意解を一致する部分で重ね合わせると、初期時刻を含む 1 つの最大開区間 (\alpha,\beta) まで一意に延長できる。これを最大存在区間という。
実平面では、閉かつ有界な部分集合をコンパクト集合という。
有限端点、たとえば \beta<\infty で延長が停止するなら、x\to\beta^- で解のグラフ (x,y(x)) は D のどのコンパクト部分集合にも留まり続けられない。もし終端近傍でコンパクト集合 K\subset D に留まるなら、f は K 上で有界なので |y'|\le M となる。したがって y(x) は x\to\beta^- で Cauchy となり、有限極限 y_\beta を持つ。K は閉じているため (\beta,y_\beta)\in K\subset D であり、この点で局所存在・一意性定理を再適用すれば \beta を越えて延長でき、最大性に反する。D=\mathbb{R}^2 なら、有限端点で停止するためには |y(x)| が有界でなくなる。局所一意性だけから \alpha=-\infty,\ \beta=\infty を結論してはならない。
一方、f が全平面で連続かつ y に関して x に一様な大域 Lipschitz 条件
|f(x,y_1)-f(x,y_2)|\le L|y_1-y_2|
を満たすとする。任意の T>0 に対し、初期時刻を中心とする有限時間区間 |x-x_0|\le T では、連続性により |f(x,0)|\le M_T となる。したがって
|f(x,y)|\le M_T+L|y|
である。x\ge x_0 とし、A=|y_0|+M_TT とおくと、積分形から u(x)=|y(x)|\le A+L\int_{x_0}^x u(t)\,dt である。z(x)=A+L\int_{x_0}^x u(t)\,dt とおけば z'\le Lz かつ z(x_0)=A なので、e^{-Lx}z(x) の単調性から u(x)\le Ae^{L(x-x_0)} を得る。x\le x_0 でも積分区間を反転して同様である。したがって有限時間区間で |y(x)| は有限に保たれ、有限時間爆発は発生しない。延長不能条件から最大存在区間は \mathbb{R} である。
8具体例
8.1一意に存在する例
y'=y,\qquad y(0)=1
では f(x,y)=y であり、\partial f/\partial y=1 は連続である。したがって局所的に一意解が存在する。実際、解は y=e^x である。
8.2一意性が破綻する例
y'=\sqrt{|y|},\qquad y(0)=0
では f(y)=\sqrt{|y|} は連続であるため、Peano の定理により局所解の存在は保証される。しかし y=0 の近傍で Lipschitz 条件が成立しない。実際、y(x)=0 は解であり、任意の a\ge 0 に対して
y(x)=
\begin{cases}
0 & x\le a,\\
\dfrac{(x-a)^2}{4} & x\ge a
\end{cases}y(x)=
\begin{cases}
0 & x\le a,\\
\dfrac{(x-a)^2}{4} & x\ge a
\end{cases}
も解になる。同一の初期条件から複数の解が出現するため、一意性は成立しない。
8.3最大存在区間が有限で終わる例
y'=y^2,\qquad y(0)=1
では分離により
y=\frac{1}{1-x}
を得る。この解は x=1 で発散するため、初期時刻 0 を含む最大存在区間は (-\infty,1) である。右辺は全平面で滑らかでも、局所 Lipschitz 性だけでは有限時間爆発を防げない。
9適用上の注意
- \partial f/\partial y の連続性を必要条件として扱ってはならない。
- 解が存在することと、初等関数で表現できることを混同してはならない。
- 局所解の存在と大域解の存在を混同してはならない。
10適用範囲
ここで扱った定理は一階初期値問題の局所理論である。境界値問題や偏微分方程式では、別の条件と理論が必要になる。
11次の講義
data/lecture/math/differential-equations/singular-solutions-and-envelopes.lecture.n.md
12演習リンク
data/exercise/math/differential-equations/existence-uniqueness-and-numerical-methods.exercise.n.md