初期値問題と境界値問題
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1導入
この講義では、微分方程式と条件を組み合わせて解集合を決定する方法を説明する。微分方程式を積分すると、ふつう任意定数を含む関数族が得られる。条件は、その関数族に制約を課すが、条件の整合性によっては解が存在しない場合や複数の解が残る場合もある。
たとえば
y'=2x
を積分すると、
y=x^2+C
である。このままでは C が決まらない。y(0)=1 という条件が加わると C=1 になり、解は y=x^2+1 に決まる。
2初期値問題
初期値問題とは、ある基準点で未知関数やその導関数の値を指定する問題である。たとえば
y'=f(x,y),\qquad y(x_0)=y_0
は一階の初期値問題である。
二階なら、たとえば
y''=F(x,y,y'),\qquad y(x_0)=y_0,\quad y'(x_0)=v_0
のように、関数の値と速度にあたる導関数の値を指定することが多い。
時間発展を表す問題では、初期値が現在の状態を指定し、そこから将来の状態を決定する。ただし、独立変数が時間でない場合にも、同じ数学的形式を用いる。
3境界値問題
境界値問題とは、区間の端点や領域の境界で条件を指定する問題である。たとえば
y''=0,\qquad y(0)=0,\quad y(1)=1
は境界値問題である。
境界値問題を考える理由は、棒の温度分布、弦の形、定常状態のように、両端や境界の条件が全体の形を拘束する現象があるからである。
4命題1:条件は任意定数を制約する
仮定として、微分方程式の一般解が 1 個の任意定数 C を含む
y=\phi(x,C)
で与えられているとする。条件 y(x_0)=y_0 を課すと、許容される C は
\phi(x_0,C)=y_0
を満たす値に制約される。この方程式が一意解を持つときに限り、C は一意に決定される。
4.1証明
解が y=\phi(x,C) と書けるという仮定から、基準点 x_0 での値は \phi(x_0,C) である。条件 y(x_0)=y_0 を満たすには、
\phi(x_0,C)=y_0
が必要である。逆に、この方程式を満たす C を選べば、
y(x_0)=\phi(x_0,C)=y_0
となる。したがって条件は任意定数を制約する方程式として機能する。この方程式に解がなければ、提示された一般解族には条件を満たす要素がない。複数の解があれば、複数の候補が残る。
この命題は、一般解族に条件を課す操作を、任意定数に対する方程式へ帰着できることを示す。
5例1:一階の初期値問題
y'=-y,\qquad y(0)=1
を考える。まず方程式だけを解くと、
y=Ce^{-x}
である。ここで y(0)=1 を使うと、
1=Ce^0=C
だから
y=e^{-x}
である。
検算する。y=e^{-x} なら y'=-e^{-x}=-y であり、また y(0)=1 である。したがって方程式と条件の両方を満たす。
6例2:二階の境界値問題
y''=0,\qquad y(0)=0,\quad y(1)=1
を考える。y''=0 を 1 回積分すると y'=A、さらに積分すると
y=Ax+B
である。境界条件 y(0)=0 から B=0、y(1)=1 から A=1 である。したがって
y=x
である。
初期値問題でも境界値問題でも、基本的な操作は同じである。まず一般解を求め、条件を代入して任意定数を制約する。
n 個の任意定数がある場合でも、n 個の条件があれば自動的に決まるわけではない。一般には、条件の代入によって任意定数に関する方程式系が得られ、その可解性と一意性を確認する必要がある。線型同次 ODE の解空間を張る線型独立な解を基底解という。線型 ODE の一般解の同次部分を基底解の線型結合で表し、線型な条件を課す場合には、この方程式系は連立一次方程式となる。その係数行列が正則であれば、任意定数は一意に決定される。
n 階線型同次 ODE の基底解を y_1,\ldots,y_n とする。同一の点 x_0 で y,y',\ldots,y^{(n-1)} の値を指定する標準的な初期条件では、積分定数に関する係数行列は
\left(y_j^{(i-1)}(x_0)\right)_{i,j=1}^{n}
である。この行列式を x_0 における Wronskian W(y_1,\ldots,y_n)(x_0) という。Wronskian が 0 でなければ、この行列は正則であり、積分定数は一意に決定される。一方、異なる端点に課す境界条件や一般の線型条件では、別途構成される条件行列の正則性を判定する必要があり、その行列式は一般には Wronskian ではない。
data/lecture/math/linear-operator/affine-spaces-and-condition-determination.lecture.n.md
data/lecture/math/differential-equations/variation-of-parameters-and-wronskian.lecture.n.md
7初期値問題と境界値問題の違い
| 項目 | 初期値問題 | 境界値問題 |
| 条件の位置 | 1 点の値や導関数 | 区間の端点や境界 |
| 典型的な解釈 | 指定された状態から発展を決定する | 境界のデータによって分布を拘束する |
| 代表例 | 人口増加、冷却、運動 | 定常温度、弦、固有振動 |
| 注意点 | 存在・一意性には仮定が必要 | 解がない、または複数ある場合がある |
ここで固有振動という言葉が出てくるが、このページでは詳しく扱わない。境界条件を満たす特別な振動だけが許される問題があり、その先で固有値や固有関数を学ぶ。
8注意:条件の本数だけでは十分でない
二階の微分方程式では、一般解に通常 2 個の任意定数が現れる。そのため 2 個の条件が必要になることが多い。しかし、条件が 2 個あれば必ず 1 本の解が存在する、というわけではない。
たとえば
y''=0
を考える。1 回積分すると y'=A、もう 1 回積分すると
y=Ax+B
である。ここで境界での導関数を指定する条件
y'(0)=0,\qquad y'(1)=1
を課す。y'=A だから、y'(0)=0 から A=0 である。一方、y'(1)=1 から A=1 でなければならない。これは矛盾する。したがって、この境界値問題には解がない。
一方、境界条件が
y'(0)=0,\qquad y'(1)=0
なら、A=0 だけが決まり、B は任意である。したがって
y=B
がすべて解であり、解は無限個ある。
このように、条件の本数が階数と合っていても、境界条件の位置と方程式の性質によって、解がない場合や複数ある場合が起こる。
この問題は、存在と一意性の理論における主要な分析対象である。
data/lecture/math/differential-equations/existence-uniqueness-and-lipschitz-condition.lecture.n.md
9読み方の手順
- 未知関数と独立変数を確認する。
- 階数を確認する。
- 条件が同じ点に集まっているか、端点や境界に置かれているかを確認する。
- 一般解が得られる場合は、それを求める。
- 条件を代入して任意定数に対する制約方程式を解き、許容される定数を決定する。
- 最後に元の方程式と条件へ代入して検算する。
10次の講義
次に、一階微分方程式を方程式の形式に応じて分類し、適用可能な解法を判定する。
data/lecture/math/differential-equations/classifying-first-order-odes.lecture.n.md
11演習リンク
data/exercise/math/differential-equations/introduction-to-odes-and-direct-integration.exercise.n.md
data/exercise/math/differential-equations/existence-uniqueness-and-numerical-methods.exercise.n.md