方向場・Euler 法・誤差と安定性の入口
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1導入
この講義では、解析解が得られない場合でも、方向場で解の傾向を把握し、Euler 法で近似解を構成し、誤差と安定性を別概念として確認する。
2何を解くページか
標準形は
y'=f(x,y),\qquad y(x_0)=y_0
である。方向場 は、各点 (x,y) に傾き f(x,y) を配置した図式である。Euler 法 は、現在点の傾きで短い直線近似を行う数値解法である。
3なぜこの方針を選ぶのか
微分は局所的な一次近似を与える。したがって、現在点で y'=f(x,y) を評価すれば、短い区間では y がどちらへ変化するかを推定できる。方向場は式を解かずに全体傾向を確認する道具であり、Euler 法はその局所近似を反復する方法である。
4解法の流れ
初期値 y(x_0)=y_0 と刻み幅 h を設定する。Euler 法では
x_{n+1}=x_n+h,\qquad y_{n+1}=y_n+h f(x_n,y_n)
と更新する。最大存在区間の内部にある固定された有限区間を選び、厳密解が 2 回連続微分可能で |y''| が有界であるとする。このとき Taylor 展開
y(x+h)=y(x)+h y'(x)+O(h^2)
の一次項で切る近似である。ここでは、厳密な値から 1 歩だけ Euler 更新したときの欠損を一歩欠損と呼ぶ。この定義では一歩欠損は O(h^2) である。欠損を h で割った量を局所打切り誤差と呼ぶ流儀では、次数は O(h) になる。
さらに、f が解と数値列の留まる領域で y に関して Lipschitz であるとする。一歩ごとの誤差の増幅をこの Lipschitz 定数で抑えると、固定有限区間での大域誤差は O(h) になる。滑らかさや Lipschitz 条件を置かずに、この誤差次数を断定してはならない。
5具体例
5.1増加する例
y'=y,\qquad y(0)=1
で h=0.1 とすると、Euler 法は y_{n+1}=1.1y_n を与える。したがって y_1=1.1,\ y_2=1.21 である。厳密解 e^x と比較すると、刻み幅を縮小すると近似が改善する。
5.2安定性が問題になる例
y'=ay,\qquad a<0
の厳密解は減衰する。Euler 法では
y_{n+1}=(1+ah)y_n
である。数値解が減衰するには |1+ah|<1 が必要である。たとえば a=-10、h=0.3 では 1+ah=-2 となり、厳密解は減衰するにもかかわらず数値解は振動しながら増大する。
6精度と安定性の区別
精度は、刻み幅を小さくしたとき厳密解へどの速さで接近するかを表す。安定性は、反復が誤差を増幅するか抑制するかを表す。高精度な方法でも、問題と刻み幅の組合せによって不安定になることがある。
7陰的方法への接続
Forward Euler 法は現在点の傾き f(x_n,y_n) を使用する。一方、Backward Euler 法は次点の傾き f(x_{n+1},y_{n+1}) を使用し、
y_{n+1}=y_n+h f(x_{n+1},y_{n+1})
を解く。未知量 y_{n+1} が右辺にも出現するため、各段階で方程式を解く計算負担が生じる。しかし減衰問題では、安定性が改善されることがある。
モデル方程式 y'=ay に適用すると、Backward Euler 法は
y_{n+1}=\frac{1}{1-ah}y_n
を与える。a<0 なら、任意の h>0 に対して 1-ah=1+|a|h>1 であるため、|1/(1-ah)|<1 が成立する。この比較は、数値解法の選択では精度だけでなく安定性を確認する必要があることを示す。
8方向場で判定できること
方向場は厳密解を生成しないが、解析前の診断に有効である。
| 確認項目 | 方向場から得られる情報 |
| 零傾斜曲線 | f(x,y)=0 となる曲線。そこを通る解とは限らない |
| 平衡解 | 定数 c がすべての x で f(x,c)=0 を満たすときの水平解 y=c |
| 増減 | 傾きの符号 |
| 安定性候補 | 近傍の矢印が平衡解へ向かうかを読み、符号解析などで確認する |
| 急変区間の候補 | 傾きの大きい領域を読む。数値安定性は増幅率で別に判定する |
9どこまで成立するか
方向場は解曲線の候補を可視化する道具であり、1 本の厳密解や安定性の証明を与えるものではない。とくに一意性の仮定がない領域では、1 本の流れを表すと解釈してはならない。Euler 法は入口として重要だが、実用計算では Runge-Kutta 法、Backward Euler 法、適応刻み幅などを検討する。
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