完全微分方程式
mathdifferential-equationsexact-equationintegrating-factorlecture
1導入
この講義では、
M(x,y)\,dx+N(x,y)\,dy=0
を、ある関数 F(x,y) の全微分
dF=F_x\,dx+F_y\,dy
として復元する方法を説明する。
変数分離では x 側と y 側に分けた。一階線型では積分因子によって積の導関数へ変換した。完全微分方程式では、左辺全体を 1 個の関数 F(x,y) の全微分として表現する。
2標準形
完全微分方程式とは、
M(x,y)\,dx+N(x,y)\,dy=0
において、ある関数 F(x,y) が存在して
F_x=M,\qquad F_y=N
を満たす場合の方程式である。この F をポテンシャル関数 (potential function) と呼ぶ。
3命題1:完全なら解は F(x,y)=C
仮定として、Mdx+Ndy=dF と書けるとする。このとき
M(x,y)\,dx+N(x,y)\,dy=0
の解は
F(x,y)=C
で与えられる。
3.1証明
Mdx+Ndy=dF だから、方程式は
dF=0
である。曲線 y=y(x) に沿って F(x,y(x)) を考えると、合成関数の微分より
\frac{d}{dx}F(x,y(x))=F_x+F_y y'
である。一方、
dF=F_xdx+F_ydy
なので、dy=y'dx を代入すると
dF=(F_x+F_y y')dx
である。dF=0 は
\frac{d}{dx}F(x,y(x))=0
を意味する。したがって F(x,y(x)) は一定であり、
F(x,y)=C
である。
逆に、F(x,y)=C を微分すれば dF=0 となるので、Mdx+Ndy=0 を満たす。
4完全性条件
M,N が連続に偏微分可能で、F_x=M,\ F_y=N なら、F の混合偏微分は連続であり、
F_{xy}=F_{yx}
より
M_y=N_x
が成立する。したがって M_y=N_x は完全であるための必要条件である。
M,N が連続に偏微分可能で、対象領域が単連結なら、
M_y=N_x
は完全性の必要十分条件になる。単連結領域とは、領域内の任意の閉曲線を、領域の外へ出ずに 1 点へ連続的に縮められる領域である。長方形や円板はその例である。
5命題2:完全性条件の必要性
仮定として、M,N が連続に偏微分可能であり、M=F_x,\ N=F_y と書けるとする。このとき
M_y=N_x
である。
5.1証明
M=F_x だから、M を y で偏微分すると
M_y=F_{xy}
である。また N=F_y だから、N を x で偏微分すると
N_x=F_{yx}
である。F の混合偏微分が連続なら F_{xy}=F_{yx} である。したがって
M_y=N_x
を得る。
この命題は、完全性条件がポテンシャル関数の混合偏微分の交換可能性に由来することを示す。
6ポテンシャル関数の構成
完全性が確認できたら、F_x=M から F を復元する。
- F_x=M を x で積分する。
- x で積分したとき、y だけの任意関数 h(y) を足す。
- F_y=N と比較して h(y) を決める。
h(y) を足す理由は、x で偏微分すると h(y) は消えるからである。
7例1:完全な場合
(2xy+1)\,dx+x^2\,dy=0
を考える。ここで
M=2xy+1,\qquad N=x^2
である。
完全性を確認する。
M_y=2x,\qquad N_x=2x
だから M_y=N_x である。
つぎに F_x=M より、
F_x=2xy+1
を x で積分して
F=x^2y+x+h(y)
を得る。y で偏微分すると
F_y=x^2+h'(y)
である。これが N=x^2 と一致するため、
h'(y)=0
である。したがって h(y) は定数であり、解は
x^2y+x=C
である。
8積分因子が必要な場合
Mdx+Ndy=0
が完全でない場合でも、対象領域で至る所 0 でない関数 \mu(x,y) を掛けると
\mu M\,dx+\mu N\,dy=0
が完全になる場合がある。この \mu も積分因子と呼ぶ。\mu が至る所 0 でないため、乗算前と乗算後の方程式は同じ解曲線を表す。
ここで注意する。一階線型の積分因子は、左辺を
(\mu y)'
という積の微分にする因子であった。一方、完全微分方程式の積分因子は、Mdx+Ndy を
dF
という全微分にする因子である。両者は、積分可能な微分へ変換するという共通の機能をもつ。
9一階線型との接続
一階線型方程式
y'+p(x)y=q(x)
を
(p(x)y-q(x))\,dx+dy=0
と書く。このとき
M=p(x)y-q(x),\qquad N=1
である。一般には
M_y=p(x),\qquad N_x=0
なので完全ではない。しかし、一階線型の積分因子
\mu(x)=e^{\int p(x)\,dx}
を掛けると、
\mu(p(x)y-q(x))\,dx+\mu\,dy=0
となる。この新しい微分形式では
(\mu(p y-q))_y=\mu p,\qquad (\mu)_x=\mu'=\mu p
だから完全である。
したがって、一階線型の積分因子は、完全微分方程式の枠組みでは、微分形式を完全化する因子でもある。
data/lecture/math/differential-equations/first-order-linear-odes-and-integrating-factors.lecture.n.md
10適用範囲
完全性条件 M_y=N_x の十分性は、対象領域に依存する。単連結でない領域では、この等式が成立しても大域的なポテンシャル関数が存在しない場合がある。
この発展的な注意は、線積分や保存場で再登場する。
data/lecture/math/vector-calculus/line-integrals-and-conservative-fields.lecture.n.md
次の講義では、右辺が比 y/x のみに依存する同次形を扱い、v=y/x の置換によって変数分離形へ帰着する方法を説明する。
data/lecture/math/differential-equations/homogeneous-first-order-odes-and-substitution.lecture.n.md
11演習リンク
data/exercise/math/differential-equations/classifying-and-solving-first-order-odes.exercise.n.md