energy method の入口
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1導入
この講義では、PDE の解を点ごとに追跡するのではなく、領域全体の積分量によって制御する方法を説明する。前の maximum principle は解の最大値を点ごとに制御したが、energy method は二乗積分を通して解全体の大きさを評価する。
2用語と定義
energy method は、解や微分の二乗積分をエネルギーとして定義し、その時間変化を評価する方法である。
3方針
波動方程式では運動と歪みのエネルギーが保存される。熱方程式では二乗積分が減衰する。積分による評価は、明示解がなくても有効である。
4接続
energy method では部分積分が反復して現れる。多次元では、Gauss の発散定理を用いて領域積分を境界積分へ変換する Green 公式が部分積分に対応する。境界条件が境界項を消去する役割を持つ。
5計算の前提
以下では c>0、\kappa>0、0<x<L、0\le t\le T とする。また、積分と時間微分の順序交換および部分積分ができるだけ十分に滑らかな古典解を考える。ここで古典解とは、方程式と条件を各点で満たすだけの微分可能性を持つ解である。弱解へ拡張する場合は、まず滑らかな近似解で同じ評価を得てから極限を取る、という追加の議論が必要である。
6波動方程式の例
u_{tt}=c^2u_{xx}、u(0,t)=u(L,t)=0 とする。エネルギーを
E(t)=\frac12\int_0^L\left(u_t^2+c^2u_x^2\right)\,dx
と定義する。E'(t) を計算し、部分積分と境界条件を使用すると、E'(t)=0 となる。これは明示解を使用せずに保存量を得る方法である。
計算は次の通りである。
E'(t)=\int_0^L\left(u_tu_{tt}+c^2u_xu_{xt}\right)\,dx
方程式 u_{tt}=c^2u_{xx} を代入すると、
E'(t)=c^2\int_0^L\left(u_tu_{xx}+u_xu_{xt}\right)\,dx
である。第一項を部分積分すると、
\int_0^L u_tu_{xx}\,dx=\left[u_tu_x\right]_0^L-\int_0^L u_{tx}u_x\,dx
となる。残る二つの積分が打ち消し合うので、まず
E'(t)=c^2\left[u_tu_x\right]_0^L
を得る。この境界項は、端点を通るエネルギーの流出入を表す。固定端条件 u(0,t)=u(L,t)=0 を t で微分すると端点で u_t=0 となるため、境界項が消えて E'(t)=0 である。保存は方程式だけの性質ではなく、境界からエネルギーが出入りしないことにも依存する。
7波動方程式の一意性
同じ初期条件と固定端条件を満たす二つの解 u,v があるとする。w=u-v と置けば、w は斉次波動方程式と零の初期条件・固定端条件を満たす。したがって w の初期エネルギーは 0 であり、エネルギー保存からすべての t で
\int_0^L\left(w_t^2+c^2w_x^2\right)\,dx=0
となる。古典解の仮定により被積分関数は連続かつ非負なので、積分が 0 ならすべての点で w_t=w_x=0 である。よって w は時間にも空間にも依存しない定数であり、固定端条件から w=0、すなわち u=v である。
8熱方程式の例
u_t=\kappa u_{xx}、u(0,t)=u(L,t)=0 とする。\int_0^L u^2\,dx を時間微分すると、
\frac{d}{dt}\int_0^L u^2\,dx=-2\kappa\int_0^L u_x^2\,dx\le 0
を得る。熱では二乗積分が減衰し、波ではエネルギーが保存される。この差が方程式の性質を示す。
導出は
\frac{d}{dt}\int_0^L u^2\,dx=2\int_0^Lu u_t\,dx
=2\kappa\int_0^Lu u_{xx}\,dx
から始まる。部分積分により
2\kappa\int_0^Lu u_{xx}\,dx
=
2\kappa\left[u u_x\right]_0^L-2\kappa\int_0^Lu_x^2\,dx
である。Dirichlet 条件では境界項が 0 になるため、減衰評価が得られる。
この評価だけで二乗積分が増加しないことは分かる。さらに、両端で 0 になる関数に対する Poincare 不等式
\int_0^L u^2\,dx\le \left(\frac{L}{\pi}\right)^2\int_0^L u_x^2\,dx
をここでは用いると、減衰の速さまで得られる。Poincare 不等式は、関数の大きさを、その変化率の大きさで制御する不等式である。
この定数は、変数分離法で導入した sine 固有関数から確認できる。u を
u(x)=\sum_{n=1}^{\infty}b_n\sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right)
と展開すると、直交性により
\int_0^L u^2\,dx=\frac L2\sum_{n=1}^{\infty}|b_n|^2,
\qquad
\int_0^L u_x^2\,dx=\frac L2\sum_{n=1}^{\infty}\left(\frac{n\pi}{L}\right)^2|b_n|^2
である。n^2\ge1 なので \int_0^L u_x^2\,dx\ge(\pi/L)^2\int_0^L u^2\,dx となり、上の Poincare 不等式が従う。この導出は、十分に滑らかで両端で 0 になる u の sine 展開を使用している。
この不等式を減衰評価へ代入すれば
\frac{d}{dt}\int_0^L u^2\,dx
\le -2\kappa\left(\frac{\pi}{L}\right)^2\int_0^L u^2\,dx
となる。したがって
\int_0^L u(x,t)^2\,dx
\le e^{-2\kappa(\pi/L)^2t}\int_0^L u(x,0)^2\,dx
であり、零境界条件の熱は二乗積分の意味で指数的に減衰する。ここに現れる \pi/L は、変数分離法で最初の sine 固有関数に対応した波数である。
9外力がある場合
比較例として、同じ固定端条件 u(0,t)=u(L,t)=0 のもとで u_{tt}=c^2u_{xx}+F(x,t) を考える。この場合、境界流束が消えるので
E'(t)=\int_0^L F(x,t)u_t(x,t)\,dx
となり、エネルギーは保存されない。右辺は外力が系へ注入する仕事率を表す。ここで
\|F(\cdot,t)\|_2
=\left(\int_0^L|F(x,t)|^2\,dx\right)^{1/2}
と定義する。Cauchy--Schwarz 不等式と \|u_t(\cdot,t)\|_2^2\le 2E(t) から
E'(t)\le \|F(\cdot,t)\|_2\sqrt{2E(t)}
を得る。E(t)>0 の区間で \sqrt{E(t)} を微分し、\|F(\cdot,t)\|_2 が 0\le t\le T で積分可能であるとすれば、
\sqrt{E(t)}
\le \sqrt{E(0)}+\frac{1}{\sqrt2}\int_0^t\|F(\cdot,s)\|_2\,ds
となる。E(t)=0 となる時刻を含む場合も、\sqrt{E+\varepsilon} で評価して \varepsilon\downarrow0 とすれば同じ結論を得る。これは外力が小さければ解のエネルギーも制御されるという安定性の評価である。energy method は保存だけでなく、増加や減衰を不等式で制御する枠組みでもある。
10どこまで成立するか
非線形 PDE では、評価したいエネルギーだけで不等式の右辺を制御できるとは限らない。散逸・保存・外力の有無を確認する必要がある。
energy method は解の式を構成しなくても、一意性・減衰・安定性を示せる。次の Green 関数では、線形 PDE の解そのものを点源応答の積分として構成する。
11関連リンク
data/lecture/math/partial-differential-equations/maximum-principle-basics.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/heat-wave-and-laplace-equations.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/separation-of-variables-and-fourier-series.lecture.n.md
data/lecture/math/vector-calculus/green-gauss-and-stokes-theorems.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/introduction-to-green-functions.lecture.n.md