変数分離法と Fourier 級数
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1導入
この講義では、変数分離法を、境界条件に適合する空間モードへ PDE を分解する方法として解説する。
2用語と定義
変数分離法 は、u(x,t)=X(x)T(t) のように未知関数を一変数関数の積として仮定し、PDE を ODE 群へ分解する方法である。
Fourier 級数 は、関数を互いに直交する三角関数の級数として展開する表現である。このページでは 0<x<L の零 Dirichlet 境界条件に適合する sine 級数を扱う。
3方針
境界条件から空間方向の固有値問題が現れる。その固有関数を基底として初期条件を展開し、時間方向の ODE を解く。
4分離定数が現れる理由
u(x,t)=X(x)T(t) という非零解を代入し、X(x)T(t)\ne0 となる領域で両辺を XT で割ると、一方は x だけの関数、他方は t だけの関数になる。独立に変化する x,t のすべてで等しいため、両方は同一の定数でなければならない。この定数が分離定数である。零点を含む区間では、導出した線形 ODE とその解の一意性により、非零領域で得た同一の定数を保持して延長する。
5典型例
区間 0<x<L の熱方程式で u(0,t)=u(L,t)=0 とすると、空間モードは \sin(n\pi x/L) になる。初期分布を sine 級数で展開し、それぞれのモードが時間とともに減衰する。
波動方程式で同じ境界条件を課すと、空間モードは同じく \sin(n\pi x/L) になる。ただし時間方向は指数減衰ではなく、\cos(cn\pi t/L) と \sin(cn\pi t/L) の振動になる。熱と波の差は、同じ空間固有値に対する時間方程式の差として現れる。
6具体例 1: 熱方程式
熱拡散率 \kappa>0 とし、問題を
u_t=\kappa u_{xx},\quad 0<x<L,\quad t>0,
\quad u(0,t)=u(L,t)=0,\quad u(x,0)=f(x)
とする。u=XT を代入すると、
\frac{T'}{\kappa T}=\frac{X''}{X}=-\lambda
である。境界条件から、空間方向には
-X''=\lambda X,\qquad X(0)=X(L)=0
という固有値問題が現れる。ここでは実数値のモード X を考える。この式に X を掛けて部分積分すると、非零解では
\lambda=\frac{\int_0^L|X'(x)|^2\,dx}{\int_0^L|X(x)|^2\,dx}>0
である。したがって \lambda=0 や \lambda<0 からは非零の固定端モードが生じず、\lambda>0 の場合だけを解けばよい。固有関数の任意の非零定数倍は同じ固有空間に属するため、その代表を
X_n(x)=\sin(n\pi x/L),\quad \lambda_n=(n\pi/L)^2
と選べる。時間方向は T_n(t)=e^{-\kappa\lambda_n t} となる。初期条件は
f(x)=\sum_{n=1}^{\infty} b_n\sin(n\pi x/L),\quad
b_n=\frac{2}{L}\int_0^L f(x)\sin(n\pi x/L)\,dx
により決定する。ここでは、L^2(0,L) の sine 系が完全であるという Fourier 級数の完全性定理を用いる。この定理は、f を (-L,L) へ奇延長し、Fourier 系の L^2 完全性を適用することで得られる。直交性
\int_0^L\sin(n\pi x/L)\sin(m\pi x/L)\,dx
=\frac L2\,\delta_{nm}
を用いた。\delta_{nm} は n=m なら 1、n\ne m なら 0 となる Kronecker のデルタである。したがって形式的には
u(x,t)=\sum_{n=1}^{\infty} b_n e^{-\kappa(n\pi/L)^2t}\sin(n\pi x/L)
である。f\in L^2(0,L) なら sine 級数は L^2 の意味で f を表す。ここで L^2(0,L) は \int_0^L|f(x)|^2dx<\infty を満たす関数の空間であり、「二乗平均の誤差が 0 へ近づく」という収束を使う。任意の t>0 では指数因子が高周波を強く抑えるため、空間・時間について項別微分でき、滑らかな古典解になる。一方、t=0 まで各点で初期条件を満たす古典解として延長するには、f の追加正則性と f(0)=f(L)=0 などの境界適合条件が必要である。
7具体例 2: 波動方程式
波速 c>0 とし、同じ区間と固定端で
u_{tt}=c^2u_{xx},\quad 0<x<L,\quad t>0,
\quad u(0,t)=u(L,t)=0,
\quad u(x,0)=f(x),\quad u_t(x,0)=g(x)
を扱う。空間モードは熱方程式と同一だが、時間方程式は
T_n''+c^2(n\pi/L)^2T_n=0
となる。したがって形式的には
u(x,t)=\sum_{n=1}^{\infty}\left(a_n\cos(cn\pi t/L)+d_n\sin(cn\pi t/L)\right)\sin(n\pi x/L)
である。係数は
a_n=\frac2L\int_0^Lf(x)\sin(n\pi x/L)\,dx,
\qquad
d_n=\frac{2}{cn\pi}\int_0^Lg(x)\sin(n\pi x/L)\,dx
である。d_n の分母は、u_t(x,0) を計算すると sine の係数が (cn\pi/L)d_n になることから決まる。波動方程式には熱方程式の指数的な高周波減衰がない。したがって、この級数を古典解として二回項別微分するには、微分後の級数が収束するだけの Fourier 係数の減衰と、使用する導関数に必要なすべての端点適合条件が必要である。f(0)=f(L)=g(0)=g(L)=0 は必要な低階の適合条件だが、それだけで古典解の存在を保証する完全な定理ではない。より低正則性のデータでは、級数の収束と方程式を満たす意味を別に指定する必要がある。
8固有値問題と直交性
境界条件が空間演算子の定義域を定め、その固有値問題を規定する。固定端では -\frac{d^2}{dx^2} の固有関数が sine 関数になり、それらが直交するため初期条件を係数へ分解できる。Neumann 条件なら cosine と定数モード、周期境界条件なら複素指数関数が自然になる。変数分離は境界条件に適合する固有関数系を構成し、完全性が成立する場合に基底として用いる手続きである。
9限界
領域や係数が複雑で、積の形 X(x)T(t) に分解できない場合がある。非線形 PDE でも重ね合わせが成立しないため、Fourier 級数による単純な展開は使用しにくい。
10よくある誤り
- 境界条件を確認せず、任意の Fourier 展開を使用する。
- 固有値問題と Fourier 級数の関係を切断する。
- 級数解の収束や境界での挙動を確認しない。
11関連リンク
data/lecture/math/analysis/introduction-to-fourier-transform.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/heat-wave-and-laplace-equations.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/fourier-transforms-and-pdes.lecture.n.md