フーリエ変換の基礎
mathanalysisfourierlecture
1導入
この講義では、時間領域の関数を周波数成分の複素振幅として表現するフーリエ変換を説明する。反転定理による復元と微分則を通じて、時間領域と周波数領域の対応を明確にする。
2Schwartz 関数と変換規約
この講義では、収束の問題を曖昧にしないため、まず Schwartz 関数を扱う。これは無限回微分可能であり、どの非負整数 m,n に対しても
|x|^m\left|f^{(n)}(x)\right|\to0\qquad(|x|\to\infty)
となる関数である。関数とすべての導関数が、任意の多項式の逆数よりも急速に 0 へ収束することを意味する。この関数の集合を \mathcal S(\mathbb R) と表す。
f,g\in\mathcal S(\mathbb R) に対する フーリエ変換 \mathcal F と逆フーリエ変換 \mathcal F^{-1} を
\mathcal Ff(\omega)=\hat f(\omega):=\int_{-\infty}^{\infty} f(x)e^{-i\omega x}\,dx,
\qquad
\mathcal F^{-1}g(x):=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}g(\omega)e^{i\omega x}\,d\omega
と定義する。\omega は角周波数であり、通常の周波数 \nu とは \omega=2\pi\nu の関係にある。時間を秒で測定するとき、\nu の単位は Hz、\omega の単位は rad/s である。通信工学の Hz 規約では
X(\nu)=\int_{-\infty}^{\infty}x(t)e^{-i2\pi\nu t}\,dt
と定義し、X(\nu)=X_\omega(2\pi\nu) が成立する。指数の符号や 2\pi の配置には別の規約もあるため、正変換と逆変換を一組で明示する。
3フーリエ反転
フーリエ反転定理 f\in\mathcal S(\mathbb R) なら \hat f\in\mathcal S(\mathbb R) であり、
\mathcal F^{-1}(\mathcal Ff)=f
が成立する。標準的な証明では、逆変換積分へガウス因子を導入して正則化する。絶対収束により積分順序を交換すると、f とガウス近似恒等族の畳み込みを得る。ガウス関数の幅を 0 へ収束させると、この畳み込みは f へ収束する。Schwartz 関数の急減少性が極限と積分の交換を正当化する。
data/lecture/math/algebra/complex-numbers-and-complex-plane.lecture.n.md
data/lecture/physics/waves/waves-basics.lecture.n.md
4音響的な解釈
音響信号の波形は、時間に対する空気圧の変動を表す。フーリエ変換は、この信号を各周波数成分の複素振幅と位相の分布として表現する。
5離散直交性と連続変換
ここからは e^{i\omega x} と複素共役を使用する。複素数の極形式とオイラーの公式を前提とする。
data/lecture/math/algebra/complex-numbers-and-complex-plane.lecture.n.md
e^{i\omega x} は角周波数 \omega の複素指数関数である。整数 m,n\in\mathbb Z に対し、有限区間のフーリエ級数では
\int_{-\pi}^{\pi} e^{imx}e^{-inx}\,dx
=
\int_{-\pi}^{\pi} e^{i(m-n)x}\,dx
を計算すると、
\int_{-\pi}^{\pi}e^{i(m-n)x}\,dx
=
\begin{cases}
2\pi,&m=n,\\
0,&m\ne n
\end{cases}\int_{-\pi}^{\pi}e^{i(m-n)x}\,dx
=
\begin{cases}
2\pi,&m=n,\\
0,&m\ne n
\end{cases}
となる。フーリエ級数では、この直交性によって離散的な周波数の係数を取り出す。フーリエ変換は、その考えを連続な角周波数へ移し、\hat f(\omega) を位相も含む複素振幅の密度として記述する。
その連続版として
\hat f(\omega)=\int_{-\infty}^{\infty} f(x)e^{-i\omega x}\,dx
を定義する。フーリエ反転定理により \hat f から f を復元できる。したがって「周波数へ分解する」は一方向の比喩ではなく、f と \hat f の間を往復できる対応である。
6微分則
微分は周波数領域で乗算に変換される。これを部分積分によって導出すると、
\widehat{f'}(\omega)=\int_{-\infty}^{\infty} f'(x)e^{-i\omega x}\,dx
である。部分積分を使うと
\widehat{f'}(\omega)
=
\Bigl[f(x)e^{-i\omega x}\Bigr]_{-\infty}^{\infty}
+
i\omega \int_{-\infty}^{\infty} f(x)e^{-i\omega x}\,dx
である。Schwartz 関数なら f,f' の積分は絶対収束し、端の項も 0 になるので、
\widehat{f'}(\omega)=i\omega \hat f(\omega)
を得る。つまり、微分は周波数領域では i\omega を掛ける操作に変わる。
7Gaussian の例
Schwartz 関数である Gaussian
f(x)=e^{-x^2}
のフーリエ変換は
\hat f(\omega)=\sqrt\pi e^{-\omega^2/4}
である。したがって、x の側で局在した滑らかな山は、\omega の側でも Gaussian になる。
この式は、I(\omega)=\int_{\mathbb R}e^{-x^2}e^{-i\omega x}\,dx と置けば確かめられる。積分の中を \omega で微分し、xe^{-x^2}=-\frac12\frac{d}{dx}e^{-x^2} を使って部分積分すると
I'(\omega)=-\frac{\omega}{2}I(\omega)
を得る。ガウス積分 I(0)=\int_{\mathbb R}e^{-x^2}\,dx=\sqrt\pi と合わせると、I(\omega)=\sqrt\pi e^{-\omega^2/4} となる。
8Schwartz 空間外の対象
Dirac のデルタ \delta は、試験関数 \varphi\in\mathcal S(\mathbb R) に対して \langle\delta(\omega-a),\varphi\rangle=\varphi(a) と作用する超関数である。緩増加超関数とは Schwartz 関数上の連続線形汎関数であり、フーリエ変換はこの空間へ拡張できる。
\cos(ax) は無限遠で減衰しないため、通常のフーリエ積分は収束しない。しかし、上記の抽出特性をもつデルタを用いると、現在の規約では緩増加超関数の等式
\mathcal F\{\cos(ax)\}
=\pi\bigl(\delta(\omega-a)+\delta(\omega+a)\bigr)
が成立する。この等式は、両辺を任意の Schwartz 試験関数へ作用させた結果が一致することを意味し、通常の収束積分の等式ではない。
f\in L^1(\mathbb R) なら正変換の積分は各 \omega で存在するが、反転には追加条件が必要である。一般の L^2(\mathbb R) 関数では積分が点ごとに存在するとは限らず、Plancherel 定理による一意な L^2 拡張として定義する。
9Plancherel 定理
Plancherel 定理 Schwartz 関数では
\int_{-\infty}^{\infty}|f(x)|^2\,dx
=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}|\hat f(\omega)|^2\,d\omega
が成立する。これは時間領域で測った二乗積分と、周波数領域で測った二乗積分が規約の係数を除いて一致することを表す。Schwartz 関数に対する証明は、反転公式を代入して積分順序を交換し、複素共役を含む内積を保つことから得られる。さらに Schwartz 関数が L^2(\mathbb R) で稠密であることを使うと、フーリエ変換を L^2 極限として一意に拡張できる。
10数学的な解釈
10.1解析学的な解釈
微積分が関数の各点における値と局所変化を記述するのに対し、フーリエ変換は関数を周波数成分の重ね合わせとして表現する。この表現は波動と信号の解析に適する。
10.2線形代数・行列による解釈
有限個の点だけを扱う離散版では、フーリエ変換は行列を掛けることと同じである。連続版でも、反転公式と Plancherel 等式により「時間領域の記述を連続な周波数座標の記述へ移す変換」と見られる。ただし e^{i\omega x} 自体は L^2(\mathbb R) に入らないので、通常の有限次元基底とまったく同じではない。
この解釈により、フーリエ変換を特殊な積分公式ではなく、座標変換として理解できる。
10.3作用素による解釈
微分という作用素は、形式的には e^{i\omega x} に対して
\frac{d}{dx}e^{i\omega x}=i\omega e^{i\omega x}
となる。この意味で e^{i\omega x} を微分作用素の一般化固有関数とみなせる。通常の L^2 固有関数ではないことに注意する。フーリエ変換をすると微分方程式が周波数ごとの代数方程式へ変わるのは、この関係による。
この解釈により、フーリエ変換と微分方程式の関係を固有値問題として整理できる。
10.4適用対象
- 波動、振動、周期性を周波数成分によって解析する場合
- 微分方程式を周波数ごとの代数方程式へ変換する場合
- 局所情報ではなく全体的な振動構造を分析する場合
11成立範囲と変換契約
周期構造にはフーリエ級数、実数直線全体の非周期的な信号にはフーリエ変換が基本的なモデルになる。ただし、対象とする関数空間や超関数への拡張によって両者の境界は変わる。
この講義の正変換・逆変換・微分公式・Plancherel 等式は、すべて f\in\mathcal S(\mathbb R) という共通条件の下で述べた。L^1、L^2、緩増加超関数への拡張では、前節で述べた各空間の定義と成立条件を使用する。
この講義の変換契約
f\in\mathcal S(\mathbb R) なら
\hat f(\omega)=\int_{\mathbb R}f(x)e^{-i\omega x}\,dx,
\qquad
f(x)=\frac1{2\pi}\int_{\mathbb R}\hat f(\omega)e^{i\omega x}\,d\omega,
\widehat{f'}(\omega)=i\omega\hat f(\omega),
\qquad
\int_{\mathbb R}|f|^2=\frac1{2\pi}\int_{\mathbb R}|\hat f|^2.
12関連リンク
data/lecture/math/analysis/analysis-portal.lecture.n.md
data/lecture/information/communications/communications-engineering-basics.lecture.n.md
data/lecture/math/analysis/introduction-to-laplace-transform.lecture.n.md
data/lecture/physics/waves/waves-basics.lecture.n.md
data/lecture/physics/waves/interference-and-diffraction.lecture.n.md