maximum principle の基本
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1導入
この講義では、Laplace 方程式や熱方程式において、内部の最大値が境界や初期条件に支配されることを説明する。
2用語と定義
maximum principle は、この講義で扱う Laplace 方程式と斉次熱方程式において、解の最大値や最小値が内部で自由には発生しないことを述べる原理である。一般の楕円型・放物型作用素では、一様楕円性、作用素の符号規約、低階項の符号などの追加条件が必要である。
3方針
直観的には、Laplace 方程式 \Delta u=0 の解は、内部に源を持たない平衡状態を表す。そのため、境界値の範囲を逸脱する極値は内部に発生しない。
4弱最大値原理
空でない有界開集合 \Omega\subset\mathbb R^n で u\in C(\overline\Omega)\cap C^2(\Omega)、\Delta u=0 とする。このとき u の最大値と最小値は境界 \partial\Omega で達成され、
\max_{\overline{\Omega}}u=\max_{\partial\Omega}u,\qquad
\min_{\overline{\Omega}}u=\min_{\partial\Omega}u
である。さらに \Omega が連結なら、強最大値原理は、u が内部で最大値または最小値を取れば u は \Omega 全体で定数である、と述べる。以下の摂動証明が対象とするのは弱最大値原理である。強最大値原理の証明はこの講義の射程外であり、ここでは補足命題として位置付ける。
5弱最大値原理の証明の核
証明の発想は、内部最大では二階微分の和が正になれない、という事実である。まず滑らかな関数 v が内部点で最大値を取るなら、その点で二階偏導関数行列 Hessian は負半定値である。したがって
\Delta v\le 0
である。
一方、u が調和関数なら \Delta u=0 であり、この条件だけでは直ちに矛盾を導けない。そこで
v_\varepsilon(x)=u(x)+\varepsilon |x|^2
を導入する。n 次元では
\Delta v_\varepsilon=2n\varepsilon>0
である。もし v_\varepsilon が内部で最大値を取れば、内部最大の必要条件から \Delta v_\varepsilon\le 0 となり矛盾する。したがって v_\varepsilon の最大値は境界で達成される。R=\max_{x\in\overline\Omega}|x| とすれば
\max_{\overline\Omega}u
\le \max_{\partial\Omega}u+\varepsilon R^2
となる。最後に \varepsilon\downarrow0 として最大値の主張を得る。-u に同じ議論を適用すれば最小値の主張も従う。
この議論は厳密には有界開集合、閉包上の連続性、内部での C^2 正則性を仮定する。定理の強化版では、楕円型作用素の係数条件も確認する。
6重要性
maximum principle は、解の一意性や安定性の証明に使用される。明示解が得られない場合であっても、解の範囲を制御できる。
7一意性への応用
同じ境界値を持つ二つの調和関数 u,v があるとする。w=u-v とおくと、\Delta w=0 であり、境界では w=0 である。maximum principle により w の最大値も最小値も 0 であるため、w=0、すなわち u=v である。
8境界値に対する安定性
調和関数 u_1,u_2 の境界値をそれぞれ g_1,g_2 とする。w=u_1-u_2 とおけば w と -w に maximum principle を適用できるため、
\sup_{x\in\Omega}|u_1(x)-u_2(x)|
\le \sup_{x\in\partial\Omega}|g_1(x)-g_2(x)|
を得る。したがって、境界値の一様な微小変化は内部で増幅されない。これが maximum principle による安定性である。
9heat 方程式の場合
\Omega を空でない有界開集合、T>0 とし、Q_T=\Omega\times(0,T] と置く。放物型境界を
\partial_pQ_T=(\overline\Omega\times\{0\})\cup(\partial\Omega\times[0,T])
と定義する。終時刻の上面 \Omega\times\{T\} は放物型境界に含めない。\kappa>0、u\in C(\overline Q_T)\cap C^{2,1}(Q_T) が u_t-\kappa\Delta u=0 を満たすなら、
\max_{\overline Q_T}u=\max_{\partial_pQ_T}u,
\qquad
\min_{\overline Q_T}u=\min_{\partial_pQ_T}u
である。ここで C^{2,1} は空間について二回、時間について一回連続微分可能であることを表す。
証明では v_\varepsilon=u-\varepsilon t とおく。すると
(v_\varepsilon)_t-\kappa\Delta v_\varepsilon=-\varepsilon<0
である。v_\varepsilon が \overline Q_T\setminus\partial_pQ_T で最大値を取るなら、その点で (v_\varepsilon)_t\ge0 かつ \Delta v_\varepsilon\le0 となり、上式に矛盾する。したがって
\max_{\overline Q_T}u
\le \max_{\partial_pQ_T}u+\varepsilon T
であり、\varepsilon\downarrow0 とすれば最大値の主張を得る。-u に適用すれば最小値の主張も従う。同じ議論を二つの解の差に適用すれば、放物型境界のデータに対する L^\infty 安定性も得られる。
たとえば 0<x<L、0<t\le T で u_t-\kappa u_{xx}=0 とし、0\le t\le T における u(0,t),u(L,t) と 0\le x\le L における u(x,0) がすべて 0 から 100 の範囲に入るなら、内部の温度もその範囲を逸脱しない。物理的には、新しい熱源が内部にないため、境界と初期状態が範囲を制御すると解釈できる。
10比較例: 波動方程式
波動方程式では、初期速度により内部の値が後から大きくなることがある。双曲型では最大値の支配より、有限伝播速度とエネルギー保存が中心になる。したがって maximum principle は PDE 全般の性質ではなく、楕円型・放物型に特徴的な原理である。
11直感図としての説明
Laplace 方程式の解を薄膜の高さとして解釈する。境界を固定し、内部に支柱や力を置かない場合、膜の内部に境界より高い山は形成されない。この図式は厳密証明の代替ではないが、境界支配の直感を与える。
12どこまで成立するか
maximum principle は方程式の型と係数の条件に依存する。双曲型の波動方程式では、同じ形式では成立しない。
13関連リンク
data/lecture/math/partial-differential-equations/classification-of-second-order-linear-pdes.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/heat-wave-and-laplace-equations.lecture.n.md
data/lecture/math/partial-differential-equations/fourier-transforms-and-pdes.lecture.n.md
点ごとの最大値制御を確認したので、次は領域全体の積分量を使う energy method へ進む。
data/lecture/math/partial-differential-equations/introduction-to-energy-methods.lecture.n.md