導入
この講義で最重要なのは、気体の状態を P,\ V,\ T で表し、熱・仕事・内部エネルギーの出入りを区別することです。
熱力学でつまずきやすいのは、記号は少ないのに、Q、W、\Delta U の向きと意味が頭の中で混ざりやすいことです。この講義では、まず状態を表す量と出入りするエネルギーを分け、そのあとで状態変化ごとに何が残るかを見ます。
直感的な説明
気体は粒子が激しく動いていて、その勢いが圧力です。体積を広げると気体は外へ仕事をします。熱を加えると、その一部は内部エネルギーを増やし、一部は仕事へ回ります。
力学では 1 個の物体に注目して運動を追いましたが、熱力学では無数の粒子をまとめて見ます。だから、位置や速度ではなく P,\ V,\ T のような巨視的な量で状態を押さえます。
厳密な説明
1. 状態方程式
PV=nRT
は、圧力 P、体積 V、絶対温度 T を結びます。
この式を使う理由は、熱力学では気体 1 個 1 個の位置や速度を追わず、全体を P,\ V,\ T という巨視的な量で記述したいからです。つまり PV=nRT は、理想気体を巨視的に扱うための基本モデルです。
この式は、3 つの量が独立ではなく、2 つを決めると残り 1 つが決まることを言っています。したがって問題では、「何が一定か」を先に読み取ることが重要です。
ただし、PV=nRT は「どんな気体にも厳密に成り立つ法則」ではなく、分子間力や分子の大きさを無視できる理想気体の近似です。だからこの講義で状態方程式を使うときは、暗黙に理想気体を前提にしています。
2. 第 1 法則
\Delta U=Q-W
で、Q は加えた熱量、W は気体が外部にした仕事です。
これは気体に注目したエネルギー保存です。外部から熱 Q が入ると気体のエネルギーは増えますが、そのうち W だけを外へ仕事として渡したなら、内部に残る増分は
\Delta U=Q-W
になります。
この符号の意味を固定しておくことが大切です。W>0 は「気体が外へ仕事をした」場合なので、そのぶん内部エネルギーは減る向きに働きます。
3. 仕事 W=\int P\,dV が出る理由
気体がピストンを押している場面を考えます。ピストンの断面積を S、微小距離だけ動いた量を dx とすると、気体がピストンに及ぼす力は
F=PS
です。したがって微小仕事は
dW=F\,dx=PS\,dx
です。ここで S\,dx=dV は体積の増加分だから
dW=P\,dV
となり、積分して
W=\int P\,dV
を得ます。
4. 状態変化をどう見分けるか
体積が変わらなければ W=0 です。温度が一定なら、理想気体では内部エネルギーは温度だけで決まるので \Delta U=0 です。ここを先に押さえると、残りの量が自動的に決まります。
この判定で大事なのは、「何が一定か」と「どの法則を使ってよいか」を混同しないことです。たとえば等温変化で \Delta U=0 と置けるのは、理想気体の内部エネルギーが温度だけで決まる、という事実を使っているからです。したがって実在気体では、そのまま使えない場合があります。
5. 具体例
等積変化では V 一定なので W=0 です。したがって
\Delta U=Q
です。つまり与えた熱は全部内部エネルギーへ行きます。
等温変化では T 一定なので、理想気体では \Delta U=0 と見て
Q=W
です。つまり加えた熱は、そのまま仕事に出ていきます。
断熱変化では Q=0 なので
\Delta U=-W
です。したがって気体が外へ仕事をすれば、そのぶんだけ内部エネルギーが減り、理想気体では温度も下がります。ここで「熱の出入りがないこと」と「温度が一定であること」は全く別の条件だと区別することが重要です。
さらに等温変化で仕事そのものを出したいなら、PV=nRT から
P=\frac{nRT}{V}
だから、
W=\int_{V_1}^{V_2} P\,dV
=
\int_{V_1}^{V_2}\frac{nRT}{V}\,dV
です。ここで等温変化では T が一定なので
W=nRT\int_{V_1}^{V_2}\frac{dV}{V}
=
nRT\log\frac{V_2}{V_1}
を得ます。したがって理想気体の等温変化では
Q=W=nRT\log\frac{V_2}{V_1}
です。
この 2 つは対照的です。等積変化では仕事がないので熱は全部内部へ入り、等温変化では内部が増えないので熱は全部仕事へ出ます。