線型化と固有値判定の入口
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1導入
この講義では、非線型系の平衡点の近傍で一次近似を抽出し、得られた線型系の固有値から局所安定性を判定する。
2標準形
対象は
\boldsymbol{x}'=\boldsymbol{F}(\boldsymbol{x})
である。平衡点 \boldsymbol{x}_* は \boldsymbol{F}(\boldsymbol{x}_*)=\boldsymbol{0} を満たす点である。
本講義では \boldsymbol{F} が平衡点の近傍で C^1 級である場合を扱う。したがって局所的な解の存在と一意性が成立し、初期値から定まる解を一つの記号で表せる。
3安定性の定義
時刻 t_0 を固定し、そこから始まる解を \boldsymbol{x}(t;t_0,\boldsymbol{x}_0) と書く。自律系なので、以下の性質は t_0 の選び方に依存しない。また、以下で指定する近傍の各初期値について、解がすべての t\ge t_0 で存在することも条件に含める。
平衡点 \boldsymbol{x}_* がLyapunov 安定であるとは、任意の \varepsilon>0 に対してある \delta>0 が存在し、
\|\boldsymbol{x}_0-\boldsymbol{x}_*\|<\delta
\quad\Longrightarrow\quad
\|\boldsymbol{x}(t;t_0,\boldsymbol{x}_0)-\boldsymbol{x}_*\|<\varepsilon
\quad(t\ge t_0)
となることである。これは「十分近くから出発した解が、その後も近くにとどまる」という条件であり、\boldsymbol{x}_* へ収束することまでは要求しない。
平衡点が局所吸引的であるとは、ある r>0 が存在し、
\|\boldsymbol{x}_0-\boldsymbol{x}_*\|<r
\quad\Longrightarrow\quad
\boldsymbol{x}(t;t_0,\boldsymbol{x}_0)\longrightarrow\boldsymbol{x}_*
\quad(t\to\infty)
となることである。Lyapunov 安定かつ局所吸引的である平衡点を局所漸近安定という。不安定とは Lyapunov 安定でないことである。
さらに、Lyapunov 安定であり、すべての初期値からの解が前向きに大域存在して \boldsymbol{x}_* へ収束するとき、大域漸近安定という。
Jordan 講義で確認したとおり、線型系では虚軸上の固有値に属する Jordan ブロックの大きさが解の有界性を決定する。次に、この線型系の判定を非線型系の平衡点近傍へ適用する。
4線型近似の意義
非線型系を厳密に解くことは困難である。しかし平衡点の近傍では Taylor 展開の一次項が支配的になる。変数 \boldsymbol{u}=\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_* と置くと、
\boldsymbol{u}'=A\boldsymbol{u}+\boldsymbol{r}(\boldsymbol{u}),
\qquad
A=D\boldsymbol{F}(\boldsymbol{x}_*),
\qquad
\frac{\|\boldsymbol{r}(\boldsymbol{u})\|}{\|\boldsymbol{u}\|}\longrightarrow 0
\quad(\boldsymbol{u}\to\boldsymbol{0})
である。ここで D\boldsymbol{F}(\boldsymbol{x}_*) は Jacobian 行列である。C^1 級から従うのは、剰余 \boldsymbol{r}(\boldsymbol{u}) が一次項に比べて無視できるという上の極限である。O(\|\boldsymbol{u}\|^2) まで主張するには、さらに強い滑らかさが必要である。
Jacobian 行列は、非線型写像 \boldsymbol{F} 全体を線型写像と同一視するものではない。平衡点 \boldsymbol{x}_* で固定したとき、増分 \boldsymbol{u} に作用する線型写像
\boldsymbol{u}\mapsto D\boldsymbol{F}(\boldsymbol{x}_*)\boldsymbol{u}
を抽出するための行列である。
data/lecture/math/multivariable-calculus/tangent-planes-chain-rule-and-jacobian.lecture.n.md
5固有値判定
ここで適用する定理は、非線型系を線型系と完全に同一視する規則ではない。平衡点の近傍で、線型化が安定性を正しく判定するための定理である。
5.1まず線型系を完全に判定する
\boldsymbol{u}'=A\boldsymbol{u} の原点については、Jordan 講義の時間発展から次が従う。
- すべての固有値が \operatorname{Re}\lambda<0 を満たすことと、原点が大域漸近安定であることは同値である。
- すべての固有値が \operatorname{Re}\lambda\le 0 を満たし、虚軸上の固有値に属する Jordan ブロックがすべて大きさ 1 であることと、原点が Lyapunov 安定であることは同値である。
- \operatorname{Re}\lambda>0 の固有値があるか、虚軸上に大きさ 2 以上の Jordan ブロックがあれば、原点は不安定である。
これは線型系そのものの完全な判定である。次の定理は、この判定のうち符号が境界から離れた部分を非線型系へ移す。
5.2線型化定理の形
右辺 \boldsymbol{F} が平衡点 \boldsymbol{x}_* の近傍で C^1 級であり、Jacobian 行列
A=D\boldsymbol{F}(\boldsymbol{x}_*)
の固有値が虚軸上に存在しないとする。このような平衡点を双曲型という。
この仮定のもとで、A の固有値の実部がすべて負なら、平衡点は局所漸近安定である。A が実部の正の固有値を含むなら、平衡点は不安定である。
A が正の実部をもつ固有値を含むなら、ほかに虚軸上の固有値があっても不安定と判定できる。正の実部をもつ固有値がなく、実部 0 の固有値を含む場合は、線型化だけでは原則として判定できない。この境界例では剰余項が本質になる。
本講義では定理の厳密な証明までは扱わない。適用範囲は、平衡点の局所的な安定・不安定の判定である。
6具体例 1:Jacobian を実際に計算する
\begin{cases}
x'=x(1-x-y),\\
y'=y(2-x-y)
\end{cases}\begin{cases}
x'=x(1-x-y),\\
y'=y(2-x-y)
\end{cases}
で平衡点を確認すると、(0,0),(1,0),(0,2) が得られる。右辺を F_1=x(1-x-y),\ F_2=y(2-x-y) とおくと、Jacobian は
J(x,y)=
\begin{pmatrix}
1-2x-y & -x\\
-y & 2-x-2y
\end{pmatrix}
である。(1,0) では
J(1,0)=
\begin{pmatrix}
-1 & -1\\
0 & 1
\end{pmatrix}
となり、固有値は -1,1 である。正の固有値を含むため、(1,0) は不安定である。線型化は、平衡点の近傍で一方向には接近し、別方向には離脱する構造を抽出している。
7具体例 2:線型化だけで判定不能な場合
x'=x^2
では x=0 が平衡点である。Jacobian に相当する導関数は 2x であり、x=0 では 0 となる。固有値の実部が 0 であるため、線型化は安定性を判定しない。
しかし x(t)=x_0/(1-x_0(t-t_0)) なので、x_0>0 では有限時間で発散し、x=0 は Lyapunov 不安定である。一方、x'=-x^3 も x=0 で同じ線型化 u'=0 をもつが、x(t) の絶対値は単調に減少して 0 に収束するため、原点は局所漸近安定である。同じ線型化から逆の結論が生じることが、境界例で剰余項を調べる必要を示す。
8判定表
ここでは任意次元の非線型系に対する結論だけをまとめる。結節点・焦点・鞍点という二次元の幾何分類は次の相平面の講義で扱う。
| Jacobian の固有値 | 非線型平衡点の結論 |
| 実部がすべて負 | 局所漸近安定 |
| 正の実部を 1 つでも含む | 不安定 |
| 正の実部を含まず、実部 0 を含む | 剰余項の解析が必要 |
9適用範囲と限界
線型化は平衡点の近傍での局所理論である。遠方の挙動、周期軌道、大域安定性は別の解析を必要とする。
また、線型化が有効であることは、非線型項を無視してよいことを無条件に意味しない。双曲型でない平衡点では、元の方程式や保存量を直接解析する必要がある。
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data/lecture/math/differential-equations/diagonalization-jordan-form-and-systems.lecture.n.md
11次の講義
data/lecture/math/differential-equations/phase-planes-and-stability.lecture.n.md
12関連リンク
data/lecture/math/multivariable-calculus/tangent-planes-chain-rule-and-jacobian.lecture.n.md
data/exercise/math/differential-equations/systems-and-stability.exercise.n.md