相平面と安定性
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1導入
この講義では、二次元の連立系を相平面で表現し、平衡点の周囲の軌道を固有値で分類する。
相平面とは、時刻ではなく状態 (x,y) を座標にした平面である。一つの解 (x(t),y(t)) が描く像を、時間の向きをもつ軌道という。各点に速度 \boldsymbol{F}(x,y) を対応させたベクトル場と、その軌道族をまとめたものが相図である。
2標準形
\boldsymbol{x}'=A\boldsymbol{x}
または非線型系 \boldsymbol{x}'=\boldsymbol{F}(\boldsymbol{x}) を扱う。非線型系では、まず平衡点を求め、その近傍で Jacobian による線型化を行う。
3実二次元線型系の分類表
この表は双曲型と非零純虚共役対をまとめる。0 を固有値にもつ場合は表外の境界例であり、後で Jordan 構造まで確認する。
以下の表は \boldsymbol{x}'=A\boldsymbol{x} という正確な線型系の分類である。結節点は固有方向に沿って接近または離脱する型、鞍点は接近方向と離脱方向をともにもつ型、焦点は回転しながら接近または離脱する型、中心は閉軌道が平衡点を囲む型である。
| 固有値 | 型 | 安定性 |
| \lambda_1,\lambda_2<0 の実数 | 安定結節点 | 大域漸近安定 |
| \lambda_1,\lambda_2>0 の実数 | 不安定結節点 | 不安定 |
| 符号が異なる実数 | 鞍点 | 不安定 |
| \alpha\pm i\beta,\ \beta\ne0,\ \alpha<0 | 安定焦点 | 大域漸近安定 |
| \alpha\pm i\beta,\ \beta\ne0,\ \alpha>0 | 不安定焦点 | 不安定 |
| \pm i\beta,\ \beta\ne0 | 中心 | Lyapunov 安定だが非吸引的 |
実固有値が重複するときは、固有空間の次元、すなわち Jordan ブロックを確認する。たとえば -I と \begin{pmatrix}-1&1\\0&-1\end{pmatrix} はともに大域漸近安定だが、前者はすべての方向が固有方向であり、後者の軌道には te^{-t} が現れる。実部が 0 から離れていれば Jordan 構造は主に軌道形状を変化させるが、虚軸上では Jordan ブロックの大きさが Lyapunov 安定性そのものも決定する。
0 が固有値なら \ker A\ne\{\boldsymbol{0}\} であり、原点は孤立せず、\ker A 全体が平衡点集合をなす。さらに、0 に属する Jordan ブロックの大きさが 2 以上なら、t の多項式として増大する非有界方向が現れる。
4固有値による分類の根拠
行列指数関数は、固有値の実部により指数成長または指数減衰を生じさせる。複素固有値の虚部は回転成分を生じさせる。ただし軌道形状を図示するには、固有方向と Jordan 構造も必要である。
5判定手順
相平面では、図示を先行させず、平衡点と線型化を先に確認する。
- \boldsymbol{F}(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{0} を解き、平衡点を求める。
- 線型系なら係数行列 A、非線型系なら平衡点での Jacobian 行列 D\boldsymbol{F} を確認する。
- 固有値の実部と虚部から安定性を判定し、実固有値では固有方向と Jordan 構造、複素固有値ではベクトル場から回転方向を確認する。
- 矢印を時間の向きに付け、平衡点へ接近するか離脱するかを定義と照合する。
- 非線型系で正の実部がなく実部 0 を含む場合は、線型化だけで結論を確定しない。線型系そのものなら Jordan 構造まで解析して判定する。
この順序を採用する理由は、相平面の軌道が局所的には線型写像の作用で近似されるためである。図示は結論の代用ではなく、固有値判定を視覚化する補助である。
6具体例 1:結節点と鞍点
\boldsymbol{x}'=
\begin{pmatrix}
-1&0\\
0&-2
\end{pmatrix}
\boldsymbol{x}
では固有値は -1,-2 であり、安定結節点である。
\boldsymbol{x}'=
\begin{pmatrix}
0&1\\
1&0
\end{pmatrix}
\boldsymbol{x}
では固有値は 1,-1 であり、鞍点である。
鞍点では、安定固有方向に沿って原点へ接近する解もある。しかし任意の近傍に、不安定固有方向へ離脱する初期値があるので、平衡点は Lyapunov 不安定である。
7具体例 2:安定焦点
\boldsymbol{x}'=
\begin{pmatrix}
-1&-2\\
2&-1
\end{pmatrix}
\boldsymbol{x}
では固有値は -1\pm 2i である。実部が負であるため半径は指数的に減衰し、虚部が非零であるため軌道は回転する。点 (1,0) における速度は (-1,2) であり、上向きの成分をもつため、軌道は反時計回りに回転する。したがって原点は反時計回りの安定焦点である。
この例では、固有値の実部と虚部が別々の役割を担当する。実部は原点へ接近するかを決定し、虚部は回転の有無を決定する。ただし、回転方向は虚部の符号だけでは決定できず、行列またはベクトル場から判定する。
8具体例 3:非線型系を線型化する
\begin{cases}
x'=x-x^2,\\
y'=-y
\end{cases}\begin{cases}
x'=x-x^2,\\
y'=-y
\end{cases}
を考える。平衡点は (0,0) と (1,0) である。右辺を \boldsymbol{F}(x,y)=(x-x^2,-y) とおくと、
D\boldsymbol{F}(x,y)=
\begin{pmatrix}
1-2x&0\\
0&-1
\end{pmatrix}
である。(0,0) の線型化は固有値 1,-1 をもつ鞍点なので、元の平衡点は不安定である。(1,0) の線型化は固有値 -1,-1 をもつ安定結節点なので、元の平衡点は局所漸近安定である。
この例の要点は、非線型系を全域で線型系と同一視せず、各平衡点の近傍ごとに別々の線型近似を構成する点にある。
9適用範囲と限界
非線型系では、線型化は平衡点近傍の局所情報である。正の実部をもつ固有値がなく、実部 0 を含む場合は、線型化だけでは判定できない。中心型に分類される線型化でも、非線型項により安定または不安定になる場合がある。
一方、線型系そのものでは虚軸上の Jordan ブロックまで含めて完全に判定できる。この二層を混同しないことが相図を適切に判読する要点である。
ここまで自律系の状態空間における軌道を扱った。次の講義では解析対象を時間軸上の外力応答へ移し、ステップ入力・インパルス入力をもつ線型方程式を扱う。これは相平面理論の直接的な続編ではなく、常微分方程式解析の別系列への移行である。
10演習リンク
data/exercise/math/differential-equations/systems-and-stability.exercise.n.md
11前の講義
data/lecture/math/differential-equations/linearization-and-eigenvalue-stability.lecture.n.md
12次の講義
data/lecture/math/differential-equations/step-functions-delta-functions-and-convolution.lecture.n.md