2用語と定義
ジューコフスキー変換とは、典型的には
J(z)=z+\frac{1}{z}
で定義される複素関数である。文献によっては
\zeta=\frac{1}{2}\left(z+\frac{1}{z}\right)
を用いる。係数 \frac{1}{2} は全体の拡大縮小を変えるだけであり、写像の本質は同一である。
等角写像 とは、局所的に角度を保つ写像である。正則かつ導関数が 0 でない点では、複素関数は等角写像として作用する。
5厳密な説明
5.11. 円が楕円へ移る計算
z=re^{i\theta} と置く。ただし r>0 とする。このとき
J(z)=re^{i\theta}+\frac{1}{r}e^{-i\theta}
である。オイラーの公式から e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta、e^{-i\theta}=\cos\theta-i\sin\theta なので、
J(z)=\left(r+\frac{1}{r}\right)\cos\theta
+i\left(r-\frac{1}{r}\right)\sin\theta
となる。像の実部を x、虚部を y と書けば、
x=\left(r+\frac{1}{r}\right)\cos\theta,\qquad
y=\left(r-\frac{1}{r}\right)\sin\theta
である。したがって r\ne 1 では
\frac{x^2}{\left(r+\frac{1}{r}\right)^2}
+
\frac{y^2}{\left(r-\frac{1}{r}\right)^2}
=1
を得る。これは楕円の方程式である。
r=1 のときは y=0 となり、x=2\cos\theta であるから、単位円は実軸の線分 [-2,2] へ移る。
5.22. 等角性が壊れる点
J の導関数は
J'(z)=1-\frac{1}{z^2}
である。したがって
J'(z)=0
\quad\Longleftrightarrow\quad
z^2=1
\quad\Longleftrightarrow\quad
z=\pm 1
となる。z=0 では J そのものが定義されないため、除外する。結論として、z=0,\pm1 を避けた領域では、J は局所的に等角写像として作用する。
5.33. 臨界点が通常の尖点を生む条件
z=1 を通る 4 回連続微分可能な境界曲線を実数 t で \gamma(t) と表し、\gamma(0)=1、a=\gamma'(0)\ne0 とする。このとき
\gamma(t)=1+at+\frac{\gamma''(0)}2t^2+O(t^3)
である。一方、z=1+\varepsilon と置けば
J(1+\varepsilon)=2+\varepsilon^2-\varepsilon^3+O(\varepsilon^4)
なので、代入して
J(\gamma(t))=2+At^2+Bt^3+O(t^4),
A=a^2,
\qquad
B=a\gamma''(0)-a^3
を得る。A\ne0 なので像曲線の一次速度は 0 になり、t>0 側と t<0 側は同じ接線方向へ到達する。しかし、これだけでは通常の尖点になるとは限らない。
A と B が複素平面で異なる実方向を向く、すなわち
\operatorname{Im}(\overline A B)\ne0
のとき、平行移動・回転・拡大縮小の後で局所形は
x=t^2+O(t^3),
\qquad
y=ct^3+O(t^4)
\qquad(c\ne0)
となる。これが通常の半三次尖点である。同値な非退化条件は
\operatorname{Im}\!\left(\frac{\gamma''(0)}{\gamma'(0)}-\gamma'(0)\right)\ne0
である。
中心 c の円が 1 を通るとき、\gamma(t)=c+(1-c)e^{it} と置ける。この場合は B/A=ic なので、\operatorname{Re}c\ne0 なら 1 の像に通常の尖点が生じる。対して単位円では c=0 であり、
J(e^{it})=2\cos t=2-t^2+\frac{t^4}{12}+O(t^6)
となる。三次の横方向成分がなく、単位円全体は線分 [-2,2] へ重なって潰れる。したがって「円が臨界点を通る」ことは尖りを作る機構だが、通常の尖点を保証するには非退化条件も必要である。
5.44. 大域的には 1 対 1 でない
J には
J(z)=J\left(\frac{1}{z}\right)
という対称性がある。したがって、全平面から 0 を除いた領域で 1 対 1 にはならない。
実際、z,u\ne0 に対して
J(z)=J(u)
\quad\Longleftrightarrow\quad
(z-u)(zu-1)=0
なので、異なる 2 点が同じ像を持つのは u=1/z のときに限る。したがって、制限する領域 D が異なる逆数対を含まないことを確認しなければならない。
たとえば D=\{|z|>1\} では 1/z\notin D なので J は単射であり、J:D\to\mathbb C\setminus[-2,2] は正則な逆写像を持つ等角写像になる。逆写像を求めると
w=z+\frac{1}{z}
\quad\Longleftrightarrow\quad
z^2-wz+1=0
なので、
z=\frac{w\pm\sqrt{w^2-4}}{2}
を得る。|z|>1 に対応するのは、無限遠で z(w)\sim w となる
z(w)=\frac{w+\sqrt{w^2-4}}2
の枝である。平方根は \mathbb C\setminus[-2,2] でこの漸近条件を満たすように選ぶ。中心をずらした円の外部を使う場合には単射性は自動的ではない。対象領域に異なる逆数対がないことと、境界の臨界点以外で像が重ならないことを別途確認する。
7別の観点
7.1幾何的な観点
ジューコフスキー変換は、円と放射線からなる極座標の曲線族を、楕円と双曲線の曲線族へ移す変換として理解できる。この観点では、式 z+\frac{1}{z} は図形を組み替える装置である。
7.2複素関数的な観点
J'(z)=0 となる点では、正則写像が局所的な回転と拡大として作用するという性質が破綻する。この破綻を境界に配置することで、滑らかな円から尖った境界を生成できる。
7.3流体力学への接続
二次元の非圧縮・非粘性・渦なしの流れでは、速度ポテンシャルと流線関数を組み合わせた複素ポテンシャルを用いることができる。このとき、円柱まわりの既知の流れを、等角写像で翼型まわりの流れへ移す戦略が成立する。
円の外部領域 D で得た複素ポテンシャルを F(z)、翼型外部を \Omega=J(D) とする。J:D\to\Omega が単射で逆写像を選べるとき、翼型面の点 w におけるポテンシャルは
W(w)=F(J^{-1}(w))
である。つまり、J^{-1} で解きやすい円の外部へ戻り、そこで求めた解を J の像として解釈する。複素速度に対応する導関数は、w=J(z) に対して連鎖律より
W'(w)=\frac{F'(z)}{J'(z)}
となる。後縁に対応する z=1 では J'(1)=0 なので、速度を有限に保つには F'(z) も同じ程度で 0 になって分母の零点を相殺する条件が必要になる。これは循環を選ぶクッタ条件へつながるが、ここでは写像だけでは流れの境界条件まで自動的に決まらないことを確認する。
ただし、現実の流体には粘性や剥離が存在する。ジューコフスキー変換は理想流体の解析的な模型として強力であるが、実験や数値流体の代替そのものではない。
10最終形
\boxed{J(z)=z+\frac{1}{z}}
\boxed{J'(z)=1-\frac{1}{z^2},\qquad J'(\pm1)=0}
\boxed{z=re^{i\theta}\Rightarrow
J(z)=\left(r+\frac{1}{r}\right)\cos\theta
+i\left(r-\frac{1}{r}\right)\sin\theta}
\boxed{z,u\ne0\ \Longrightarrow\ \bigl(J(z)=J(u)\ \Longleftrightarrow\ z=u\ \text{ または }\ zu=1\bigr)}
\boxed{\substack{J:D\to\Omega\text{ は単射}\\z\in D,\ w=J(z)}\ \Longrightarrow\ W(w)=F(J^{-1}(w)),\quad W'(w)=\frac{F'(z)}{J'(z)}}