2用語と定義
2.1テイラー多項式とテイラー級数
f が x=a の近くで n 回微分可能なとき、
T_n(x)=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k
を f の a まわりの n 次までのテイラー多項式という。f が a の近くで無限回微分可能なら、微分係数から
\sum_{k=0}^{\infty}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k
というテイラー級数が定まる。a=0 の場合をマクローリン多項式・マクローリン級数という。
注意:テイラー級数は微分係数から形式的に定まるが、その級数が収束するとは限らず、収束しても f(x) と一致するとは限らない。一致を示してはじめて
f(x)=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k
を f の a まわりのテイラー展開として使える。
4厳密な説明
4.11. 係数の決まり方
多項式 P_n(x) = \sum_{k=0}^n c_k (x-a)^k を f に合わせたいとする。x = a で P_n^{(j)}(a) = f^{(j)}(a)(j = 0, 1, \ldots, n)を要求すると:
P_n^{(j)}(x) = j! \cdot c_j + (\text{次数 \ge 1 の項})
なので x = a を代入して j! \cdot c_j = f^{(j)}(a)、したがって
c_j = \frac{f^{(j)}(a)}{j!}
この c_j の決め方は一意であり、「a での局所的な微分情報から係数が完全に定まる」ことを示している。
4.22. ラグランジュ剰余項
I を端点 a,x を持つ閉区間とする。f が I で n 回連続微分可能で、I の内部で n+1 階の導関数を持つとき、a と x の間のある \xi が存在して:
f(x) = \sum_{k=0}^n \frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k + \underbrace{\frac{f^{(n+1)}(\xi)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}}_{R_n(x)}
が成立する。f が各 n についてこの仮定を満たし、固定した x で R_n(x)\to0 を示られれば、T_n(x)\to f(x) となり、その点でテイラー級数が f(x) に一致する。
使い方:a と x の間で |f^{(n+1)}(t)|\le M となる上界 M があれば、|R_n(x)|\le M|x-a|^{n+1}/(n+1)! と評価できる。例えば e^x の x \in [0,1] での n 次近似の誤差は e/({(n+1)!}) \le 3/(n+1)!。
4.33. 主要なマクローリン展開
| 関数 | 展開 | 収束半径 R | 実数上の収束範囲 |
| e^x | \displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{x^k}{k!} | \infty | \mathbb R |
| \sin x | \displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(-1)^k x^{2k+1}}{(2k+1)!} | \infty | \mathbb R |
| \cos x | \displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(-1)^k x^{2k}}{(2k)!} | \infty | \mathbb R |
| \ln(1+x) | \displaystyle\sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{(-1)^{k-1} x^k}{k} | 1 | -1<x\le1 |
| \dfrac{1}{1-x} | \displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} x^k | 1 | |x|<1 |
| (1+x)^\alpha, \alpha\notin\mathbb Z_{\ge0} | \displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} \binom{\alpha}{k} x^k | 1 | |x|<1 では必ず収束 |
| (1+x)^m, m\in\mathbb Z_{\ge0} | \displaystyle\sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} x^k | \infty | \mathbb R |
係数 a_k が十分大きい k で 0 でなく、極限が存在するときは、ダランベール比判定法により
R=\lim_{k\to\infty}\left|\frac{a_k}{a_{k+1}}\right|
で収束半径を求められる。比の極限が存在しない一般の場合は、コーシー・アダマールの公式
\frac1R=\limsup_{k\to\infty}|a_k|^{1/k}
を使う。ここで右辺が 0 なら R=\infty、\infty なら R=0 とする。
4.44. 応用:極限の計算
テイラー展開は \lim の「0/0 型」を処理する強力な道具である。
例 1:\displaystyle\lim_{x \to 0} \dfrac{\sin x - x}{x^3}
\sin x = x - \dfrac{x^3}{6} + O(x^5) より \sin x - x = -\dfrac{x^3}{6} + O(x^5)、したがって極限は -1/6。
例 2:\displaystyle\lim_{x \to 0} \dfrac{e^x - 1 - x}{x^2}
e^x = 1 + x + \dfrac{x^2}{2} + O(x^3) より分子は \dfrac{x^2}{2} + O(x^3)、極限は 1/2。
4.55. 解析的関数と滑らかな関数
C^\infty(無限回微分可能)であっても、テイラー展開が元の関数と一致しない例が存在する:
f(x) = \begin{cases} e^{-1/x^2} & (x \neq 0) \\ 0 & (x = 0) \end{cases}f(x) = \begin{cases} e^{-1/x^2} & (x \neq 0) \\ 0 & (x = 0) \end{cases}
x\ne0 で繰り返し微分すると、f^{(k)}(x) は 1/x の多項式と e^{-1/x^2} の積になる。x\to0 では指数関数の減衰が 1/|x| のどの冪の増大よりも速い。この事実を使い、f^{(k)}(0)=0 を k について帰納的に示る。k=0 は f(0)=0 という定義そのものである。帰納段階では、h\ne0 に対する f^{(k)}(h) が上の形なので、
f^{(k+1)}(0)
=\lim_{h\to0}\frac{f^{(k)}(h)-f^{(k)}(0)}{h}=0
となる。したがってすべての k について f^{(k)}(0)=0 である。0 まわりのテイラー級数は恒等的に 0 だが、x\ne0 では f(x)>0 であり、f とはどの 0 の近傍でも一致しない。
各点 a に対して、ある a の近傍が存在し、その近傍で a まわりのテイラー級数が収束して関数と一致するとき、その関数を解析的という。解析性は、このような局所的な一致を各点で要求する性質である。
7最終形
\boxed{T_n(x)=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k}
\boxed{\substack{\text{各 }n\text{ でTaylor公式の仮定が成立し、}\\\text{固定した }x\text{ で }R_n(x)\to0}\ \Longrightarrow\ f(x)=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k}
\boxed{f(x) = T_n(x) + \frac{f^{(n+1)}(\xi)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1} \quad (\text{ラグランジュ剰余項})}
\boxed{e^x = \sum \frac{x^k}{k!},\quad \sin x = \sum \frac{(-1)^k x^{2k+1}}{(2k+1)!},\quad \ln(1+x) = \sum \frac{(-1)^{k-1}x^k}{k}}