線型作用素とは何か
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1導入
この講義では、作用素を「名前のついた計算手順」ではなく、「ある空間の元を、別の空間の元へ送る写像」として読むことを説明する。
微分、積分、列のシフト、行列による変換は見た目が異なる。しかし、どれも
L:V\to W
という写像として扱える。特に、足し算と定数倍を保つものが線型作用素である。
2定義
\mathbb K を体、V,W を \mathbb K 上のベクトル空間とする。
作用素とは、この講義では広く
L:V\to W
という写像をいう。V=W のように、同じ空間を自分自身へ送る場合に「作用素」という言葉を特によく使う。
線型作用素とは、任意の x_1,x_2\in V と任意の \alpha,\beta\in\mathbb K について
L(\alpha x_1+\beta x_2)=\alpha Lx_1+\beta Lx_2
を満たす写像 L:V\to W である。
ここで Lx は L(x) と同じ意味である。行列のように作用させる書き方をしているだけで、写像としての意味は L(x) と変わらない。
3方針
作用素を見たら、まず次を確認する。
- 入力の空間 V は何か。
- 出力の空間 W は何か。
- L(\alpha x+\beta z)=\alpha Lx+\beta Lz が成立するか。
この順序を固定する理由は、線型性が「式の形」だけではなく、定義域と終域にも依存するからである。たとえば微分作用素は、微分できる関数を入力にしなければ定義できない。
4命題 1:恒等作用素と零作用素は線型である
4.1主張
V 上の恒等作用素 I:V\to V を
Ix=x
で定義する。このとき I は線型である。
また、V から W への零作用素 0:V\to W を
0(x)=0_W
で定義する。このとき 0 も線型である。
4.2証明
x_1,x_2\in V、\alpha,\beta\in\mathbb K とする。恒等作用素については
I(\alpha x_1+\beta x_2)=\alpha x_1+\beta x_2=\alpha Ix_1+\beta Ix_2
である。したがって I は線型である。
零作用素については
0(\alpha x_1+\beta x_2)=0_W
である。一方、W はベクトル空間なので
\alpha0_W+\beta0_W=0_W
である。したがって
0(\alpha x_1+\beta x_2)=\alpha0(x_1)+\beta0(x_2)
であり、0 は線型である。
5命題 2:線型作用素の和と定数倍は線型である
5.1主張
S,T:V\to W が線型作用素で、a,b\in\mathbb K とする。このとき
aS+bT:V\to W,\qquad (aS+bT)(x)=aSx+bTx
も線型作用素である。
5.2証明
x_1,x_2\in V、\alpha,\beta\in\mathbb K とする。S,T の線型性より
\begin{aligned}
(aS+bT)(\alpha x_1+\beta x_2)
&=aS(\alpha x_1+\beta x_2)+bT(\alpha x_1+\beta x_2)\\
&=a(\alpha Sx_1+\beta Sx_2)+b(\alpha Tx_1+\beta Tx_2)\\
&=\alpha(aSx_1+bTx_1)+\beta(aSx_2+bTx_2)\\
&=\alpha(aS+bT)(x_1)+\beta(aS+bT)(x_2).
\end{aligned}\begin{aligned}
(aS+bT)(\alpha x_1+\beta x_2)
&=aS(\alpha x_1+\beta x_2)+bT(\alpha x_1+\beta x_2)\\
&=a(\alpha Sx_1+\beta Sx_2)+b(\alpha Tx_1+\beta Tx_2)\\
&=\alpha(aSx_1+bTx_1)+\beta(aSx_2+bTx_2)\\
&=\alpha(aS+bT)(x_1)+\beta(aS+bT)(x_2).
\end{aligned}
したがって aS+bT は線型である。
ここで S と T は同じ定義域 V と同じ終域 W を持つ必要がある。Sx と Tx を足すには、どちらも W の元でなければならない。
6命題 3:線型作用素の合成は線型である
6.1主張
A:U\to V と B:V\to W が線型作用素なら、合成
B\circ A:U\to W,\qquad (B\circ A)(u)=B(Au)
も線型作用素である。
6.2証明
u_1,u_2\in U、\alpha,\beta\in\mathbb K とする。まず A の線型性から
A(\alpha u_1+\beta u_2)=\alpha Au_1+\beta Au_2
である。これに B を作用させ、B の線型性を使うと
\begin{aligned}
(B\circ A)(\alpha u_1+\beta u_2)
&=B(A(\alpha u_1+\beta u_2))\\
&=B(\alpha Au_1+\beta Au_2)\\
&=\alpha B(Au_1)+\beta B(Au_2)\\
&=\alpha(B\circ A)(u_1)+\beta(B\circ A)(u_2).
\end{aligned}\begin{aligned}
(B\circ A)(\alpha u_1+\beta u_2)
&=B(A(\alpha u_1+\beta u_2))\\
&=B(\alpha Au_1+\beta Au_2)\\
&=\alpha B(Au_1)+\beta B(Au_2)\\
&=\alpha(B\circ A)(u_1)+\beta(B\circ A)(u_2).
\end{aligned}
したがって B\circ A は線型である。
合成では順序に注意する。B\circ A は「先に A、次に B」である。また、A の出力が B の入力として使えるように、A:U\to V、B:V\to W という型が合っている必要がある。
7例:微分作用素と差分作用素
たとえば、微分作用素
D:C^1[a,b]\to C[a,b],\qquad Df=f'
は線型である。実際、
D(\alpha f+\beta g)=(\alpha f+\beta g)'=\alpha f'+\beta g'=\alpha Df+\beta Dg
である。
また、列 a=(a_n) に対するシフト作用素 E を
(Ea)_n=a_{n+1}
と定義すると、E は線型である。さらに I も線型なので、命題 2 により
\Delta=E-I
も線型である。これが差分作用素である。
8どこまで成立するか
このページの命題は、有限次元に限らず、任意のベクトル空間で成立する。ただし、微分作用素や積分作用素のような関数空間上の作用素では、どの関数空間を定義域と終域にするかを明示する必要がある。
10一言でいうと
線型作用素とは、線型結合を保つ写像である。和、定数倍、合成で閉じるため、複雑な作用素を基本的な作用素から組み立てられる。