線型作用素方程式の基本
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1導入
この講義では、
Lx=y
という線型作用素方程式を、作用素の名前ではなく
\ker L,\qquad \operatorname{Im}L
から読むことである。
解が存在するかは、右辺 y が像に入っているかで決まる。解が 1 つ見つかった後、ほかにどれだけ解があるかは核で決まる。
この構造は、行列方程式 Ax=b、微分方程式 L[y]=f、差分方程式 \Delta a=b、漸化式 P(E)a=b に共通する。
2用語と定義
\mathbb K を体、V,W を \mathbb K 上のベクトル空間とし、L:V\to W を線型作用素とする。
線型作用素の定義と、和・合成が線型であることは、前のページで証明した。
data/lecture/math/linear-operator/introduction-to-linear-operators.lecture.n.md
核とは、L によって 0 へ送られる入力の集合
\ker L=\{x\in V\mid Lx=0\}
である。
像または値域とは、L によって実際に到達できる出力の集合
\operatorname{Im}L=\{Lx\in W\mid x\in V\}
である。\ker L は定義域 V の部分集合であり、\operatorname{Im}L は終域 W の部分集合である。この所属先を混同してはならない。
3解の用語
線型作用素方程式では、似た言葉を区別する必要がある。
3.1同次方程式と同次解
Lx=0 を同次方程式という。その解を同次解という。同次解の全体は
\ker L
である。これは核の定義そのものである。
3.2特殊解
Lx=y の解を 1 つ見つけたとき、その 1 つを特殊解という。この講義群では、この用語に統一する。
特殊解は 1 つでよい。なぜなら、1 つ見つかれば、そこに \ker L を足すことで全ての解を作れるからである。この事実は定理 2 で証明する。
3.3一般解
Lx=y の解全体を表したものを一般解という。解が存在するなら、線型作用素方程式の一般解は
x=x_p+h,\qquad h\in\ker L
という形になる。
3.4特異解
特異解という言葉は、主に非線型の微分方程式で「一般解の任意定数をどのように選んでも出てこない解」という意味で使われることがある。
しかし、固定された線型作用素 L について Lx=y を考えている限り、解が存在すれば全ての解は x_p+\ker L に入る。したがって、この枠組みでは「一般解の外に別の特異解がある」とは考えない。
一言でいうと、特異解は主に非線型微分方程式で、一般解の族が包絡線を持つとき、または解の一意性・正則性が退化する点で現れる。この現象は線型作用素方程式の外側にあるため、微分方程式の個別ページで扱う。
data/lecture/math/differential-equations/singular-solutions-and-envelopes.lecture.n.md
3.5平衡解
平衡解は、時間発展を表す方程式で使う言葉である。値が時間とともに変わらない解をいう。
たとえば自律型微分方程式
x'(t)=F(x(t))
で定数関数 x(t)=x_* が解になる条件は
F(x_*)=0
である。実際、x(t)=x_* なら x'(t)=0 なので、代入して 0=F(x_*) が必要である。逆に F(x_*)=0 なら、x(t)=x_* は方程式を満たす。
4方針
Lx=y を読むときは、次の順序で判断する。
- 右辺 y が \operatorname{Im}L に入るかを確認する。
- 解があるなら、特殊解 x_p を 1 つ探す。
- すべての解を x_p+\ker L として表す。
- 一意性が必要なら、\ker L=\{0\} かを確認する。
この順序にする理由は、可解性と一意性が別の情報だからである。可解性は像の問題であり、一意性は核の問題である。
この方針は天下りに見えるかもしれない。しかし、Lx=y を自分で解こうとすると、最初に困るのは「そもそも y に届く入力があるのか」である。L で作れる出力を全部集めたものが \operatorname{Im}L だから、可解性は自然に像を見る問題になる。
次に、解が 1 つ x_p 見つかったとする。このとき、別の解 x があるなら、x と x_p は同じ y に送られる。したがって x-x_p は L によって消えるはずである。この「解どうしの差を見る」という発想から、\ker L が自然に現れる。
つまり、像と核は暗記する名前ではない。解を探すときに最初に確認したくなる「届くか」と「どれだけ自由に動けるか」を、そのまま言葉にしたものである。
5定理 1:可解性は像で決まる
5.1主張
L:V\to W を線型作用素とする。このとき
Lx=y\text{ が解を持つ}
\quad\Longleftrightarrow\quad
y\in\operatorname{Im}L
である。
5.2証明
まず Lx=y が解を持つと仮定する。すると、ある x\in V が存在して Lx=y である。像の定義より、Lx の形で書ける W の元は \operatorname{Im}L に属する。したがって y\in\operatorname{Im}L である。
逆に、y\in\operatorname{Im}L と仮定する。像の定義により、ある x\in V が存在して y=Lx である。これは Lx=y の解が存在することそのものである。
したがって同値性が証明された。
6定理 2:一般解は「特殊解 + 核」
6.1主張
Lx=y が解を持ち、x_p を 1 つの解とする。つまり
Lx_p=y
である。このとき、Lx=y の解全体は
\{x\in V\mid Lx=y\}=x_p+\ker L
である。すなわち、すべての解は
x=x_p+h,\qquad h\in\ker L
と表される。
6.2証明
まず h\in\ker L とする。このとき \ker L の定義より Lh=0 である。L の線型性から
L(x_p+h)=Lx_p+Lh=y+0=y
である。したがって x_p+h は Lx=y の解である。
逆に、x も Lx=y の解であるとする。このとき
L(x-x_p)=Lx-Lx_p=y-y=0
である。したがって x-x_p\in\ker L である。h=x-x_p と置けば x=x_p+h であり、h\in\ker L である。
以上により、解全体は x_p+\ker L である。
7定理 3:同次方程式の解集合はベクトル空間である
7.1主張
L:V\to W を線型作用素とする。このとき Lx=0 の解集合は \ker L であり、V の部分空間である。
7.2証明
Lx=0 の解集合は、核の定義により
\ker L=\{x\in V\mid Lx=0\}
である。
h_1,h_2\in\ker L、\alpha,\beta\in\mathbb K とする。L の線型性より
L(\alpha h_1+\beta h_2)=\alpha Lh_1+\beta Lh_2=\alpha0+\beta0=0
である。したがって \alpha h_1+\beta h_2\in\ker L である。よって \ker L は線型結合で閉じており、V の部分空間である。
この性質が、重ね合わせの原理の根拠である。
8原理 1:重ね合わせの原理
8.1主張
L:V\to W を線型作用素とする。
- Lx_1=0、Lx_2=0 なら、\alpha x_1+\beta x_2 も Lx=0 の解である。
- Lx_1=y_1、Lx_2=y_2 なら、L(\alpha x_1+\beta x_2)=\alpha y_1+\beta y_2 である。
8.2証明
1 は定理 3 の証明そのものである。実際、
L(\alpha x_1+\beta x_2)=\alpha Lx_1+\beta Lx_2=0
である。
2 についても、L の線型性から
L(\alpha x_1+\beta x_2)=\alpha Lx_1+\beta Lx_2=\alpha y_1+\beta y_2
である。
ただし、非同次方程式 Lx=y の解集合そのものは、一般にはベクトル空間ではない。x_1,x_2 がどちらも Lx=y の解なら
L(x_1+x_2)=2y
となり、ふつうは y にならないからである。非同次解集合は x_p+\ker L というアフィン空間である。
9どこまで成立するか
定理 1、2、3 と原理 1 は、任意のベクトル空間で成立する。有限次元での次元の数え方、逆作用素の判定、行列との対応は、後続の判定ページで扱う。
無限次元の関数空間では、像が閉じているか、逆作用素が連続か、といった解析的な問題が追加で現れる。したがって、有限次元の行列で正しい直感を、そのまま無限次元へ移すときは注意する。
11一言でいうと
Lx=y の理論は、\operatorname{Im}L と \ker L の理論である。解があるかは像で決まり、解の自由度は核で決まる。