線型作用素方程式の応用例
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1導入
このページの目的は、微分方程式、差分方程式、漸化式を、別々の公式集ではなく
Lx=y
という線型作用素方程式として読むことである。
ここで大切なのは、解法名ではない。最初に見るべきものは
\operatorname{Im}L,\qquad \ker L
である。右辺が像に入れば解が存在し、解が 1 つ見つかれば残りは核で決まる。
なぜ、このような見方を思いつくのか。微分方程式でも漸化式でも、非同次項があると解を足し合わせても同じ方程式の解にはならない。困るのは、非同次項が重なってしまうことである。
そこで解を足すのではなく、解どうしの差を見る。Lx_1=y、Lx_2=y なら
L(x_1-x_2)=0
となり、右辺が消える。ここで同次方程式と核が自然に出てくる。つまり「特殊解を 1 つ見つけ、同次解を足す」という方法は、公式ではなく、非同次項を消すために差を取った結果である。
2例 1:一階線型微分方程式
微分方程式
y'-ky=q(x)
を考える。D=\dfrac{d}{dx}、I を恒等作用素とすれば
L[y]=q,\qquad L=D-kI
という形である。
同次解は
L[y]=0,\qquad y'-ky=0
の解である。この方程式は
y=Ce^{kx}
を解に持つ。したがって
\ker L=\{Ce^{kx}\mid C\in\mathbb K\}
である。
y_p が y'-ky=q(x) の特殊解なら、線型作用素方程式の基本定理より
y=y_p+Ce^{kx}
が一般解である。
つまり、微分方程式で「同次解 + 特殊解」と言う理由は、x_p+\ker L の具体例だからである。
data/lecture/math/differential-equations/first-order-linear-odes-and-integrating-factors.lecture.n.md
3例 2:差分方程式
列 a=(a_n) に対して
\Delta a=b
を考える。これは
a_{n+1}-a_n=b_n
という差分方程式である。
同次方程式は
\Delta a=0
であり、これは a_{n+1}=a_n を意味する。したがって同次解は定数列であり、
\ker\Delta=\{\text{定数列}\}
である。
一方、特殊解は和を取って
a_n^{(p)}=\sum_{j=0}^{n-1}b_j
と作れる。したがって一般解は
a_n=C+\sum_{j=0}^{n-1}b_j
である。C が出る理由は、\ker\Delta が定数列だからである。
4例 3:一次漸化式と平衡解
一次漸化式
a_{n+1}=pa_n+q
を考える。これは非同次の更新式である。
値が変わらない定数列 a_n=\alpha を探すと
\alpha=p\alpha+q
が必要である。これは漸化式における平衡解であり、固定点とも呼ぶ。
p\ne1 なら
\alpha=\frac{q}{1-p}
である。この \alpha を引くと
a_{n+1}-\alpha=p(a_n-\alpha)
となる。
4.1証明
\alpha=p\alpha+q より q=\alpha-p\alpha である。もとの漸化式から
\begin{aligned}
a_{n+1}-\alpha
&=pa_n+q-\alpha\\
&=pa_n+(\alpha-p\alpha)-\alpha\\
&=p(a_n-\alpha)
\end{aligned}\begin{aligned}
a_{n+1}-\alpha
&=pa_n+q-\alpha\\
&=pa_n+(\alpha-p\alpha)-\alpha\\
&=p(a_n-\alpha)
\end{aligned}
である。したがって、平衡解を引くと非同次漸化式が同次漸化式へ帰着する。
この変形は暗記ではない。平衡解という特殊解を 1 つ見つけて、その周りのずれを同次方程式で見る操作である。
data/lecture/math/sequence/first-order-recurrences.lecture.n.md
5例 4:固有ベクトルと固有関数
作用素 L に対して、0 でない v が
Lv=\lambda v
を満たすとき、v を固有ベクトル、\lambda を固有値という。
関数空間で 0 でない関数 \phi が
L\phi=\lambda\phi
を満たすとき、\phi を固有関数という。
たとえば、微分作用素 D について
D(e^{\lambda x})=\lambda e^{\lambda x}
である。したがって e^{\lambda x} は D の固有関数である。
また、列の空間で a_n=r^n とすると
E(r^n)=r^{n+1}=r r^n
なので r^n はシフト作用素 E の固有列である。
この事実が、定数係数微分方程式で e^{\lambda x} を試し、定数係数漸化式で r^n を試す理由である。作用素を作用させても形が変わらないため、作用素の方程式が数の方程式へ落ちる。
data/lecture/math/linear-algebra/eigenvalues-and-eigenvectors.lecture.n.md
6例 5:特性方程式が出る理由
定数係数線型漸化式
a_{n+2}=c_1a_{n+1}+c_2a_n
を考える。これを
(E^2-c_1E-c_2I)a=0
と書く。ここで
P(t)=t^2-c_1t-c_2
と置けば、方程式は
P(E)a=0
である。
a_n=r^n は E の固有列なので
P(E)(r^n)=P(r)r^n
である。したがって r^n が解になる条件は
P(r)=0
である。これが特性方程式である。
同じ考えは、微分作用素 D に対しても成立する。e^{\lambda x} は D の固有関数なので
P(D)e^{\lambda x}=P(\lambda)e^{\lambda x}
である。したがって、定数係数線型微分方程式で特性方程式が現れる。
より詳しい多項式作用素、固有値問題、同伴行列は次のページで扱う。
data/lecture/math/linear-operator/polynomial-operators-and-eigenvalue-problems.lecture.n.md
7どこまで成立するか
このページの議論で本質的なのは線型性である。同次解が核になり、一般解が特殊解 + 核になることは、任意の線型作用素で成立する。
一方、特性方程式のように数の方程式へ落とせるのは、e^{\lambda x} や r^n のような固有関数・固有列を使える場合である。係数が変数に依存する微分方程式や漸化式では、作用素が単純な多項式として扱えないことがある。
8一言でいうと
微分方程式、差分方程式、漸化式の線型な部分は、すべて Lx=y として読める。同次解は \ker L、特殊解は 1 つの到達点、一般解は x_p+\ker L である。