多項式作用素と固有値問題
mathlinear-operatorpolynomial-operatoreigenvaluelecture
1導入
この講義では、特性方程式が突然現れる公式ではなく、線型作用素の多項式を調べる問題から自然に出ることを確認する点にある。
1 つの線型作用素 T:V\to V があるとき、多項式
p(t)=a_0+a_1t+\cdots+a_mt^m
から
p(T)=a_0I+a_1T+\cdots+a_mT^m
を作れる。すると
p(T)x=y
も、前の講義と同じ Lx=y 型の線型作用素方程式である。つまり、見るべき本質はやはり
\ker p(T),\qquad \operatorname{Im}p(T)
である。
2用語と定義
T:V\to V を線型作用素とする。T^0=I、T^{k+1}=T\circ T^k と定義する。
多項式作用素とは、多項式 p(t)=a_0+a_1t+\cdots+a_mt^m に対して
p(T)=a_0I+a_1T+\cdots+a_mT^m
で定義される線型作用素である。
固有値 \lambda と固有ベクトル v は
Tv=\lambda v,\qquad v\ne0
を満たす組である。
3方針
この講義では、次の順で読む。
- p(T) が再び線型作用素であることを証明する。
- p(T)x=y の可解性と一般解を、核と像で読む。
- Tv=\lambda v なら p(T)v=p(\lambda)v であることを証明する。
- 定数係数の漸化式と微分方程式で、なぜ特性方程式が出るかを説明する。
4命題 1:p(T) は線型作用素である
4.1主張
T:V\to V が線型作用素なら、任意の多項式 p(t) に対して p(T) も線型作用素である。
4.2証明
まず T が線型なら、合成 T^k も線型である。これは k についての帰納法で示せる。T^0=I は線型であり、T^k が線型なら T^{k+1}=T\circ T^k も線型である。
次に、線型作用素の線型結合は線型である。実際、S_1,\ldots,S_m が線型で、c_1,\ldots,c_m がスカラーなら
\left(\sum_i c_iS_i\right)(\alpha x+\beta y)
=
\sum_i c_iS_i(\alpha x+\beta y)
=
\alpha\sum_i c_iS_i(x)+\beta\sum_i c_iS_i(y)
である。
したがって
p(T)=a_0I+a_1T+\cdots+a_mT^m
は線型である。
5命題 2:p(T)x=y は一般の Lx=y と同じ
5.1主張
L=p(T) と置くと、方程式
p(T)x=y
の可解条件は
y\in\operatorname{Im}p(T)
である。また、解 x_p が 1 つ見つかれば、解全体は
x=x_p+h,\qquad h\in\ker p(T)
である。
5.2証明
前講義の定理 1(可解性)と定理 2(一般解)を L=p(T) に適用するだけである。p(T) は命題 1 により線型作用素であるため、Lx=y の一般論をそのまま使用できる。
この点が重要である。p(T) という記号が複雑でも、方程式の型は変わっていない。可解性は像、自由度は核で決まる。
6命題 3:固有ベクトル上で p(T) は p(\lambda) になる
6.1主張
Tv=\lambda v、v\ne0 とする。このとき任意の多項式 p について
p(T)v=p(\lambda)v
である。
6.2証明
まず T^k v=\lambda^k v を k について帰納法で示す。k=0 では T^0v=Iv=v=\lambda^0v である。T^kv=\lambda^kv と仮定すると
T^{k+1}v=T(T^kv)=T(\lambda^kv)=\lambda^kTv=\lambda^k\lambda v=\lambda^{k+1}v
である。
したがって
\begin{aligned}
p(T)v
&=(a_0I+a_1T+\cdots+a_mT^m)v\\
&=a_0v+a_1Tv+\cdots+a_mT^mv\\
&=a_0v+a_1\lambda v+\cdots+a_m\lambda^m v\\
&=p(\lambda)v
\end{aligned}\begin{aligned}
p(T)v
&=(a_0I+a_1T+\cdots+a_mT^m)v\\
&=a_0v+a_1Tv+\cdots+a_mT^mv\\
&=a_0v+a_1\lambda v+\cdots+a_m\lambda^m v\\
&=p(\lambda)v
\end{aligned}
である。
7特性方程式が出る理由
命題 3 から、もし p(\lambda)=0 なら
p(T)v=p(\lambda)v=0
である。したがって
v\in\ker p(T)
である。つまり、p(T)x=0 の解を探すとき、T の固有ベクトルを使うと、作用素方程式が数の方程式
p(\lambda)=0
へ落ちる。
これが特性方程式の抽象的な理由である。特性方程式は「たまたま試す式」ではなく、固有値問題で作用素をスカラーへ還元するための式である。
8例 1:漸化式とシフト作用素
列 a=(a_n) に対して、シフト作用素 E を
(Ea)_n=a_{n+1}
で定義する。定数係数線型漸化式
a_{n+2}-c_1a_{n+1}-c_2a_n=0
は
(E^2-c_1E-c_2I)a=0
と書ける。ここで
p(t)=t^2-c_1t-c_2
と置けば、これは
p(E)a=0
である。
指数型の列 r^n は
E(r^n)=r^{n+1}=r r^n
を満たすので、E の固有列である。よって
p(E)(r^n)=p(r)r^n
である。したがって r^n が解になる条件は
p(r)=0
である。これが定数係数線型漸化式の特性方程式である。
data/lecture/math/sequence/shift-operators-and-recurrences.lecture.n.md
9例 2:微分作用素と定数係数 ODE
滑らかな関数の空間で、微分作用素 D を
Df=f'
で定義する。定数係数線型微分方程式
ay''+by'+cy=0
は
(aD^2+bD+cI)y=0
と書ける。
指数関数 e^{rx} は
D(e^{rx})=r e^{rx}
を満たすので、D の固有関数である。よって
(aD^2+bD+cI)e^{rx}=(ar^2+br+c)e^{rx}
である。したがって e^{rx} が解になる条件は
ar^2+br+c=0
である。これは二階定数係数微分方程式の特性方程式である。
data/lecture/math/differential-equations/second-order-linear-constant-coefficient-odes.lecture.n.md
10同伴行列との関係
モニック多項式
p(t)=t^n+c_{n-1}t^{n-1}+\cdots+c_1t+c_0
に対して、同伴行列は、p(t) を特性多項式として持つように作られる行列である。
同伴行列が重要なのは、抽象的な多項式 p(t) を「ある線型作用素の固有値問題」として実現する標準モデルになるからである。漸化式では、状態ベクトル
\begin{pmatrix}
a_{n+k-1}\\
a_{n+k-2}\\
\vdots\\
a_n
\end{pmatrix}
を 1 歩進める行列が同伴行列型になる。すると、漸化式の特性方程式と同伴行列の固有値問題が一致する。
ここで混同してはならないのは、同伴行列は「多項式作用素 p(T) の一般定義」ではなく、特定の多項式を行列の特性多項式として実現する具体的な模型だという点である。一般論は p(T) と \ker p(T) であり、同伴行列はそれを座標で実現する代表例である。
data/lecture/math/linear-algebra/companion-matrix-basics.lecture.n.md
11どこまで成立するか
p(T) の定義は、T が同じ空間 V から V へ戻る線型作用素であるときに成立する。T:V\to W で V と W が異なる場合、一般には T^2 が定義できないため、多項式 p(T) はそのまま作れない。
また、p(\lambda)=0 から v\in\ker p(T) は従うが、\ker p(T) のすべてが単純な固有ベクトルだけで張られるとは限らない。重根や対角化不能な場合には、一般化固有ベクトルや Jordan 構造が現れる。この点は、一般化前の固有ベクトルだけの議論と、一般化後の一般化固有空間の議論を分けて扱う必要がある。
12最終形
\boxed{p(T)=a_0I+a_1T+\cdots+a_mT^m}
\boxed{p(T)x=y\text{ is solvable}\iff y\in\operatorname{Im}p(T)}
\boxed{p(T)x_p=y\Rightarrow \{x\mid p(T)x=y\}=x_p+\ker p(T)}
\boxed{Tv=\lambda v\Rightarrow p(T)v=p(\lambda)v}
\boxed{p(\lambda)=0\Rightarrow v\in\ker p(T)}
13一言でいうと
特性方程式は、線型作用素の多項式 p(T) を固有ベクトル上で数の方程式 p(\lambda)=0 に変換したものである。