アフィン空間と条件決定
mathlinear-operatoraffine-spaceboundary-conditionslecture
1導入
このページの目的は、非同次方程式の解集合
x_p+\ker L
を、アフィン空間として丁寧に読むことである。
結論を先に言うと、一般解に n 個の任意定数が現れるのは、核が n 次元だからである。しかし、n 個の条件を書けば自動的に決まるわけではない。条件を代入してできる連立一次方程式の係数行列が正則であるときにだけ、任意定数は一意に決まる。
ただし、ここでいう独立な条件とは、言葉の雰囲気ではない。任意定数に関する連立一次方程式の係数行列が正則である、という意味である。
なぜアフィン空間という言葉を持ち出すのか。理由は、非同次方程式の解を 2 つ比べると、差は必ず同次方程式の解になるからである。解そのものは足しても解にならないが、解どうしの差は核に入る。この観察を形にすると、「1 つの特殊解を基準点にして、核の方向へ動かす」という図になる。この図がアフィン空間である。
条件についても同じである。一般解に任意定数が残っているとき、条件を代入すると、その任意定数についての方程式が出る。条件が独立なら、違う方向の自由度を別々に止められる。ここでの本質は、条件の本数ではなく、条件行列が逆行列を持つことである。
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2定義:アフィン空間
V をベクトル空間、U を V の部分空間、x_0\in V とする。このとき
x_0+U=\{x_0+u\mid u\in U\}
を、U を方向にもつアフィン空間という。
ここで x_0 は基準点であり、U は動ける方向の集合である。ベクトル空間は 0 を含むが、アフィン空間は一般には 0 を含まない。
たとえば、\mathbb R^2 の中の
\{(1,t)\mid t\in\mathbb R\}
は縦方向に伸びる直線である。この直線は原点を通らないので、ベクトル空間ではない。しかし、(1,0) に部分空間 \{(0,t)\mid t\in\mathbb R\} を足したものなので、アフィン空間である。
3命題 1:アフィン空間では点の差が方向になる
3.1主張
A=x_0+U とする。x,y\in A なら
x-y\in U
である。逆に、x\in A で u\in U なら x+u\in A である。
3.2証明
x,y\in A だから、ある u,v\in U が存在して
x=x_0+u,\qquad y=x_0+v
と書ける。したがって
x-y=(x_0+u)-(x_0+v)=u-v
である。U は部分空間なので u-v\in U である。よって x-y\in U である。
逆に、x\in A なら x=x_0+v と書ける。u\in U なら
x+u=x_0+(v+u)
であり、v+u\in U だから x+u\in A である。□
この命題の意味は、アフィン空間では点そのものではなく、点どうしの差がベクトル空間の方向として現れる、ということである。
4命題 2:基準点の選び方は本質ではない
4.1主張
A=x_0+U とし、x_1\in A とする。このとき
A=x_1+U
である。
4.2証明
x_1\in A だから、ある u_1\in U が存在して
x_1=x_0+u_1
と書ける。
まず z\in x_0+U とする。すると z=x_0+u と書ける。ここで
z=x_0+u=x_1+(u-u_1)
であり、u-u_1\in U だから z\in x_1+U である。よって x_0+U\subset x_1+U である。
逆に、z\in x_1+U とする。すると z=x_1+v と書ける。x_1=x_0+u_1 なので
z=x_0+(u_1+v)
であり、u_1+v\in U だから z\in x_0+U である。よって x_1+U\subset x_0+U である。
したがって x_0+U=x_1+U である。□
これは微分方程式で「特殊解は 1 個見つければよい」と言う理由である。特殊解を別のものに替えても、そこに同次解を足した全体は変わらない。
5定理 1:線型作用素方程式の解集合はアフィン空間である
5.1主張
L:V\to W を線型作用素とし、Lx=y が解 x_p を持つとする。このとき解集合は
x_p+\ker L
であり、\ker L を方向にもつアフィン空間である。
5.2証明
h\in\ker L なら
L(x_p+h)=Lx_p+Lh=y+0=y
なので x_p+h は解である。
逆に、x が Lx=y の解なら
L(x-x_p)=Lx-Lx_p=y-y=0
なので x-x_p\in\ker L である。したがって、ある h\in\ker L によって
x=x_p+h
と書ける。よって解集合は x_p+\ker L である。これは定義よりアフィン空間である。□
6任意定数はどこから来るか
\ker L が n 次元で、基底が
h_1,\dots,h_n
であるとする。このとき、すべての同次解 h\in\ker L は
h=c_1h_1+\cdots+c_nh_n
と一意に書ける。したがって、非同次方程式 Lx=y の一般解は
x=x_p+c_1h_1+\cdots+c_nh_n
である。
ここで c_1,\dots,c_n が n 個の任意定数である。任意定数は計算の副産物ではない。\ker L の次元を座標で表したものである。
7定理 2:条件行列が正則なら任意定数は一意に決まる
7.1主張
一般解が
x=x_p+c_1h_1+\cdots+c_nh_n
と書けているとする。B_1,\dots,B_n:V\to\mathbb K を線型写像とし、条件
B_i(x)=\beta_i\qquad (i=1,\dots,n)
を課す。
行列 A=(a_{ij}) を
a_{ij}=B_i(h_j)
で定義する。この A が正則なら、条件を満たす任意定数 c_1,\dots,c_n は一意に決まる。
このとき、B_1,\dots,B_n は h_1,\dots,h_n の方向を区別できる独立な条件である、という。
7.2証明
一般解を条件に代入する。B_i は線型なので
B_i(x)=B_i(x_p)+c_1B_i(h_1)+\cdots+c_nB_i(h_n)
である。したがって条件 B_i(x)=\beta_i は
c_1B_i(h_1)+\cdots+c_nB_i(h_n)=\beta_i-B_i(x_p)
という任意定数についての連立一次方程式になる。
右辺を
b_i=\beta_i-B_i(x_p)
と置けば、これは
A
\begin{pmatrix}
c_1\\
\vdots\\
c_n
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
b_1\\
\vdots\\
b_n
\end{pmatrix}
である。A が正則なら逆行列 A^{-1} が存在するので、
\begin{pmatrix}
c_1\\
\vdots\\
c_n
\end{pmatrix}
=
A^{-1}
\begin{pmatrix}
b_1\\
\vdots\\
b_n
\end{pmatrix}
と一意に決まる。□
8条件が独立でないとどうなるか
条件が n 個あっても、独立でなければ一意には決まらない。
たとえば
y=Ax+B
に対して
y'(0)=0,\qquad y'(1)=0
を課すと、どちらの条件も A=0 だけを意味する。B は決まらない。つまり、条件は 2 個あっても、任意定数 A,B を区別する情報としては 1 個分しかない。
一方、
y(0)=0,\qquad y(1)=1
なら、B=0、A+B=1 となり、A=1,\ B=0 が一意に決まる。この 2 個の条件は、A と B の両方を区別できる。
data/lecture/math/differential-equations/initial-and-boundary-value-problems.lecture.n.md
9微分方程式での読み替え
n 階の線型微分方程式で同次解の空間が n 次元なら、一般解には n 個の任意定数が現れる。
初期条件
y(x_0)=a_0,\quad y'(x_0)=a_1,\quad \dots,\quad y^{(n-1)}(x_0)=a_{n-1}
を課すとする。同次方程式の基本解を h_1,\dots,h_n とすれば、任意定数の係数行列は
\begin{pmatrix}
h_1(x_0)&h_2(x_0)&\cdots&h_n(x_0)\\
h_1'(x_0)&h_2'(x_0)&\cdots&h_n'(x_0)\\
\vdots&\vdots&&\vdots\\
h_1^{(n-1)}(x_0)&h_2^{(n-1)}(x_0)&\cdots&h_n^{(n-1)}(x_0)
\end{pmatrix}
である。この行列の行列式をWronskianという。したがって、初期条件で任意定数が一意に決まる理由は、「任意定数が n 個で条件も n 個だから」ではない。その点で Wronskian が 0 でなく、条件行列が正則だからである。
標準的な線型 ODE では、係数が連続で、h_1,\dots,h_n が基本解系であれば、Wronskian は考えている区間で 0 にならない。この非零性が、初期条件から任意定数を解ける根拠である。
ただし、境界条件では条件の本数だけでは十分でない。同じ情報を重複している条件、互いに矛盾する条件、または固有値問題のように非自明解が出る条件があるからである。
11一言でいうと
非同次線型方程式の解集合は、特殊解を基準点とし、核を方向にもつアフィン空間である。任意定数は核の座標であり、条件行列が正則な条件はその座標を一意に決める。ODE では、この正則性を Wronskian が 0 でないこととして確認する。