PDE とは何か
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導入
このページの核心は、PDE を「偏微分が含まれる式」ではなく、空間と時間に依存する量の変化を記述する方程式として確認することである。
用語と定義
偏微分方程式 は、未知関数が複数の独立変数を持ち、その偏導関数を含む方程式である。
定義域 は、未知関数を考える空間領域や時空領域である。
方針
PDE では、未知関数・独立変数・定義域・条件を最初に確定する。式だけを確認しても、どの問題を解いているかは決定しない。
なぜこの方針を選ぶのか
常微分方程式では、未知関数が 1 変数だけに依存するため、初期値を置いた後は時間発展の問題として読みやすい。一方、PDE では空間変数と時間変数が同時に現れ、境界の条件までが問題設定の一部になる。したがって、式の外形だけで解法を選ぶと、初期値問題と境界値問題、全空間と有界領域、拡散と波動の区別が崩れやすい。
この講義では、まず何が未知関数で、どの変数が独立変数で、どの領域で何の条件を課すかを固定する。その後に heat・wave・Laplace のような代表モデルを比較したほうが、式と現象の対応が明瞭になる。
具体例
熱方程式
u_t=\kappa u_{xx}
では、未知関数は u(x,t) であり、x は位置、t は時間である。この式は温度分布が空間的な曲がりに応じて時間変化することを表す。
ODE との相違
ODE では未知関数が 1 変数に依存する。PDE では未知関数が複数変数に依存し、初期条件だけでなく境界条件が本質的になる。
| 観点 | ODE | PDE |
| 未知関数 | y(t) のように 1 変数に依存する | u(x,t) や u(x,y) のように複数変数に依存する |
| 定義域 | 区間が中心である | 空間領域と境界が問題の一部になる |
| 条件 | 初期値が中心である | 初期条件と境界条件を分離して指定する |
| 解の性質 | 時間変化の軌道を調査する | 領域全体の分布と境界の影響を調査する |
同じ式でも条件で問題が変わる
熱方程式
u_t=\kappa u_{xx}
を考えても、x\in\mathbb{R} の全空間問題と 0<x<L の有界区間問題では読み方が変わる。全空間では Fourier 変換が自然な道具になるが、有界区間では境界条件に応じた Fourier 級数や固有関数展開が自然になる。
さらに、u(0,t)=u(L,t)=0 とする Dirichlet 条件と、u_x(0,t)=u_x(L,t)=0 とする Neumann 条件では、保たれる物理量や平衡状態の形も異なる。式そのものに加えて、条件が問題を規定するという事実が PDE の特徴である。
代表例の比較
熱方程式 u_t=\kappa u_{xx} は、温度や濃度が拡散により平滑化される現象を表す。波動方程式 u_{tt}=c^2u_{xx} は、初期変位と初期速度が有限速度で伝播する現象を表す。Laplace 方程式 \Delta u=0 は、内部に源を持たない平衡状態を表す。
三つの例題
熱方程式では、u(x,t) を温度、x\in(0,L)、t>0 とする。初期条件は u(x,0)=f(x)、境界条件は u(0,t)=u(L,t)=0 のように指定する。この問題では、初期分布が時間とともに平滑化するかが中心である。
波動方程式では、u(x,t) を弦の変位とし、u(x,0)=f(x) と u_t(x,0)=g(x) の二条件を指定する。これは時間について二階であるため、位置だけでなく速度が時間発展を決定する。
Laplace 方程式では、u(x,y) を平面領域 \Omega 上の電位とする。時間は登場せず、境界 \partial\Omega での値が内部の平衡を決定する。
単位の確認
熱方程式で u を温度 [\mathrm{K}]、x を長さ [\mathrm{m}]、t を時間 [\mathrm{s}] とすると、u_t の単位は [\mathrm{K/s}] である。u_{xx} の単位は [\mathrm{K/m^2}] なので、\kappa は [\mathrm{m^2/s}] を持つ。
\kappa\ [\mathrm{m^2/s}]\ \underset{\mathrm{m^2/s}}{\vert}
\times
u_{xx}\ [\mathrm{K/m^2}]\ \underset{\mathrm{K/s}}{\vert}
したがって u_t=\kappa u_{xx} は次元として整合する。
最初に確認すること
- 未知関数は u(x,t) か u(x,y) か。
- 独立変数のうち、時間に相当する変数はあるか。
- 定義域は全空間か、有界領域か。
- 条件は初期条件か、境界条件か。
- 方程式は線形か、非線形か。
この確認を省略すると、解法の選択が式の外形だけに依存しやすい。つぎに条件の役割を確認する。
data/lecture/math/partial-differential-equations/初期値問題と境界値問題-講義.n.md
どこまで成り立つか
このページで扱ったのは、PDE の最初の分類軸である。一次 PDE の特性曲線法、二階線形 PDE の楕円型・放物型・双曲型の分類、変数分離法や Fourier 解析の具体的適用は別ページで扱う。また、非線形 PDE や弱解、分布論はこの入口の範囲外である。