単位・次元・有効数字
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1導入
この講義では、物理量を数値だけで扱わず、単位と次元を含む量として読むことについて説明する。
たとえば「3」という数値だけでは、3\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] なのか、3\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] なのか、3\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] なのかが分からない。物理では、式の各項が同じ種類の量でなければ足し引きできない。したがって、単位と次元は計算後の飾りではなく、立式の段階で使う検査道具である。
2用語と定義
単位とは、物理量を測るための基準である。長さなら \mathrm{m}、時間なら \mathrm{s}、力なら \mathrm{N} を用いる。
次元とは、物理量がどの基本量の組合わせであるかを表す記号である。この教材では、長さを \mathsf{L}、質量を \mathsf{M}、時間を \mathsf{T} と書く。
有効数字とは、測定値や計算結果で意味をもつ桁である。2.3\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] と 2.30\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] は、数値としては同じでも、測定精度としては異なる。
この教材では、物理量を次の形で書く。
X\ [\mathrm{unit};\ \mathsf{D}]
ここで \mathrm{unit} は単位、\mathsf{D} は次元である。たとえば
x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}],\qquad
v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}],\qquad
F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]
である。
3方針
単位と次元を使う目的は、次の 3 つである。
- 足し引きしてよい量かを判定する。
- 掛け算や割り算で求めたい量の次元になるかを確認する。
- 答えの桁数が測定精度に見合っているかを確認する。
この順序にする理由は、単位が合っていない式は数値計算を進める前に誤りだと分かるからである。
4直感的な説明
単位は、量の名札である。長さどうしは足せるが、長さと時間は足せない。2\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]+3\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] という式は、数値だけなら 5 と書けてしまうが、物理量としては意味をもたない。
次元は、単位系を変えても変わらない量の型である。\mathrm{m} と \mathrm{km} は単位としては違うが、どちらも長さなので次元は \mathsf{L} である。このため、次元で検査すると、単位換算に依存しない構造を確認できる。
5厳密な説明
5.1加法と減法の条件
物理量を足すには、同じ次元でなければならない。たとえば位置の式
x=x_0+v_0t+\frac{1}{2}at^2
では、各項の次元を確認する。
x_0\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]
v_0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]
\times
t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}]
\quad\Rightarrow\quad
v_0t\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]
a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]
\times
t^2\ [\mathrm{s^2};\ \mathsf{T^2}]
\quad\Rightarrow\quad
at^2\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]
したがって右辺の各項はすべて長さであり、足し合わせられる。
5.2掛け算の検査
運動方程式 F=ma の右辺を確認する。
m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]
\overset{\mathsf{M}}{\underset{\mathrm{kg}}{\Big|}}
\times
a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]
\overset{\mathsf{MLT^{-2}}}{\underset{\mathrm{kg\,m/s^2}}{\Big|}}
\mathrm{kg\,m/s^2} は \mathrm{N} であり、次元は \mathsf{MLT^{-2}} である。したがって
ma\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]
となり、力の単位と一致する。
5.3次元解析の限界
次元が一致することは正しさの必要条件であるが、十分条件ではない。
たとえば
K=\frac{1}{2}mv^2
と
K=mv^2
はどちらも次元が \mathsf{ML^2T^{-2}} である。しかし正しい運動エネルギーは係数 \frac{1}{2} を含む。したがって次元は誤りを発見する強力な道具だが、証明そのものではない。
6有効数字の扱い
測定値には誤差があるため、計算結果を元の精度より細かく報告しても意味がない。
- 乗法・除法では、有効数字の桁数が最も少ない値に合わせる。
- 加法・減法では、小数点以下の桁を最も粗い値に合わせる。
ただし、途中計算で早く丸めすぎると誤差が増える。丸めは最後に行う。
7具体例:落下時間の単位
高さ H\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] から静かに落下する物体について、
H=\frac{1}{2}gt^2
を使う。この式は、空気抵抗を無視し、重力加速度 g\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] が一定である場合に成立する。
t について解くと
t=\sqrt{\frac{2H}{g}}
である。単位を確認すると、
\frac{H\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]}{g\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]}
\quad\Rightarrow\quad
\mathrm{s^2},\ \mathsf{T^2}
となる。平方根を取れば t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] であり、時間の単位になる。
8見分け方
- 式に足し算があるときは、各項の次元を確認する。
- 答えが速度なら \mathsf{LT^{-1}}、力なら \mathsf{MLT^{-2}}、エネルギーなら \mathsf{ML^2T^{-2}} になるかを確認する。
- \sin\theta、\cos\theta、e^x、\log x の引数は無次元でなければならない。
- 測定値が含まれる問題では、最後に有効数字を調整する。
9どこまで成立するか
単位・次元の検査は、式の構造を確認する道具である。係数、符号、適用条件の誤りまでは検出できない。有効数字も、問題で与えられた測定精度を前提にするため、正確な定数と測定値を区別する必要がある。
10最終形
\boxed{X\ [\mathrm{unit};\ \mathsf{D}]}
\boxed{\text{足し引きできるのは同じ次元の量だけ}}
\boxed{\text{次元一致は必要条件であって十分条件ではない}}
11一言でいうと
単位と次元は、式が物理量として成立しているかを調べる最初の検査である。