力の図と運動方程式
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1導入
この講義では、運動方程式を立式する前に、対象を 1 つに固定し、その対象に作用する外力だけを自由体図に記入することについて説明する。
力学の誤答の多くは、公式を知らないことではなく、式に入れる力を誤ることから生じる。速度の矢印を力として描く、作用反作用の相手側の力を同じ図に入れる、軸を決めずに符号を書く、という失敗を避けるために、自由体図を手順として扱う。
2用語と定義
自由体図とは、選んだ 1 つの物体または系に作用する外力だけを矢印で表した図である。
内力とは、選んだ系の内部の物体どうしが及ぼし合う力である。系全体の運動量を考えるとき、内力は互いに打ち消し合う構造をもつ。
運動方程式とは、慣性系で質量が一定の物体に対して
\sum \vec F=m\vec a
と書ける関係式である。ここで \sum\vec F は自由体図に入れた外力のベクトル和である。
3方針
自由体図から運動方程式へ進む手順は次である。
- 対象を決定する。
- 対象に直接作用する力だけを列挙する。
- 軸と正方向を設定する。
- 力を軸方向へ分解する。
- 成分ごとに \sum F=ma を立式する。
この順序にする理由は、対象を決める前には外力と内力が決まらず、軸を決める前には符号が決まらないからである。
4直感的な説明
自由体図は、運動方程式の合力を作るための一覧表である。図に入っていない力は式に入らない。図に余計な力を入れれば、式にも余計な項が入る。
重要なのは、運動の向きと力の向きを違いを説明する。物体が右へ動いていても、右向きの力が作用しているとは限らない。等速直線運動なら合力は 0\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] である。
5厳密な説明
5.1対象を固定する
運動方程式は、対象を決めてはじめて意味をもつ。物体 A について立式するなら、A に作用する力だけを足す。
A が B を押す力と、B が A を押す力は、作用反作用の対である。しかし、前者は B に、後者は A に作用する。したがって、A の自由体図に入れるのは B が A を押す力だけである。
5.2代表的な力
| 力 | 記号 | 向き | 単位 |
| 重力 | mg | 鉛直下向き | \mathrm{N} |
| 垂直抗力 | N | 接触面に垂直 | \mathrm{N} |
| 張力 | T | 糸に沿って引く向き | \mathrm{N} |
| 摩擦力 | f | 相対運動またはその傾向に逆らう | \mathrm{N} |
| 弾性力 | kx | 自然長へ戻す向き | \mathrm{N} |
すべて力なので、単位は F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] である。速度 v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] や加速度 a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] は力ではないため、自由体図の力の一覧には入れない。
5.3成分へ分解する
軸を設定したら、
\sum F_x=ma_x,\qquad \sum F_y=ma_y
と成分ごとに立式する。運動しない方向では a=0 と置くため、
\sum F=0
という釣り合いの式になる。したがって、釣り合いは別公式ではなく、運動方程式で加速度が 0 の場合である。
6具体例:斜面上の物体
傾斜角 \theta の斜面に質量 m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] の物体を置く。摩擦は無視する。
対象は物体 1 つである。作用する力は、重力 mg\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] と垂直抗力 N\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] である。軸は斜面に平行な下向きと、斜面に垂直な外向きに設定する。
斜面に平行な方向では
ma=mg\sin\theta
であり、斜面に垂直な方向では物体が面から離れないので
N-mg\cos\theta=0
である。したがって
a=g\sin\theta,\qquad N=mg\cos\theta
を得る。
この例で斜面に沿った軸を選ぶ理由は、加速度が一方向に集中し、垂直抗力が垂直方向の式だけに現れるからである。
7見分け方
- 力・張力・垂直抗力・摩擦が登場したら、まず自由体図を作成する。
- 複数物体があるなら、物体ごとに自由体図を分ける。
- 斜面では、水平・鉛直よりも斜面に平行・垂直な軸を先に試す。
- 接触や糸がある問題では、N\ge 0、T\ge 0 という物理的制約を確認する。
8どこまで成立するか
\sum\vec F=m\vec a は慣性系で使う。加速する座標系や回転座標系では、慣性力を追加する必要がある。また、質量が変化する系では、運動量の変化 \dfrac{d\vec p}{dt} へ戻る必要がある。
9最終形
\boxed{\text{対象を固定する}\rightarrow\text{外力だけを描く}\rightarrow\text{軸を決める}\rightarrow\sum F=ma}
\boxed{\sum F_x=ma_x,\qquad \sum F_y=ma_y}
10一言でいうと
自由体図は、運動方程式に入れる外力を過不足なく決めるための図である。