力の釣り合いと運動の法則
physicsmechanicsnewton-lawequilibriumlecture
1導入
この講義では、力の釣り合いを独立した公式として覚えるのではなく、運動方程式で加速度が 0 になった場合として解説する。
静止している物体だけでなく、等速直線運動している物体も加速度は 0 である。したがって最初に見分けるべきことは、「動いているか」ではなく、「速度が変化しているか」である。
2用語と定義
合力とは、選んだ物体に作用する外力のベクトル和である。
釣り合いとは、合力が零である状態である。
\sum\vec F=\vec 0
運動方程式は、慣性系で質量が一定の物体に対して
\sum\vec F=m\vec a
と書く。力は F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]、質量は m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、加速度は a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] である。
3方針
力の問題では、次の順序で判断する。
- 対象を固定し、自由体図を作成する。
- 正方向を設定する。
- 各方向で加速度が 0 かどうかを確認する。
- a=0 なら \sum F=0、a\ne0 なら \sum F=ma を使う。
この順序を守る理由は、力の候補と加速度の向きを別々に決めるためである。速度の向きだけでは、加速度の向きは決まらない。
4直感的な説明
合力は、速度そのものではなく速度の変化を決める。物体が右へ進んでいても、右向きの合力があるとは限らない。右へ等速で進んでいるなら、合力は 0 である。
釣り合いは「止まっていること」ではなく、「速度が変わらないこと」である。この見方を採ると、静止と等速直線運動を同じ式で扱える。
5厳密な説明
5.1運動方程式から釣り合いを導く
運動方程式は
\sum\vec F=m\vec a
である。静止または等速直線運動では、速度が時間で変化しないため
\vec a=\vec 0
である。したがって
\sum\vec F=m\vec 0=\vec 0
となる。これが釣り合いの条件である。
逆に、慣性系で \sum\vec F=\vec0 なら、運動方程式より
m\vec a=\vec0
である。m>0 なので \vec a=\vec0 である。したがって速度は一定である。静止は、その一定速度が 0 の特別な場合である。
5.2単位の確認
右辺 ma の単位を確認する。
m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]
\overset{\mathsf{M}}{\underset{\mathrm{kg}}{\Big|}}
\times
a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]
\overset{\mathsf{MLT^{-2}}}{\underset{\mathrm{kg\,m/s^2}}{\Big|}}
これは F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] と同じ単位である。したがって \sum F=ma では左辺も右辺も力の量である。
6具体例 1:水平面上で静止する物体
質量 m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] の物体が水平面で静止している。鉛直上向きを正とする。
自由体図には、上向きの垂直抗力 N\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] と、下向きの重力 mg\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] を入れる。鉛直方向の加速度は 0 なので
N-mg=0
である。よって
N=mg
を得る。
ここで N=mg は、垂直抗力と重力が作用反作用だからではない。同じ物体に作用する 2 つの力が、加速度 0 の条件で釣り合っているからである。
7具体例 2:エレベーター内の見かけの重さ
質量 m の物体が、上向き加速度 a のエレベーター内で床から垂直抗力 N を受ける。上向きを正とすると
N-mg=ma
である。したがって
N=m(g+a)
を得る。体重計が示すのは重力 mg ではなく、床からの垂直抗力 N である。上向きに加速すると N が大きくなるため、重く感じる。
8作用反作用と釣り合いの区別
| 比較 | 作用反作用 | 釣り合い |
| 作用する対象 | 別々の物体 | 同じ物体 |
| 大きさ | 常に等しい | 条件が合うと等しい |
| 式の中で相殺するか | しない | 同一物体の合力として相殺する |
重力と垂直抗力は同じ物体に作用するため、作用反作用の対ではない。
9見分け方
- 静止、等速、支える、吊り下げる、という語があれば、まず a=0 を疑う。
- 加速、減速、動き出す、という語があれば、\sum F=ma を立式する。
- 速度が一定なら、物体が動いていても釣り合いである。
- 作用反作用か釣り合いかで迷ったら、「2 つの力が同じ物体に作用しているか」を確認する。
10どこまで成立するか
この講義の式は慣性系で成立する。加速する乗り物や回転する座標系では、慣性力を導入しないと同じ形で扱えない。また、質量が変化する系では、\sum\vec F=m\vec a ではなく運動量の時間変化から考える。
11最終形
\boxed{\sum\vec F=m\vec a}
\boxed{\vec a=\vec0\iff \sum\vec F=\vec0}
12一言でいうと
釣り合いは、運動方程式で加速度が 0 になった場合であり、静止だけでなく等速直線運動にも現れる。