重心系での衝突
physicsmechanicscenter-of-masscollisionlecture
1導入
この講義では、2 物体の衝突では、全体として動く運動と、互いに近づいたり離れたりする相対運動を分けると構造が見えるという性質を説明する。
実験室系では、2 物体がどちらも動いて見える。重心系へ移ると、全運動量が 0 になり、衝突で本当に変わるのは相対速度だけだと分かる。
2用語と定義
重心速度 V は、1 次元の 2 物体について
\boxed{V=\frac{m_1v_1+m_2v_2}{m_1+m_2}}
で定義する。
重心系とは、重心が静止して見える座標系である。実験室系の速度を v_i とすると、重心系での速度は
v_i'=v_i-V
である。
相対速度は
u=v_1-v_2
である。
換算質量 \mu は
\boxed{\mu=\frac{m_1m_2}{m_1+m_2}}
で定義する。
3方針
重心系を使う理由は、衝突を「全体の並進」と「内部の相対運動」に分解できるからである。
- V を求める。
- v_1'=v_1-V,\ v_2'=v_2-V に直す。
- 重心系で反発係数や弾性を読む。
- 必要なら最後に V を足して実験室系へ戻す。
4帰結 1:重心系では全運動量が 0
V=(m_1v_1+m_2v_2)/(m_1+m_2) と定義し、v_i'=v_i-V と置くと、
\boxed{m_1v_1'+m_2v_2'=0}
である。
4.1証明
定義に代入すると、
m_1(v_1-V)+m_2(v_2-V)
=
m_1v_1+m_2v_2-(m_1+m_2)V
である。V の定義より
(m_1+m_2)V=m_1v_1+m_2v_2
なので、
m_1v_1'+m_2v_2'=0
を得る。
5関係式 2:相対速度は座標系の一様移動で変わらない
v_1'=v_1-V,\ v_2'=v_2-V なら、
\boxed{v_1'-v_2'=v_1-v_2}
である。
5.1証明
左辺を計算すると、
v_1'-v_2'=(v_1-V)-(v_2-V)=v_1-v_2
である。したがって反発係数のように相対速度だけで定義される量は、実験室系でも重心系でも同じである。
6関係式 3:運動エネルギーの分解
2 物体の全運動エネルギーは
\boxed{
\frac12m_1v_1^2+\frac12m_2v_2^2
=
\frac12(m_1+m_2)V^2+\frac12\mu(v_1-v_2)^2
}
と分解できる。
6.1証明
v_1=V+v_1'、v_2=V+v_2' と書く。全運動エネルギーは
K=
\frac12m_1(V+v_1')^2+\frac12m_2(V+v_2')^2
である。展開すると
K=
\frac12(m_1+m_2)V^2
+V(m_1v_1'+m_2v_2')
+\frac12m_1{v_1'}^2+\frac12m_2{v_2'}^2
である。帰結 1 より中央の項は 0 である。
重心系では m_1v_1'+m_2v_2'=0 なので、
v_1'=\frac{m_2}{m_1+m_2}(v_1-v_2),
\qquad
v_2'=-\frac{m_1}{m_1+m_2}(v_1-v_2)
である。これを代入すると、
\frac12m_1{v_1'}^2+\frac12m_2{v_2'}^2
=
\frac12\frac{m_1m_2}{m_1+m_2}(v_1-v_2)^2
=
\frac12\mu(v_1-v_2)^2
を得る。
7関係式 4:弾性衝突は重心系で速度が反転する
1 次元の弾性衝突では、重心系で
\boxed{v_1'{}_{\mathrm{after}}=-v_1'{}_{\mathrm{before}},\qquad
v_2'{}_{\mathrm{after}}=-v_2'{}_{\mathrm{before}}}
である。
7.1証明
重心系では全運動量が 0 である。したがって衝突前も衝突後も
m_1v_1'+m_2v_2'=0
を満たす。弾性衝突では運動エネルギーも保存するので、関係式 3 の内部エネルギー
\frac12\mu(v_1-v_2)^2
が保存する。つまり相対速度の大きさは変わらない。衝突後は近づく向きから離れる向きへ変わるため、相対速度は符号だけ反転する。重心系では 2 速度が運動量 0 の関係で結ばれているため、各速度も符号だけ反転する。
8単位の確認
V と v_i はどちらも
[\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]
である。換算質量 \mu は
\frac{m_1m_2}{m_1+m_2}
:
\frac{\mathsf{M^2}}{\mathsf{M}}
=
\mathsf{M}
なので質量の単位をもつ。したがって \frac12\mu(v_1-v_2)^2 は [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] である。
9具体例:同質量の弾性衝突
m_1=m_2=m とする。衝突前に v_1=u、v_2=0 なら、
V=\frac{mu+m\cdot0}{2m}=\frac{u}{2}
である。重心系では
v_1'=\frac{u}{2},\qquad v_2'=-\frac{u}{2}
である。弾性衝突では反転するので、
v_1'{}_{\mathrm{after}}=-\frac{u}{2},\qquad
v_2'{}_{\mathrm{after}}=\frac{u}{2}
である。実験室系へ戻すために V=u/2 を足すと、
v_1{}_{\mathrm{after}}=0,\qquad
v_2{}_{\mathrm{after}}=u
となる。同質量の弾性衝突で速度が交換される理由である。
10見分け方
- 2 物体の衝突で式が複雑なら、重心系へ移る。
- 相対速度だけが問われるなら、座標系を変えても値は変わらない。
- 運動エネルギーの損失は、全体の並進ではなく内部の相対運動から出る。
11どこまで成立するか
ここでは 1 次元の 2 物体衝突を扱った。2 次元では、接触法線方向と接線方向に分ける。反発係数は通常、接触法線方向の相対速度に対して定義する。
12最終形
\boxed{V=\frac{m_1v_1+m_2v_2}{m_1+m_2}}
\boxed{v_i'=v_i-V,\qquad m_1v_1'+m_2v_2'=0}
\boxed{K=\frac12(m_1+m_2)V^2+\frac12\mu(v_1-v_2)^2}
13一言
重心系では、衝突は全体の移動ではなく相対運動の変化として見える。