保存則の導出
physicsmechanicsconservation-lawslecture
1導入
この講義では、保存則を別々の公式として覚えるのではなく、運動方程式にどの操作を施すとどの保存量が現れるかで整理する方法を説明する。
出発点は
\frac{d\vec p}{dt}=\vec F
である。これを粒子について足せば運動量、変位と内積すればエネルギー、位置ベクトルと外積すれば角運動量が出る。
2用語と定義
保存量とは、時間が変わっても値が変わらない量である。
全運動量は
\vec P=\sum_i\vec p_i=\sum_i m_i\vec v_i
である。
力学的エネルギーは
E=K+U
である。
全角運動量は
\vec L=\sum_i\vec r_i\times\vec p_i
である。
3方針
保存則を使うときは、まず「どの量が変わらない可能性があるか」を見る。
- 外力の合力が 0 なら、運動量を見る。
- 非保存力の仕事が 0 なら、力学的エネルギーを見る。
- 外力のモーメントが 0 なら、角運動量を見る。
4保存則 1:全運動量の保存
多粒子系で、外力の合計が 0 なら、
\boxed{\vec P=\mathrm{const}}
である。
4.1証明
粒子 i について
\frac{d\vec p_i}{dt}=\vec F_i
である。力を外力と内力に分けて全粒子で足すと、
\frac{d}{dt}\sum_i\vec p_i
=
\sum_i\vec F_{i,\mathrm{ext}}
+\sum_i\vec F_{i,\mathrm{int}}
である。内力は作用反作用の組で打ち消し合うので、
\sum_i\vec F_{i,\mathrm{int}}=\vec0
である。したがって
\frac{d\vec P}{dt}=\sum_i\vec F_{i,\mathrm{ext}}
である。外力の合計が 0 なら d\vec P/dt=\vec0 なので、\vec P は保存する。
5保存則 2:力学的エネルギーの保存
保存力だけが仕事をし、非保存力の仕事が 0 なら、
\boxed{K+U=\mathrm{const}}
である。
5.1証明
仕事と運動エネルギーの定理より、
\Delta K=W_{\mathrm{cons}}+W_{\mathrm{nc}}
である。位置エネルギーの定義より、保存力の仕事は
W_{\mathrm{cons}}=-\Delta U
である。したがって
\Delta K=-\Delta U+W_{\mathrm{nc}}
である。整理すると
\Delta(K+U)=W_{\mathrm{nc}}
である。W_{\mathrm{nc}}=0 なら \Delta(K+U)=0 なので、K+U は保存する。
6保存則 3:角運動量の保存
外力の合モーメントが 0 なら、
\boxed{\vec L=\mathrm{const}}
である。
6.1証明
角運動量の基本より、固定した基準点まわりで
\frac{d\vec L}{dt}=\sum\vec\tau_{\mathrm{ext}}
である。内力のモーメントは、作用反作用が同一直線上に働く通常の質点系では対ごとに相殺される。よって外力の合モーメントが 0 なら
\frac{d\vec L}{dt}=\vec0
であり、\vec L は保存する。
7保存則 4:中心力では角運動量が保存する
力が常に中心へ向かうなら、その中心まわりの角運動量は保存する。
7.1証明
中心力では
\vec F\parallel \vec r
である。したがって
\vec\tau=\vec r\times\vec F=\vec0
である。保存則 3 より角運動量は保存する。
8単位の確認
運動量は
[\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}]
である。力学的エネルギーは
[\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}]
である。角運動量は
[\mathrm{kg\,m^2/s};\ \mathsf{ML^2T^{-1}}]
である。これらは互いに別の次元をもつため、同じ式で足し合わせることはできない。
9使い分けの表
| 見る条件 | 保存する量 | 代表例 |
| \sum\vec F_{\mathrm{ext}}=\vec0 | \vec P | 衝突、爆発 |
| W_{\mathrm{nc}}=0 | K+U | 落下、ばね、摩擦なしの斜面 |
| \sum\vec\tau_{\mathrm{ext}}=\vec0 | \vec L | 中心力、回転する人 |
10具体例:惑星の運動
太陽の重力だけを受ける惑星を考える。力は太陽へ向かう中心力なので、太陽まわりの角運動量は保存する。また万有引力は保存力なので、力学的エネルギーも保存する。
ただし、運動量は一般には保存しない。惑星だけを系に取ると、太陽からの外力が働くからである。太陽と惑星を一体の系に取れば、内力として相殺し、全運動量は保存する。
11見分け方
- 短時間の衝突なら、外力の力積が小さいので運動量を見る。
- 始点と終点の速さや高さなら、エネルギーを見る。
- 中心力や回転なら、角運動量を見る。
- 保存則を複数使うときは、それぞれの成立条件を別々に確認する。
12どこまで成立するか
保存則は、近似として使う場合もある。衝突では外力の力積が 0 でなければ厳密な運動量保存ではない。摩擦があれば力学的エネルギーは保存しない。角運動量も、外力のモーメントがあれば変化する。
13最終形
\boxed{\sum\vec F_{\mathrm{ext}}=\vec0\Rightarrow \vec P=\mathrm{const}}
\boxed{W_{\mathrm{nc}}=0\Rightarrow K+U=\mathrm{const}}
\boxed{\sum\vec\tau_{\mathrm{ext}}=\vec0\Rightarrow \vec L=\mathrm{const}}
14一言
保存則は魔法の公式ではない。運動方程式を足す、内積する、外積することで現れる。