仕事と力学的エネルギー
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1導入
この講義では、時間を追う代わりに、力が移動に沿ってする仕事から運動を記述する方法を説明する。運動方程式は
\sum\vec F=m\vec a
で瞬間の加速度を決める。一方、仕事とエネルギーは、始点と終点の速さや高さを直接つなぐ。
したがって、途中の時刻ではなく、前後の状態を比べたい問題ではエネルギーが自然な道具になる。
2用語と定義
仕事とは、力と微小変位の内積を経路に沿って足し合わせた量である。
W=\int_C \vec F\cdot d\vec r
一定の力が直線に沿って作用する場合は
W=Fd\cos\theta
である。
運動エネルギーは
K=\frac12mv^2
で定義する。
保存力とは、仕事が経路に依存せず、始点と終点だけで決まる力である。
位置エネルギー U は、保存力に対して
U(B)-U(A)=-\int_A^B \vec F_{\mathrm{cons}}\cdot d\vec r
で定義する。
3方針
仕事とエネルギーを使う理由は、運動方程式を変位で積分すると、速度の二乗が自然に現れるからである。力の時間変化を詳しく追うのではなく、力が移動方向に沿ってした累積効果を読む。
手順は次である。
- 始点と終点を決める。
- 保存力として U に入れる力を決める。
- 摩擦や外力などの非保存力の仕事を別に数える。
- \Delta(K+U)=W_{\mathrm{nc}} を使う。
4関係式 1:仕事と運動エネルギー
慣性系で質量 m が一定の物体について、
\boxed{\Delta K=W_{\mathrm{net}}}
が成立する。ここで W_{\mathrm{net}} は合力の仕事である。
4.1証明
運動方程式は
m\frac{d\vec v}{dt}=\vec F_{\mathrm{net}}
である。両辺に d\vec r=\vec v\,dt を内積する。
m\frac{d\vec v}{dt}\cdot\vec v\,dt
=
\vec F_{\mathrm{net}}\cdot d\vec r
左辺は
m\vec v\cdot d\vec v
=
d\left(\frac12m|\vec v|^2\right)
である。したがって
dK=\vec F_{\mathrm{net}}\cdot d\vec r
である。経路に沿って積分すると
K_B-K_A=\int_A^B \vec F_{\mathrm{net}}\cdot d\vec r
となる。右辺は合力の仕事なので、\Delta K=W_{\mathrm{net}} が従う。
5関係式 2:力学的エネルギーの収支
保存力の仕事を位置エネルギー U に入れ、非保存力の仕事を W_{\mathrm{nc}} とすると、
\boxed{\Delta(K+U)=W_{\mathrm{nc}}}
が成立する。特に W_{\mathrm{nc}}=0 なら
\boxed{K+U=\mathrm{const}}
である。
5.1証明
合力の仕事を、保存力の仕事 W_{\mathrm{cons}} と非保存力の仕事 W_{\mathrm{nc}} に分ける。
\Delta K=W_{\mathrm{cons}}+W_{\mathrm{nc}}
位置エネルギーの定義より
W_{\mathrm{cons}}=-\Delta U
である。よって
\Delta K=-\Delta U+W_{\mathrm{nc}}
となる。両辺を整理すれば
\Delta(K+U)=W_{\mathrm{nc}}
を得る。
6関係式 3:地表付近の重力の位置エネルギー
鉛直上向きに高さ y を取り、重力加速度を一定 g とみなせる範囲では、地面 y=0 を U_g=0 と選ぶと
\boxed{U_g=mgy}
である。
6.1証明
重力は鉛直下向きなので、
\vec F_g=-mg\,\vec e_y
である。位置エネルギーの定義は
dU_g=-\vec F_g\cdot d\vec r
である。d\vec r=dy\,\vec e_y とすると、
dU_g=-(-mg\,\vec e_y)\cdot(dy\,\vec e_y)=mg\,dy
である。y=0 で U_g=0 と選べば、
U_g(y)=\int_0^y mg\,dy'=mgy
を得る。
7関係式 4:ばねの位置エネルギー
フックの法則 F=-kx に従うばねの位置エネルギーは
\boxed{U_s=\frac12kx^2}
である。
7.1証明
ばねの力は F_s=-kx である。位置エネルギーは
dU=-F_s\,dx
で定義される。したがって
dU=kx\,dx
である。自然長 x=0 を U=0 と選ぶと、
U(x)=\int_0^x kx'\,dx'=\frac12kx^2
を得る。
8単位の確認
仕事は
F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]
\times
d\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]
\quad\Rightarrow\quad
W\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}]
である。運動エネルギーも
m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]
\times
v^2\ [\mathrm{m^2/s^2};\ \mathsf{L^2T^{-2}}]
\quad\Rightarrow\quad
K\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}]
である。したがって、エネルギー式では K、U、W の各項がすべて [\mathrm{J}] でそろう。
9具体例 1:自由落下
高さ h から初速度 0 で落下する物体を考える。空気抵抗を無視し、地面を U=0 とする。
K_i+U_i=K_f+U_f
より
0+mgh=\frac12mv^2+0
である。したがって
\boxed{v=\sqrt{2gh}}
を得る。
10具体例 2:摩擦で止まる距離
水平面で速さ v_0 の物体が動摩擦力だけで止まる。動摩擦係数を \mu_k とする。動摩擦力は f_k=\mu_kmg で、仕事は
W_{\mathrm{fric}}=-\mu_kmgd
である。仕事と運動エネルギーの定理から
0-\frac12mv_0^2=-\mu_kmgd
したがって
\boxed{d=\frac{v_0^2}{2\mu_kg}}
である。
11見分け方
- 瞬間の加速度や力を問うなら、運動方程式を使う。
- 始点と終点の速さ、高さ、ばねの伸びを問うなら、エネルギーを使う。
- 摩擦があるなら、K+U=\mathrm{const} ではなく \Delta(K+U)=W_{\mathrm{nc}} を使う。
- 保存力の仕事を U に入れたら、同じ仕事を右辺にもう一度入れない。
12どこまで成立するか
\Delta K=W_{\mathrm{net}} は慣性系での Newton 力学から導かれる。位置エネルギーを導入できるのは保存力に対してである。空気抵抗や摩擦のように経路へ依存する力は、仕事として別に扱う。
13最終形
\boxed{W=\int_C\vec F\cdot d\vec r}
\boxed{\Delta K=W_{\mathrm{net}}}
\boxed{\Delta(K+U)=W_{\mathrm{nc}}}
14一言でいうと
仕事とエネルギーは、運動方程式を変位に沿って積分し、力の累積効果を速さや高さの変化へ変換する方法である。