重心の基本
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1導入
この講義では、複数の物体や広がった物体を、並進運動だけに注目して 1 点へ集約する方法を説明する。その点が重心である。
重心を使う理由は、内部でどれだけ複雑な力が働いても、系全体の重心の運動は外力だけで決まるからである。
2用語と定義
n 個の質点があり、質量が m_i、位置が \vec r_i であるとする。全質量を
M=\sum_{i=1}^n m_i
と置く。重心 \vec R を
\boxed{\vec R=\frac{1}{M}\sum_{i=1}^n m_i\vec r_i}
で定義する。
連続体では、和を積分に置き換えて
\vec R=\frac{1}{M}\int \vec r\,dm
と書く。
3方針
重心では、位置そのものを単純に平均しない。質量で重みづけする。重い部分ほど重心を強く引き寄せる。
問題では次の順序で考える。
- 質量と位置を表にする。
- \sum m_i\vec r_i を作る。
- 全質量 M で割る。
- 対称性があれば、計算の前に使う。
- 運動を調べる場合は、M\ddot{\vec R}=\vec F_{\mathrm{ext}} を使う。
4整理 1:二つの質点の重心
1 次元で、質量 m_1,m_2 の質点が位置 x_1,x_2 にあるとき、
\boxed{x_G=\frac{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}}
である。重心は重い質点の側へ寄る。
4.1証明
重心の定義に n=2 を代入するだけで
x_G=\frac{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}
を得る。距離の比を見るため、x_1<x_G<x_2 とする。このとき
x_G-x_1=\frac{m_2(x_2-x_1)}{m_1+m_2}
x_2-x_G=\frac{m_1(x_2-x_1)}{m_1+m_2}
である。したがって
\frac{x_G-x_1}{x_2-x_G}=\frac{m_2}{m_1}
であり、重い側ほど距離が短い。
5方程式 2:重心の運動方程式
多粒子系について
\boxed{M\ddot{\vec R}=\vec F_{\mathrm{ext}}^{\mathrm{tot}}}
が成立する。重心を加速するのは外力の合力だけである。
5.1証明
定義より
M\vec R=\sum_i m_i\vec r_i
である。両辺を時間で 2 回微分すると
M\ddot{\vec R}=\sum_i m_i\ddot{\vec r}_i
となる。i 番目の質点に Newton の第 2 法則を使うと
m_i\ddot{\vec r}_i=\vec F_i^{\mathrm{ext}}+\vec F_i^{\mathrm{int}}
である。よって
M\ddot{\vec R}
=
\sum_i\vec F_i^{\mathrm{ext}}
+
\sum_i\vec F_i^{\mathrm{int}}
となる。内力は作用反作用の対として同じ大きさで逆向きに現れるため、全て足すと
\sum_i\vec F_i^{\mathrm{int}}=\vec0
である。したがって
M\ddot{\vec R}=\sum_i\vec F_i^{\mathrm{ext}}=\vec F_{\mathrm{ext}}^{\mathrm{tot}}
を得る。
6関係式 3:重心速度と全運動量
重心速度を \dot{\vec R} とすると、
\boxed{\vec P=M\dot{\vec R}}
である。
6.1証明
重心の定義
M\vec R=\sum_i m_i\vec r_i
を時間で微分する。
M\dot{\vec R}=\sum_i m_i\dot{\vec r}_i
\dot{\vec r}_i=\vec v_i なので
M\dot{\vec R}=\sum_i m_i\vec v_i=\sum_i\vec p_i=\vec P
である。
7単位の確認
重心の位置は
\frac{m_i\vec r_i}{M}
の和である。m_i\vec r_i は [\mathrm{kg\,m};\ \mathsf{ML}]、M は [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] なので、結果は [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] になる。
重心の運動方程式では
M\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]
\times
\ddot R\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]
\quad\Rightarrow\quad
M\ddot R\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]
であり、外力の合力と同じ単位である。
8具体例 1:二つの質点
x=0 に質量 m、x=3a に質量 2m がある。このとき
x_G=\frac{m\cdot0+2m\cdot3a}{3m}=2a
である。重心は重い質点の側へ寄る。
9具体例 2:穴あき板
一様な板から一部を切り抜いた形では、切り抜いた部分を負の質量として扱う。元の板の質量を M_0、重心を \vec R_0、穴に相当する部分の質量を m、重心を \vec R_1 とすると、
\vec R=\frac{M_0\vec R_0-m\vec R_1}{M_0-m}
である。重心の式が質量について線形なので、この引き算が使える。
10見分け方
- 質量分布を 1 点へ代表させたいなら、重心を使う。
- 対称性があるなら、重心は対称軸や対称面の上にある。
- 衝突や分裂で外力の力積が無視できるなら、重心速度は一定である。
- 重心が分かっても、回転や内部変形まで決まるわけではない。
11どこまで成立するか
重心の運動方程式は、内力が作用反作用の対として相殺する範囲で使う。この式が記述するのは並進運動であり、回転運動は角運動量やトルクで別に扱う。
12最終形
\boxed{\vec R=\frac{\sum_i m_i\vec r_i}{\sum_i m_i}}
\boxed{M\ddot{\vec R}=\vec F_{\mathrm{ext}}^{\mathrm{tot}}}
\boxed{\vec P=M\dot{\vec R}}
13一言でいうと
重心は質量で重みづけした代表点であり、系全体の並進運動だけを外力で読むための点である。