剛体のつり合いの基本
physicsmechanicsrigid-bodytorquelecture
1導入
この講義では、広がりをもつ物体では「動かない」ために、合力が 0 であるだけでは足りないという性質を説明する。
質点なら、力の合計が 0 なら加速度は 0 である。しかし剛体は回転できる。合力が 0 でも、力の作用線がずれていれば回り始める。そこで、並進を止める条件と回転を止める条件を分ける。
2用語と定義
剛体とは、物体の内部の距離が変わらないとみなせる理想化である。
力のモーメント \vec\tau とは、基準点から力の作用点へ向かう位置ベクトルを \vec r、力を \vec F として
\vec\tau=\vec r\times\vec F
で定義する量である。平面の問題では、大きさは
\tau=Fd
である。ここで d は基準点から力の作用線までの垂直距離である。
作用線とは、力の向きに沿って作用点を通る直線である。
3方針
剛体のつり合いでは、式を 2 種類に分ける。
- 並進を見るために \sum\vec F=\vec0 を立てる。
- 回転を見るために \sum\vec\tau=\vec0 を立てる。
- 未知の力が多いときは、その力の作用線が通る点を基準点に選び、モーメントから消す。
4条件 1:剛体が静止し続ける条件
慣性系で剛体が初めに静止し、初期角速度も 0 であるとする。この剛体が静止し続けるための条件は、外力の合力について
\boxed{\sum\vec F=\vec0}
かつ、任意の基準点まわりの外力のモーメントについて
\boxed{\sum\vec\tau=\vec0}
である。
4.1証明
合力については、剛体を構成する質点の運動方程式を足し合わせると
M\vec a_{\mathrm{cm}}=\sum\vec F_{\mathrm{ext}}
となる。ここで \vec a_{\mathrm{cm}} は重心の加速度である。静止し続けるなら \vec a_{\mathrm{cm}}=\vec0 なので、\sum\vec F=\vec0 が必要である。
回転については、固定軸まわりの回転運動では
\sum\tau_{\mathrm{ext}}=I\alpha
である。ここで和は外力のモーメントの和である。静止し続けるなら \alpha=0 なので、\sum\tau=0 が必要である。
逆に、\sum\vec F=\vec0 かつ \sum\vec\tau=\vec0 なら、重心の加速度も角加速度も 0 である。したがって初速度と初期角速度がどちらも 0 なら、その状態を保つ。
5条件 2:基準点を変えてもよい条件
\sum\vec F=\vec0 が成立するとき、ある基準点 O まわりで \sum\vec\tau_O=\vec0 なら、任意の基準点 O' まわりでも \sum\vec\tau_{O'}=\vec0 である。
5.1証明
O' から O への位置ベクトルを \vec a とする。力 \vec F_i の O からの位置ベクトルを \vec r_i とすると、O' からは \vec r_i+\vec a と書ける。したがって
\sum\vec\tau_{O'}
=
\sum(\vec r_i+\vec a)\times\vec F_i
=
\sum\vec r_i\times\vec F_i
+\vec a\times\sum\vec F_i
である。\sum\vec F_i=\vec0 なので第 2 項は 0 であり、
\sum\vec\tau_{O'}=\sum\vec\tau_O
となる。よって O で 0 なら O' でも 0 である。
6帰結 3:作用線が基準点を通る力のモーメントは 0
力の作用線が基準点を通るなら、その力のモーメントは 0 である。
6.1証明
作用線が基準点を通るとは、位置ベクトル \vec r と力 \vec F が平行であることを意味する。したがって
\vec r\times\vec F=\vec0
である。平面の式 \tau=Fd で見ても、垂直距離 d=0 なので \tau=0 である。
7単位の確認
力のモーメントは
r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]
\times
F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]
=
\tau\ [\mathrm{N\,m};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}]
である。これはエネルギーと同じ次元をもつが、意味は違う。エネルギーは仕事の量であり、モーメントは回転を変える効果である。
8具体例:水平な棒の支点反力
長さ L、質量 M の一様な棒が左端で支えられ、右端に質量 m の物体が吊るされている。左端まわりにモーメントを取ると、左端の支点反力は作用線が基準点を通るため消える。
Mg\frac{L}{2}+mgL
が時計回りのモーメントである。他に反時計回りのモーメントを生む力がなければ静止できない。したがって、壁や支柱が別の力を与える配置が必要である。実際の問題では、その未知力を含めて \sum\tau=0 を立てる。
9見分け方
- 物体を質点として扱えるなら、\sum\vec F=\vec0 だけでよい。
- 棒、板、はしご、扉のように長さが効くなら、\sum\vec\tau=\vec0 も必要である。
- 未知力を消したいなら、その作用線が通る点を基準点に選ぶ。
- 力の作用点ではなく、作用線までの垂直距離を見る。
10どこまで成立するか
ここでの剛体は変形しない理想化である。実物の梁や材料では、曲がりや破壊を考える必要がある。また、静止していない回転運動では \sum\tau=I\alpha を使い、\sum\tau=0 だけではない。
11最終形
\boxed{\sum\vec F=\vec0}
\boxed{\sum\vec\tau=\vec0}
\boxed{\vec\tau=\vec r\times\vec F,\qquad \tau=Fd}
12一言
剛体のつり合いでは、動かないことと回らないことを別々に確認する。