慣性モーメントの基本
physicsmechanicsmoment-of-inertiarigid-bodylecture
1導入
この講義では、回転では質量そのものだけでなく、質量が軸からどれだけ離れているかが効くという性質を説明する。
直線運動では、質量 m が加速しにくさを表す。固定軸まわりの回転では、軸から距離 r にある質量は v=r\omega で動くため、運動エネルギーに r^2 が現れる。これが慣性モーメントの出発点である。
2用語と定義
慣性モーメント I とは、固定軸から距離 r_i にある質点 m_i について
\boxed{I=\sum_i m_ir_i^2}
で定義する量である。連続体では
I=\int r^2\,dm
と書く。
回転エネルギーとは、固定軸まわりに角速度 \omega で回転する剛体の運動エネルギーである。
平行軸の定理とは、重心を通る軸まわりの慣性モーメントを I_G、それと平行で距離 d だけ離れた軸まわりの慣性モーメントを I とすると、
I=I_G+Md^2
が成立するという定理である。
3方針
慣性モーメントを覚えるだけではなく、なぜ r^2 が出るかを見る。
- 各質点の速さを v_i=r_i\omega と書く。
- \sum \frac12m_iv_i^2 に代入する。
- \omega^2 の係数として I=\sum m_ir_i^2 が現れる。
- 力のモーメントと角加速度の関係も、同じ I で書ける。
4関係式 1:回転エネルギー
固定軸まわりに角速度 \omega で回転する剛体の運動エネルギーは
\boxed{K_{\mathrm{rot}}=\frac12I\omega^2}
である。
4.1証明
剛体を多数の質点 m_i に分ける。固定軸からの距離を r_i とすると、回転運動の基本より
v_i=r_i\omega
である。全運動エネルギーは
K=\sum_i\frac12m_iv_i^2
=
\sum_i\frac12m_i(r_i\omega)^2
=
\frac12\left(\sum_i m_ir_i^2\right)\omega^2
である。括弧の中を I と定義したので、
K_{\mathrm{rot}}=\frac12I\omega^2
を得る。
5方程式 2:固定軸まわりの運動方程式
慣性系に固定された軸まわりに剛体が回転し、その軸方向の成分だけを考える。外力のモーメントの和を \sum\tau_{\mathrm{ext}} とすると、
\boxed{\sum\tau_{\mathrm{ext}}=I\alpha}
が成立する。
5.1証明
軸から距離 r_i にある質点 m_i を考える。接線方向の加速度は
a_{t,i}=r_i\alpha
である。したがって接線方向の力は
F_{t,i}=m_ir_i\alpha
である。この力が軸まわりに作るモーメントは
\tau_i=r_iF_{t,i}=m_ir_i^2\alpha
である。全体で足すと
\sum\tau_i=\left(\sum_i m_ir_i^2\right)\alpha=I\alpha
を得る。この和には、各質点に働く外力と内部力の接線方向成分が含まれる。剛体の内部力は作用反作用の対として現れ、全体の角運動量を変える外力のモーメントにはならない。また、固定軸が与える拘束力は軸上で働くので、その軸まわりのモーメントは 0 である。したがって軸方向の外力モーメントだけを残して
\sum\tau_{\mathrm{ext}}=I\alpha
を得る。
6定理 3:平行軸の定理
質量 M の剛体について、重心を通る軸まわりの慣性モーメントを I_G とする。同じ向きで距離 d だけ離れた平行軸まわりの慣性モーメントは
\boxed{I=I_G+Md^2}
である。
6.1証明
重心を原点とする平面内の位置を \vec\rho_i とし、新しい軸が重心軸から \vec d だけ離れているとする。新しい軸からの垂直距離の二乗は |\vec\rho_i-\vec d|^2 である。したがって
I=\sum_i m_i|\vec\rho_i-\vec d|^2
である。展開すると
I=\sum_i m_i|\vec\rho_i|^2
-2\vec d\cdot\sum_i m_i\vec\rho_i
+|\vec d|^2\sum_i m_i
となる。重心を原点に取ったので
\sum_i m_i\vec\rho_i=\vec0
である。また \sum_i m_i=M である。よって
I=I_G+Md^2
を得る。
7単位の確認
I の単位は
m r^2:
[\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]
[\mathrm{m^2};\ \mathsf{L^2}]
=
[\mathrm{kg\,m^2};\ \mathsf{ML^2}]
である。回転エネルギーでは
I\omega^2:
[\mathrm{kg\,m^2};\ \mathsf{ML^2}]
[\mathrm{1/s^2};\ \mathsf{T^{-2}}]
=
[\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}]
となる。
8具体例:固定軸まわりに回転する円盤
質量 M、半径 R の一様円盤が中心軸まわりに角速度 \omega で回転する。中心軸まわりの慣性モーメントは
I=\frac12MR^2
である。したがって回転エネルギーは
K_{\mathrm{rot}}
=
\frac12I\omega^2
=
\frac14MR^2\omega^2
である。質量が同じでも、半径が大きいほど軸から遠い質量が増えるため、同じ \omega でも回転エネルギーは大きくなる。
9見分け方
- 物体が広がって回転するなら、I を確認する。
- 軸が変われば I も変わる。
- 重心からずれた軸なら、平行軸の定理を使う。
- 固定軸なら K_{\mathrm{rot}}=\frac12I\omega^2 を使う。
10どこまで成立するか
I=\sum m_ir_i^2 は軸を指定してはじめて意味をもつ。一般の 3 次元回転では、慣性モーメントは 1 個の数ではなく慣性テンソルになる。この講義では固定軸または対称軸まわりの回転を扱う。
11最終形
\boxed{I=\sum_i m_ir_i^2}
\boxed{K_{\mathrm{rot}}=\frac12I\omega^2}
\boxed{\sum\tau_{\mathrm{ext}}=I\alpha}
\boxed{I=I_G+Md^2}
12一言
慣性モーメントは、回転にとっての質量である。ただし、軸から遠い質量ほど r^2 で強く効く。