束縛条件
physicsmechanicsconstraintsrollinglecture
1導入
この講義では、束縛条件は力の法則ではなく、位置や速度の関係式だという性質を説明する。
伸びない糸、滑車、すべりなし転がり、面との接触では、各物体の座標を独立に動かせない。まず幾何学から長さや接触の条件を書き、それを時間で微分して速度条件・加速度条件を作る。
2用語と定義
束縛条件とは、座標、速度、加速度の間に課される関係式である。
自由度とは、系の状態を決めるために独立に選べる量の数である。
すべりなし転がり、すなわち rolling without slipping とは、接触点で物体と床の相対速度が 0 である運動である。
接触条件とは、面が物体を押す垂直抗力が負になれないという条件である。
仮想変位とは、時刻を固定したまま、束縛条件を破らない微小な変位を考えたものである。
理想束縛力とは、許された仮想変位に対して全体として仕事をしない束縛力である。この講義では、質量のない伸びない糸、摩擦のない軽い滑車、なめらかな面を理想化として扱う。
3方針
束縛条件では、いきなり加速度を暗記しない。
- 動く長さや接触点を図から決める。
- 位置の関係式を書く。
- 一回微分して速度条件にする。
- 必要ならもう一回微分して加速度条件にする。
- 運動方程式、回転の式、保存則と連立する。
4条件 1:伸びない糸の長さ条件
伸びない糸の全長が
x_1+x_2+\ell_0=L
と書けるなら、
\boxed{v_1+v_2=0,\qquad a_1+a_2=0}
である。
4.1証明
L と \ell_0 は一定である。したがって
x_1+x_2+\ell_0=L
を時間で微分すると
\frac{dx_1}{dt}+\frac{dx_2}{dt}=0
である。つまり
v_1+v_2=0
である。さらに微分して
a_1+a_2=0
を得る。符号は座標の取り方で決まる。大きさだけを比べると、典型的な定滑車では 2 物体の加速度の大きさは等しい。
5整理 2:動滑車では端の変位が 2 倍になる
荷物を 2 本の糸が支える理想的な動滑車で、荷物の変位を x、引く端の変位を y とすると、
\boxed{y=2x,\qquad v_y=2v_x,\qquad a_y=2a_x}
である。
5.1証明
荷物が距離 x だけ上がると、荷物を支える 2 本の糸の部分がそれぞれ x ずつ短くなる。したがって糸の全長を保つには、引く端が
y=2x
だけ動く必要がある。時間で微分して
v_y=2v_x
さらに微分して
a_y=2a_x
を得る。
6条件 3:すべりなし転がりの条件
半径 R の物体が水平面をすべらずに転がるとする。右向きの重心速度を正、時計回りの角速度を正に取るなら、
\boxed{v_{\mathrm{cm}}=R\omega,\qquad a_{\mathrm{cm}}=R\alpha}
である。
6.1証明
床との接触点がすべらないとは、接触点の床に対する速度が 0 であることを意味する。
上の符号規約では、接触点の速度は、重心の並進速度 v_{\mathrm{cm}} と、回転による接触点の後向きの速度 R\omega の和である。すべりなしより
v_{\mathrm{cm}}-R\omega=0
である。したがって
v_{\mathrm{cm}}=R\omega
である。時間で微分すれば
a_{\mathrm{cm}}=R\alpha
を得る。
7条件 4:接触が保たれる条件
面が物体を押す垂直抗力を N とする。接触が保たれるためには
\boxed{N\ge 0}
が必要である。もし運動方程式から N<0 が出るなら、その接触は外れている。
7.1証明
面は物体を押すことはできるが、引くことはできない。垂直抗力は面から物体への押す力なので、大きさは負になれない。
計算上 N<0 が出るとは、面が物体を引かなければ仮定した軌道を保てないという性質を説明する。しかし面は引けないので、物体は面から離れる。したがって接触が保たれる境界は N=0 である。
8関係式 5:理想束縛の力は仮想仕事をしない
質量のない伸びない糸、摩擦のない軽い滑車、なめらかな面という理想化のもとでは、張力や垂直抗力のような理想束縛力は、許された仮想変位に対して全体として仕事をしない。
8.1証明
なめらかな面では、物体が取れる仮想変位 d\vec r は面に沿う方向である。垂直抗力は面に垂直なので、内積は
\vec N\cdot d\vec r=0
である。伸びない糸では、同じ糸の張力の大きさを T とする。糸が質量をもたず、滑車が摩擦をもたなければ、各部分の張力の大きさは同じである。伸びない条件より、糸に沿った仮想変位の和は 0 である。したがって張力の仮想仕事は
T\sum_i \delta s_i = 0
である。よって、これらの理想化のもとでは束縛力の仮想仕事は全体として消える。
9単位の確認
すべりなし転がりでは
R\omega:
[\mathrm{m};\ \mathsf{L}]
[\mathrm{1/s};\ \mathsf{T^{-1}}]
=
[\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]
であり、速度の単位になる。また
R\alpha:
[\mathrm{m};\ \mathsf{L}]
[\mathrm{1/s^2};\ \mathsf{T^{-2}}]
=
[\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]
であり、加速度の単位になる。
10具体例:すべりなしで斜面を転がる円柱
質量 M、半径 R の一様円柱が、高さ h からすべらずに転がる。摩擦は静止摩擦なので、接触点では仕事をしない。力学的エネルギー保存より
Mgh=\frac12Mv^2+\frac12I_G\omega^2
である。一様円柱では I_G=\frac12MR^2、すべりなしより v=R\omega なので、
Mgh=\frac12Mv^2+\frac12\cdot\frac12MR^2\cdot\frac{v^2}{R^2}
=\frac34Mv^2
である。したがって
\boxed{v=\sqrt{\frac{4gh}{3}}}
を得る。
11見分け方
- 糸が伸びないなら、全長を書いて微分する。
- 動滑車なら、支える糸の本数だけ変位の比が出る。
- すべりなしなら、接触点の相対速度 0 から v=R\omega を出す。
- 面から離れるかどうかは、N\ge0 を確認する。
12どこまで成立するか
束縛条件は仮定である。糸が伸びる、滑車に質量がある、摩擦が不足してすべる、接触が外れる、といった場合には条件を更新しなければならない。すべりなし転がりは、静止摩擦が十分に働く範囲でだけ成立する。
13最終形
\boxed{x_1+x_2+\ell_0=L\Rightarrow v_1+v_2=0,\ a_1+a_2=0}
\boxed{v_{\mathrm{cm}}=R\omega,\qquad a_{\mathrm{cm}}=R\alpha}
ただし、この式は右向きの並進と時計回りの回転を同じ正にした符号規約での形である。大きさだけなら |v_{\mathrm{cm}}|=R|\omega|、|a_{\mathrm{cm}}|=R|\alpha| である。
\boxed{N\ge0}
14一言
束縛条件は、力の式ではなく幾何の式である。位置で書いてから微分する。