万有引力と惑星運動
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1導入
この講義では、地表の落下と惑星の運動を別々の現象として共通する法則を説明する。本体は、質量をもつ物体どうしに働く中心力である。
地表付近では重力を mg と書く。天体の距離が大きく変わる問題では、
F=G\frac{Mm}{r^2}
を使う。mg は万有引力の地表付近での近似である。
2用語と定義
万有引力とは、質量 M と m の間に距離 r で働く引力であり、大きさは
\boxed{F=G\frac{Mm}{r^2}}
である。G は万有引力定数である。
重力加速度 g(r) は、質量 m の物体が万有引力によって受ける加速度である。
g(r)=G\frac{M}{r^2}
円軌道速度とは、半径 r の円軌道を保つための速さである。
脱出速度とは、無限遠まで到達しても速さが 0 以上でいられる最小の初速度である。
3方針
万有引力の問題では、問われている量で道具を選ぶ。
- 地表付近の落下なら g\simeq GM/R^2 と近似する。
- 円軌道なら、万有引力を向心力に等しくする。
- 脱出や軌道の束縛なら、力学的エネルギーを見る。
- 面積速度なら、中心力による角運動量保存を使う。
4近似 1:mg は万有引力の地表付近での近似
半径 R、質量 M の天体の表面付近では、
\boxed{g\simeq G\frac{M}{R^2}}
である。
4.1証明
中心からの距離を r とすると、万有引力の大きさは
F=G\frac{Mm}{r^2}
である。運動方程式 ma=F より、
a=G\frac{M}{r^2}
である。これを g(r) と書く。地表付近では r=R+h で、h\ll R なら r\simeq R とみなせる。したがって
g(r)=G\frac{M}{(R+h)^2}\simeq G\frac{M}{R^2}
である。
5関係式 2:円軌道速度
質量 M の天体を固定できる、または m\ll M とみなせるとする。その天体のまわりを、質量 m の物体が半径 r の円軌道で回るとき、
\boxed{v=\sqrt{\frac{GM}{r}}}
である。
5.1証明
中心天体を固定できる、または m\ll M とみなせるので、物体 m の円軌道だけを考える。円軌道では、中心向きの合力が
m\frac{v^2}{r}
でなければならない。万有引力がその向心力の役割を果たすので、
G\frac{Mm}{r^2}=m\frac{v^2}{r}
である。m>0、r>0 なので整理して
v^2=\frac{GM}{r}
を得る。よって
v=\sqrt{\frac{GM}{r}}
である。
6関係式 3:万有引力の位置エネルギー
無限遠で U=0 と選ぶと、万有引力の位置エネルギーは
\boxed{U(r)=-G\frac{Mm}{r}}
である。
6.1証明
半径方向の外向きを正とする。万有引力は中心向きなので
F_r=-G\frac{Mm}{r^2}
である。位置エネルギーの定義は
dU=-F_r\,dr
である。したがって
dU=G\frac{Mm}{r^2}\,dr
である。U(\infty)=0 を用いると、
U(r)-U(\infty)
=
\int_\infty^r G\frac{Mm}{s^2}\,ds
=
\left[-G\frac{Mm}{s}\right]_\infty^r
=
-G\frac{Mm}{r}
を得る。
7関係式 4:脱出速度
中心天体から距離 r の位置での脱出速度は
\boxed{v_{\mathrm{esc}}=\sqrt{\frac{2GM}{r}}}
である。
7.1証明
万有引力だけが働くとき、力学的エネルギー
E=\frac12mv^2-G\frac{Mm}{r}
は保存する。脱出の最小条件は、無限遠で速さがちょうど 0 になることである。このとき無限遠でのエネルギーは
E_\infty=0
である。したがって出発点でも
\frac12mv^2-G\frac{Mm}{r}=0
である。整理すると
v^2=\frac{2GM}{r}
なので、v_{\mathrm{esc}}=\sqrt{2GM/r} を得る。
8関係式 5:中心力では面積速度が一定
万有引力のような中心力のもとでは、面積速度
\frac{dA}{dt}
が一定である。
8.1証明
角運動量の講義より、中心力では
\vec L=\vec r\times m\vec v
が保存する。微小時間 dt の間に位置ベクトル \vec r が掃く面積は、三角形の面積として
dA=\frac12|\vec r\times d\vec r|
である。d\vec r=\vec v\,dt なので、
\frac{dA}{dt}=\frac12|\vec r\times\vec v|
=
\frac{|\vec L|}{2m}
である。|\vec L| が保存するので、dA/dt も一定である。
9法則 6:円軌道版のケプラー第三法則
円軌道では、公転周期 T と半径 r について
\boxed{T^2=\frac{4\pi^2}{GM}r^3}
が成立する。
9.1証明
円軌道では
v=\frac{2\pi r}{T}
である。関係式 2 より
v^2=\frac{GM}{r}
である。したがって
\left(\frac{2\pi r}{T}\right)^2=\frac{GM}{r}
である。整理すると
T^2=\frac{4\pi^2}{GM}r^3
を得る。
10単位の確認
G の単位は、F=GMm/r^2 より
G:
\frac{F r^2}{Mm}
=
\frac{[\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}][\mathrm{m^2};\ \mathsf{L^2}]}{[\mathrm{kg^2};\ \mathsf{M^2}]}
=
[\mathrm{N\,m^2/kg^2};\ \mathsf{M^{-1}L^3T^{-2}}]
である。GM/r は
\mathsf{M^{-1}L^3T^{-2}}\cdot\mathsf{M}/\mathsf{L}
=
\mathsf{L^2T^{-2}}
なので、\sqrt{GM/r} は速さの単位をもつ。
11具体例:円軌道速度と脱出速度の比
同じ距離 r で
v_{\mathrm{circ}}=\sqrt{\frac{GM}{r}},
\qquad
v_{\mathrm{esc}}=\sqrt{\frac{2GM}{r}}
である。したがって
v_{\mathrm{esc}}=\sqrt2\,v_{\mathrm{circ}}
である。脱出には、円軌道を保つ速さより大きい速さが必要である。
12見分け方
- 地表付近なら mg と U=mgh を使ってよい。
- 高度が地球半径に比べて大きいなら、G Mm/r^2 と -GMm/r を使う。
- 円軌道なら、向心力 = 万有引力。
- 脱出なら、無限遠を基準にしたエネルギーで見る。
- 面積速度なら、角運動量保存で見る。
13どこまで成立するか
この講義では、中心天体を球対称または質点として扱い、さらに中心天体を固定できる近似を使った。2 物体が同程度の質量をもつ厳密な 2 体問題では、相対運動の式により GM ではなく G(M+m) が現れる。楕円軌道の完全な導出には軌道方程式が必要である。ここで証明したケプラー第三法則は円軌道版であり、楕円軌道では r を長半径 a に置き換えた形が成立する。
14最終形
\boxed{F=G\frac{Mm}{r^2}}
\boxed{v_{\mathrm{circ}}=\sqrt{\frac{GM}{r}}}
\boxed{U(r)=-G\frac{Mm}{r}}
\boxed{v_{\mathrm{esc}}=\sqrt{\frac{2GM}{r}}}
\boxed{\frac{dA}{dt}=\frac{|\vec L|}{2m}}
15一言
万有引力では、近い範囲だけ mg と見る。距離が変わる天体問題では、本来の GMm/r^2 へ戻る。