万有引力と惑星運動
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導入
この講義の核心は、地上の落下と天体の運動を別々の現象としてではなく、同じ中心力の問題として読むことである。地表での mg と宇宙での G\dfrac{Mm}{r^2} は別の法則ではない。地表付近では r がほとんど変化しないため g を一定とみなしているだけであり、本体は常に逆二乗則である。
このページで解けるようになること
- 万有引力と重力加速度の関係を説明する
- 円軌道の速度と周期を求める
- 第一宇宙速度と第二宇宙速度の意味を区別する
- エネルギーの符号から束縛軌道と脱出軌道を判別する
- ケプラーの法則を角運動量保存・中心力と結びつける
方針
このページは 3 本柱で読む。
- 万有引力そのものの法則
- 円軌道・宇宙速度・エネルギー
- ケプラーの法則と惑星運動
軌道の速度や周期は「向心力 = 万有引力」で求める。束縛か脱出かはエネルギーの符号で判別する。面積速度一定は角運動量保存として解釈する。
適用条件
- 質点または球対称な質量分布として近似できること
- 地表付近で g を一定とみなす近似と、一般の逆二乗則を混同しないこと
- 第一宇宙速度・第二宇宙速度という呼称は地球に対する名称であり、一般の中心天体では「円軌道速度」「脱出速度」と解釈するのが自然である
data/lecture/physics/mechanics/円運動と単振動-講義.n.md
用語と定義
万有引力
F = G\frac{Mm}{r^2}
「万有」という命名:英語 universal(宇宙すべてに及ぶ)の訳。地球上の物体どうし・月と地球・惑星と太陽など、すべての質量をもつ物体の間に働くという意味である。科学史:Newton が 1687年の Principia で公式として提唱した。万有引力定数 G の実測は 1798年に Cavendish がねじり天秤で初めて実施した。Newton の発見はリンゴの落下と月の円軌道を同じ力で説明できることへの気づきに端を発すると伝わっている。適用条件:質量が球対称の場合(質点どうし、または均一球)は中心間距離 r で計算できる。
重力加速度
地球(質量 M、半径 R)の表面から高さ h の地点での重力加速度:
g(r) = G\frac{M}{r^2} \quad (r = R + h)
地表付近(h \ll R)では g \approx G\frac{M}{R^2}=9.8\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}](一定近似)。なぜ地表付近で g を一定とみなせるか:R \approx 6400\ [\mathrm{km};\ \mathsf{L}] に対して h\ [\mathrm{km};\ \mathsf{L}] が十分小さければ r \approx R、g(r) \approx g(R) が成り立つ。h=1000\ [\mathrm{km};\ \mathsf{L}] でも変化は約30%程度にとどまる。
ケプラーの 3 法則と万有引力
惑星運動の観測から Kepler が帰納的に導いた法則を、Newton は万有引力から演繹的に導出した。
| ケプラーの法則 | 内容 | 万有引力との対応 |
| 第 1 法則(楕円) | 惑星は太陽を焦点とする楕円軌道を描く | 逆二乗則から楕円が解として導出される |
| 第 2 法則(面積速度) | 面積速度は一定(太陽と惑星を結ぶ線は等時間に等面積を描く) | 中心力のもとで角運動量保存が成立することに等価 |
| 第 3 法則(調和) | T^2 \propto a^3(公転周期の 2 乗は長半径の 3 乗に比例) | 逆二乗則から円軌道で厳密に導出される |
直感的な説明
月が落ち続けているのに地球へ落ちないのは、横向きの速さをもつからである。軌道運動は「落下しながら地球を外し続ける」運動である。地表での落下はまっすぐ見えるが、それは短い時間では地球の曲率が無視できるからにすぎない。
厳密な説明
1. 万有引力と g の関係
質量 m の物体に働く加速度は
a = \frac{F}{m} = G\frac{M}{r^2}
地球の表面(r = R)では g = G\dfrac{M}{R^2}。これが逆二乗則であるため、距離が 2 倍になると力は \dfrac{1}{4} になる。
2. 円軌道の速度
半径 r の円軌道では、万有引力が向心力に等しい:
\frac{mv^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}
適用条件:円軌道(中心が惑星や地球の中心に一致)。解くと
\boxed{v = \sqrt{\frac{GM}{r}}}
これが地球表面付近での第一宇宙速度であり、r = R のとき
v_1=\sqrt{gR}\approx 7.9
となる。
3. 周期とケプラーの第 3 法則
v = \dfrac{2\pi r}{T} を代入すると
\frac{4\pi^2 r^2}{T^2} = \frac{GM}{r}
\boxed{T^2 = \frac{4\pi^2}{GM}r^3}
T^2 \propto r^3 はケプラーの第 3 法則の円軌道版である。楕円軌道では r を長半径 a で置換した結果と等価になる(証明は大学物理レベル)。
4. エネルギーによる軌道判別
万有引力の位置エネルギー(無限遠を基準、r \to \infty で U \to 0):
U(r) = -\frac{GMm}{r}
なぜ負か:引力に逆らって無限遠まで連れていくには仕事が必要であり、無限遠で U = 0 と定めると、近い場所ではそれ以下(負)になる。重力 U = mgh と異なり符号に注意が必要。力学的エネルギー E = K + U = \dfrac{1}{2}mv^2 - \dfrac{GMm}{r} の符号で軌道を判別できる:
| E の符号 | 軌道 | 解釈 |
| E < 0 | 楕円(円も含む) | 束縛状態—無限遠に届かない |
| E = 0 | 放物線 | ちょうど無限遠で速さ 0 |
| E > 0 | 双曲線 | 無限遠でも速さが残る |
円軌道では v^2 = GM/r を代入すると E = -\dfrac{GMm}{2r} < 0 となるため、常に束縛状態である。
5. 脱出速度(第二宇宙速度)
E = 0(無限遠で速さ 0)の条件:
\frac{1}{2}mv^2 - \frac{GMm}{r} = 0
\boxed{v_{\mathrm{esc}} = \sqrt{\frac{2GM}{r}}}
地球表面(r=R)では
v_{\mathrm{esc}}=\sqrt{2gR}\approx 11.2
となる。地球に対してはこれを第二宇宙速度と呼ぶ。
6. 面積速度と角運動量保存
万有引力は常に中心を向く力なので、
\vec{\tau}=\vec{r}\times\vec{F}=\vec{0}
である。したがって角運動量が保存され、面積速度
\frac{dA}{dt}=\frac{L}{2m}
が一定になる。これがケプラーの第 2 法則である。
見分け方
- 天体・人工衛星・惑星・脱出速度 → 万有引力と円運動の結合を立式する
- 速さ・周期を求める → ルート 2, 3(向心力 = 万有引力)
- 軌道の種類(束縛/脱出)を判別 → ルート 4(E の符号)
- T^2 \propto r^3 を使う → ケプラーの第 3 法則(ルート 3)
円軌道速度と脱出速度の違い
同じ距離 r でも、円軌道を保つ速さと、無限遠まで逃げる速さは別である。
円軌道では、万有引力が向心力を担うので
\frac{mv^2}{r}=\frac{GMm}{r^2}
より
v_{\mathrm{circ}}=\sqrt{\frac{GM}{r}}
である。脱出速度は、力学的エネルギーが 0 になる境界として
v_{\mathrm{esc}}=\sqrt{\frac{2GM}{r}}
である。したがって
v_{\mathrm{esc}}=\sqrt{2}v_{\mathrm{circ}}
となる。円軌道速度は「その半径で回り続ける速さ」、脱出速度は「束縛を離れる最小の速さ」である。
地表近似と万有引力の切り替え
地表付近では、重力加速度を一定の g とみなしてよい。この近似では
U=mgh
を使う。一方、高度が地球半径に比べて無視できないときや、人工衛星・惑星運動を扱うときは
U=-\frac{GMm}{r}
へ切り替える。基準も変わる。mgh は地表を基準にした近似式であり、-GMm/r は無限遠を 0 とする式である。
追加例: 円軌道の周期
質量 M の天体のまわりを、半径 r の円軌道で質量 m の物体が回るとする。万有引力が向心力を担うので
\frac{mv^2}{r}=\frac{GMm}{r^2}
であり、v=r\omega=\dfrac{2\pi r}{T} を代入すると
\frac{4\pi^2r}{T^2}=\frac{GM}{r^2}
したがって
\boxed{T^2=\frac{4\pi^2}{GM}r^3}
を得る。これは円軌道でのケプラーの第 3 法則であり、中心天体の質量 M が大きいほど、同じ半径での周期は短くなる。
有効ポテンシャルの見方
角運動量 L が保存する中心力の運動では、半径方向の運動を 1 次元の運動のように見られる。
E=\frac{1}{2} m\dot{r}^2+\frac{L^2}{2mr^2}-\frac{GMm}{r}
ここで
U_{\mathrm{eff}}(r)=\frac{L^2}{2mr^2}-\frac{GMm}{r}
を有効ポテンシャルという。第 1 項は角運動量を保ったまま中心へ近づくことへの抵抗を表し、第 2 項は万有引力の引き込みを表す。円軌道は、この U_{\mathrm{eff}} の谷の位置に対応する。
無重力に見える理由
人工衛星の中で無重力に見えるのは、重力が 0 だからではない。人工衛星も中の人も、地球の重力を受けながら同じ加速度で落下し続けているため、床からの垂直抗力がほとんど必要なくなる。
円軌道は「落ちていない運動」ではなく、地球へ落ち続けながら、水平の速さが大きいため地表に当たらない運動である。この見方は、向心加速度を重力が担うという円軌道の式と同じ内容である。
楕円軌道での速さの変化
惑星が太陽に近いところで速く、遠いところで遅く動くのは、角運動量が保存するからである。中心力では外力のモーメントが 0 なので
L=mr^2\dot{\theta}
が一定である。r が小さくなると、\dot{\theta} は大きくなる。面積速度が一定というケプラーの第 2 法則は、この角運動量保存の別表現である。
どこまで成り立つか
円軌道版の T^2 = \dfrac{4\pi^2}{GM}r^3 は厳密には円軌道にのみ成立する。楕円軌道では r を長半径 a で置換しても同じ式が成立するが、その導出には楕円の軌道方程式が必要である。U = mgh と U = -GMm/r は同じ重力の位置エネルギーの異なる近似レベルである。地表付近では \Delta U \approx mg\Delta h(両者は一致する)。
よくある誤り
- 地表付近の g=\text{const} をそのまま軌道問題へ持ち込む
- 第一宇宙速度と脱出速度を同じものだと思う
- 束縛軌道かどうかの判定で、エネルギーの符号を確認しない
- 向心力を別種の力と考え、万有引力と二重計上する
最終形
\boxed{F = G\frac{Mm}{r^2}}
円軌道の速度は次の形である。
\boxed{v = \sqrt{\frac{GM}{r}}}
\boxed{T^2 = \frac{4\pi^2}{GM}r^3}
脱出速度は次の形である。
\boxed{v_{\mathrm{esc}} = \sqrt{\frac{2GM}{r}}}
一言でいうと
万有引力は地上の落下と天体の運動を中心力として統一し、エネルギーの符号で束縛か脱出かを判別できる。
文字式の単位
万有引力の式
F=G\frac{Mm}{r^2}
では、F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}]、G\ [\mathrm{N\,m^2/kg^2};\ \mathsf{M^{-1}L^3T^{-2}}]、M\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] である。G の単位は、右辺が力 \mathrm{N} になるように決まっている。
万有引力による位置エネルギー U=-GMm/r\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] では、GMm/r\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] になる。円軌道の速さ v=\sqrt{GM/r}\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] では、GM/r\ [\mathrm{m^2/s^2};\ \mathsf{L^2T^{-2}}] になり、その平方根が \mathrm{m/s} になる。
近似を切り替える基準
地表付近では、重力加速度 g\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] を一定として扱う。しかし高度 h\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] が地球半径 R\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] に比べて無視できなくなると、g を一定とする近似は崩れる。そのときは、中心からの距離 r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] を使って F=GMm/r^2\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] を使う。
| 状況 | 使う見方 | 理由 |
| 地表近くの落下 | mg\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] | g\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] をほぼ一定とみなせる |
| 人工衛星 | GMm/r^2\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] | 中心からの距離が重要 |
| 脱出速度 | 力学的エネルギー | 無限遠までの位置エネルギー差を扱う |
| 楕円軌道 | 角運動量とエネルギー | 速さと距離がともに変わる |
近似は正確さを捨てる操作ではなく、支配的な量だけを残す操作である。問題文が高度や半径を明示しているときは、r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] を変数として扱う必要があるかを確認する。
軌道の極限で式を読む
万有引力の位置エネルギーは、無限遠で 0 と置く約束を使う。
U(r)
=-\frac{GMm}{r}
r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]\to\infty で U\to 0\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}]、r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] が小さくなるほど U\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] は負に大きくなる。全エネルギー E\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] が負なら束縛軌道、0 なら放物線軌道、正なら双曲線軌道と読む。
万有引力では、距離 r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] を大きくしたときに力や位置エネルギーがどう変わるかを見ると、式の意味が分かる。力 F=GMm/r^2\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] は、r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] が 2 倍になると 1/4 になる。遠く離れるほど引力が急に弱くなる。
位置エネルギー U=-GMm/r\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] は、r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] を無限大にすると 0\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] に近づく。負の値をもつのは、無限遠へ運び出すために外部から仕事を加える必要があることを表す。
円軌道の速さと半径
中心天体の質量 M\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] が一定なら、円軌道の速さ v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] は
v=\sqrt{\frac{GM}{r}}
で与えられる。半径 r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] が大きいほど、円軌道を保つために必要な速さは小さい。低軌道の人工衛星ほど速く動く、という事実はこの式から読める。
主要文字式の単位確認
万有引力では、質量 M\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、中心間距離 r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、万有引力定数 G\ [\mathrm{N\,m^2/kg^2};\ \mathsf{M^{-1}L^3T^{-2}}] を使う。GMm/r^2\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] は力の単位になる。
位置エネルギー U\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] は GMm/r\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] の大きさをもつ。円軌道速度 v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] では、GM/r\ [\mathrm{m^2/s^2};\ \mathsf{L^2T^{-2}}] の平方根が [\mathrm{m/s}] になる。周期 T\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] を扱うときも、最後に時間の単位になっているかを確認する。
数式内での単位明示
万有引力は
F = G \times \frac{M \times m}{r^2}
である。円軌道速度と位置エネルギーも、式の中で単位を読む。
v = \sqrt{\frac{GM}{r}}, \qquad U = -\frac{GMm}{r}
重力を mg で扱うか GMm/r^2 で扱うか
地表付近では、地球の半径に比べて高さの変化が小さいため、重力を mg\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] と置いてよい。これは本来の万有引力
F=G\frac{Mm}{r^2}
で r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] をほぼ一定と見た近似である。このとき
g=G\frac{M}{r^2}
と読めるので、mg\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] と GMm/r^2\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] は別の力ではなく、同じ重力を近似の粗さを変えて書いたものである。
地表付近の落下では、重力を mg\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] と書くことが多い。ここで、m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] は物体の質量、g\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] は地表付近でほぼ一定とみなした重力加速度である。
一方、人工衛星や惑星運動では、中心からの距離 r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] が変わるため、万有引力を GMm/r^2\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] として扱う。ここで、G\ [\mathrm{N\,m^2/kg^2};\ \mathsf{M^{-1}L^3T^{-2}}]、M\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] である。
切り替えの目安は、高さや軌道半径が地球半径に比べて無視できるかである。問題文に地球半径、高度、中心からの距離が与えられているなら、r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] を使う可能性を考える。