角運動量の基本
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導入
この講義の核心は、角運動量は基準点を固定して見た回転の運動量であり、外力のモーメントが 0 なら保存されるという点にある。直線運動で運動量保存を使うのと同様に、回転では「どの点まわりで外力のモーメントが消えるか」を見抜くことが要点になる。
このページで解けるようになること
- \vec{L}=\vec{r}\times\vec{p} と \dfrac{d\vec{L}}{dt}=\vec{\tau} を使う
- 固定軸では L=I\omega と簡約できることを理解する
- 外力モーメントが 0 になる基準点を選ぶ
- フィギュアスケーター、惑星運動、回転台を同じ保存則で説明する
方針
まず基準点を固定し、\vec{L}=\vec{r}\times\vec{p} を時間微分して \dfrac{d\vec{L}}{dt}=\vec{\tau} を導く。そのうえで固定軸まわりでは L=I\omega に簡約できることを確認し、保存則の応用へ進む。
適用条件
- 基準点は最初に決めて途中で変えない
- \dfrac{d\vec{L}}{dt}=\vec{\tau} は慣性系で固定した基準点、または重心を基準に取る場合に使う
- L=I\omega は固定軸、または対称軸まわりに限る
用語と定義
角運動量
角運動量とは、位置ベクトル \vec{r} と運動量 \vec{p} の外積である:
\vec{L} = \vec{r} \times \vec{p}
「角」という命名:英語 angular(角度に関する)の訳。回転角・角速度・角加速度と同じ「角」の系列であり、線形量(直線)ではなく回転量であることを示す。定義が実現する性質:中心にまっすぐ向かう運動(\vec{r} \parallel \vec{p})は L = 0。接線方向(\vec{r} \perp \vec{p})の成分だけが角運動量に寄与する。
力のモーメント
力のモーメント(トルクとも)とは
\vec{\tau} = \vec{r} \times \vec{F}
大きさは \tau = rF\sin\theta(\theta は \vec{r} と \vec{F} のなす角)。
運動量と角運動量の対応
| 直線運動 | 記号 | 回転運動 | 記号 |
| 運動量 | \vec{p} = m\vec{v} | 角運動量 | \vec{L} = \vec{r} \times \vec{p} |
| 力 | \vec{F} | 力のモーメント | \vec{\tau} = \vec{r} \times \vec{F} |
| 運動の方程式 | \frac{d\vec{p}}{dt} = \vec{F} | 回転の方程式 | \frac{d\vec{L}}{dt} = \vec{\tau} |
| 保存条件 | \vec{F} = 0 | 保存条件 | \vec{\tau} = 0 |
| 固定軸での表示 | p = mv | 固定軸での表示 | L = I\omega |
見方の整理
\vec{L} = \vec{r} \times \vec{p} を時間微分し、\vec{v} \times \vec{p} = 0(平行ベクトルの外積)を利用して d\vec{L}/dt = \vec{\tau} を導出する。外積のライプニッツ則が鍵である。
直感的な説明
回転では、中心から遠いところで横向きに力を加えるほど回転が変化しやすい。この「回転させる勢い」が角運動量であり、「回転を変える効果」が力のモーメントである。フィギュアスケーターが腕を縮めると速く回転する:腕を縮めると I が小さくなり、L = I\omega が保存されるため \omega が増大する。外からの力のモーメントがないので \vec{L} は一定に保たれる。
厳密な説明
1. 定義と幾何学的意味
\vec{L} = \vec{r} \times \vec{p}, \quad |\vec{L}| = rp\sin\theta
\vec{L} の向きは右ねじの法則(\vec{r} から \vec{p} へ回転する向きに進む方向)。\vec{r} \parallel \vec{p}(中心に向かう運動)なら L = 0。\vec{r} \perp \vec{p}(接線方向の運動)なら L = rp(最大)。
2. d\vec{L}/dt = \vec{\tau} の導出
外積のライプニッツ則を適用する:
\frac{d\vec{L}}{dt} = \frac{d}{dt}(\vec{r} \times \vec{p}) = \frac{d\vec{r}}{dt} \times \vec{p} + \vec{r} \times \frac{d\vec{p}}{dt}
第 1 項:\frac{d\vec{r}}{dt} = \vec{v}、\vec{p} = m\vec{v} より \vec{v} \times \vec{p} = m(\vec{v} \times \vec{v}) = 0(同じ向きの外積は 0)。第 2 項:Newton の第 2 法則より \frac{d\vec{p}}{dt} = \vec{F}、したがって \vec{r} \times \frac{d\vec{p}}{dt} = \vec{r} \times \vec{F} = \vec{\tau}。
\boxed{\frac{d\vec{L}}{dt} = \vec{\tau}}
3. 固定軸まわりの円運動
\vec{r} \perp \vec{p} の場合(円運動)は L = rp = rmv = mr^2\omega = I\omega(I = mr^2 は質点の慣性モーメント)。微分すると \frac{dL}{dt} = I\frac{d\omega}{dt} = I\alpha = \tau、回転の運動方程式 \tau = I\alpha が得られる。
4. 角運動量保存則
\vec{\tau} = 0 \Rightarrow \frac{d\vec{L}}{dt} = 0 \Rightarrow \vec{L} = \text{const}
保存の具体例
例 1:フィギュアスケーター。L = I_1\omega_1 = I_2\omega_2 である。腕を縮める(I_1 > I_2)と、\omega_2 = \frac{I_1}{I_2}\omega_1 > \omega_1 となる。
例 2:惑星の面積速度。太陽--惑星系では万有引力が中心力であり、\vec{r} \parallel \vec{F} より \vec{\tau} = 0 である。したがって \vec{L} が保存され、単位時間当たりに掃く面積、すなわち面積速度が一定になる。
\frac{dA}{dt}=\frac{L}{2m}=\text{const}
例 3:衝突とモーメント。外力のモーメントが 0 のとき、内力(衝突力など)がいかに複雑でも系全体の角運動量は変化しない。
5. 多質点系への拡張
系全体の角運動量 \vec{L} = \sum_i \vec{L}_i。内力は対になって打ち消しあい(Newton の第 3 法則)、結果として
\frac{d\vec{L}}{dt} = \vec{\tau}_{\mathrm{ext}}
ここで \vec{\tau}_{\mathrm{ext}} は外力によるモーメントの合計である。
基準点の選び方
角運動量と力のモーメントは、どの点まわりで測るかを決めてから使う。実戦では次の選び方が有効である。
- 支点や固定点がある → その点を基準点にすると支点反力のモーメントが 0 になる
- 中心力がある → 力の中心を基準点にすると \vec{r}\parallel\vec{F} となり、モーメントが 0 になる
- 多粒子系を全体で見る → 外力のモーメントだけを確認し、内力の詳細を追いすぎない
途中で基準点を変えると、\vec{L} も \vec{\tau} も別の量になる。保存しているかどうかは、同じ基準点まわりで比較する。
追加例: 半径が変わる円運動
中心から糸で引かれた質点が水平面で回転しているとする。糸の張力は常に中心向きであり、中心まわりのモーメントは 0 である。したがって
L=mrv_\theta=mr^2\omega
は保存する。半径 r を小さくすると、mr^2\omega を一定に保つために \omega は大きくなる。これはフィギュアスケーターが腕を縮めると速く回ることと同じ構造である。
注意すべきなのは、角運動量は保存しても運動エネルギーは一般に保存しないことである。糸を引く人が仕事をするため、回転は速くなりうる。
見分け方
- 回転・支点・中心・モーメントが見えたら → 角運動量を使用する
- 外からの力のモーメントが 0 → 角運動量保存則が使用できる
- 中心力(万有引力・クーロン力)→ \vec{\tau} = 0 なので角運動量保存が自動的に成立する
- L = I\omega が使えるのは固定軸まわりの回転(r が一定)のとき
どこまで成り立つか
d\vec{L}/dt = \vec{\tau} は、基準点を固定した慣性系で測ったときに成立する(例外:重心を基準点にした場合も成立する)。途中で基準点を変えると式が成立しなくなる。一般の剛体では \vec{L} = I\omega ではなく \vec{L} = \mathbf{I}\vec{\omega}(\mathbf{I} は慣性テンソル)になる。固定軸のとき、または対称軸まわりのときに限り L = I\omega のスカラー形が使える。
よくある誤り
- 基準点を決めずに \vec{L} や \vec{\tau} を書く
- L=I\omega を一般のベクトル式だと思う
- 右ねじの向きを無視して符号だけで処理する
- 外力モーメントが 0 でないのに保存則を使う
最終形
\boxed{\vec{L} = \vec{r} \times \vec{p}}
\boxed{\frac{d\vec{L}}{dt} = \vec{\tau}}
\boxed{\vec{\tau} = 0 \Rightarrow \vec{L} = \text{const}}
\boxed{L = I\omega}
この形は固定軸まわり、または対称軸まわりで使う。
一言でいうと
角運動量は回転の「勢い」であり、力のモーメントが作用しない限り保存される—フィギュアスケーターの加速も惑星の軌道もこの一文から導ける。
中心力と角運動量保存
中心力では、力がつねに基準点へ向くため、位置ベクトル \vec{r}\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] と力 \vec{F}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] が平行になる。そのため
\tau
=rF\sin 0\ [1]
=0
となり、角運動量が保存する。万有引力やクーロン力で面積速度が一定になる理由は、力の大きさではなく、モーメントが 0 になる向きにある。
力がいつもある点へ向くとき、その点まわりの力のモーメントは 0 である。位置ベクトル \vec{r} と力 \vec{F} が平行だから、
\vec{\tau} = \vec{r}\times\vec{F} = \vec{0}
となる。このような力を中心力と呼ぶ。万有引力やクーロン力は代表例であり、中心まわりの角運動量が保存する。
角運動量が保存することは、速さが一定であることを意味しない。半径が小さくなれば、接線方向の速さは大きくなりうる。保存しているのは mrv_\theta の組み合わせであり、運動エネルギーとは別の量である。
角運動量と面積速度
中心力の問題では、半径ベクトルが単位時間に掃く面積が一定になる。これは Kepler の第 2 法則の中身であり、角運動量保存の幾何学的な表現である。
楕円軌道で近日点の速さが大きく、遠日点の速さが小さいのは、同じ時間に掃く面積を等しくするためである。この見方を持つと、惑星運動と角運動量が別々の話ではなくなる。
文字式の単位
角運動量 \vec{L}\ [\mathrm{kg\,m^2/s};\ \mathsf{ML^2T^{-1}}] は、
\vec{L} = \vec{r} \times \vec{p}
で定義される。剛体では
L = I\omega
と書け、同じ単位になる。
力のモーメント \vec{\tau}\ [\mathrm{N\,m};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] は、角運動量の時間変化である。d\vec{L}/dt\ [\mathrm{kg\,m^2/s^2};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] は [\mathrm{N\,m}] と同じ単位なので、d\vec{L}/dt=\vec{\tau} の左右は一致する。
角運動量の向き
角運動量は大きさだけでなく向きをもつ量である。平面内の運動では、紙面の表向きか裏向きかで符号を表すことが多い。反時計回りを正にすれば、時計回りの角運動量は負になる。
この符号は、力のモーメントの符号と対応する。正のモーメントが働けば、角運動量は正の向きに増える。回転の向きが途中で変わる問題では、大きさだけでなく符号を残す。
外力のモーメントが 0 になる理由
角運動量保存を使うには、選んだ基準点まわりの外力のモーメントが 0\ [\mathrm{N\,m};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] である必要がある。これは外力が 0\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] であることとは違う。外力が存在しても、その作用線が基準点を通れば、モーメントは 0\ [\mathrm{N\,m};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] である。
中心力で角運動量が保存するのはこのためである。力が中心へ向くので、中心まわりの腕の長さが 0\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] になる。保存するかどうかは、力の大きさではなく、基準点まわりに回す作用をもつかで決まる。
主要文字式の単位確認
位置 r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] と運動量 p\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] から、角運動量 L\ [\mathrm{kg\,m^2/s};\ \mathsf{ML^2T^{-1}}] が作られる。剛体では、慣性モーメント I\ [\mathrm{kg\,m^2};\ \mathsf{ML^2}] と角速度 \omega\ [\mathrm{rad/s};\ \mathsf{T^{-1}}] から I\omega\ [\mathrm{kg\,m^2/s};\ \mathsf{ML^2T^{-1}}] になる。
力のモーメント \tau\ [\mathrm{N\,m};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] は、角運動量の時間変化である。L/t\ [\mathrm{kg\,m^2/s^2};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] は [\mathrm{N\,m}] と同じ単位になる。外力のモーメントが 0\ [\mathrm{N\,m};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] なら、L\ [\mathrm{kg\,m^2/s};\ \mathsf{ML^2T^{-1}}] は変わらない。
数式内での単位明示
角運動量は
L = r \times p
である。力のモーメントも数式内で単位をそろえる。
\tau = \frac{dL}{dt}
角運動量保存を使う典型場面
質点の角運動量は、位置と運動量の外積である。大きさだけを見るなら
L
=rp\sin\theta\ [1]
である。力のモーメントも同じように
\tau
=rF\sin\theta\ [1]
と読める。外力のモーメントが 0 なら、\Delta L\ [\mathrm{kg\,m^2/s};\ \mathsf{ML^2T^{-1}}]=0\ [\mathrm{kg\,m^2/s};\ \mathsf{ML^2T^{-1}}] であり、角運動量が保存する。
角運動量保存は、中心へ向く力、支点を通る力、または作用線が基準点を通る力が主な場面で使える。これらは外力が 0\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] でなくても、基準点まわりのモーメントが 0\ [\mathrm{N\,m};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] になる。
典型例は、惑星の軌道運動、回転台の上で腕を縮める運動、支点まわりに衝突する棒である。いずれも、保存するのは L\ [\mathrm{kg\,m^2/s};\ \mathsf{ML^2T^{-1}}] であり、速さ v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] や運動エネルギー K\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] が必ず保存するわけではない。
使う前に、基準点、外力、腕の長さを確認する。この 3 点が曖昧なまま式を立てると、保存していない量を保存させてしまう。