束縛条件
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導入
この講義の核心は、束縛条件は力の法則ではなく、座標どうしの関係式であり、運動方程式を連結する補助方程式になるという点にある。伸びない糸や滑車、すべりなし転がりでは、各物体の加速度を独立に置けない。まず幾何学的に「長さが一定」「接触点がすべらない」といった関係式を書き、それを時間で微分して速度条件・加速度条件を得る。
このページの位置づけ
このページは高校本線にも現れるが、自由度まで含めると大学初年級への橋渡しになる。本線では定滑車、動滑車、すべりなし転がりを確実に扱えればよい。
このページで解けるようになること
- 伸びない糸から座標関係式を立てる
- 幾何学条件を微分して速度条件・加速度条件へ移る
- すべりなし転がりで v_{\mathrm{cm}}=R\omega、a_{\mathrm{cm}}=R\alpha を使う
- 力学の式と束縛条件を連立する
方針
このページの解法は必ず
- 自由度を数える
- 幾何学的な関係式を書く
- 時間で微分して速度条件を得る
- 必要ならさらに微分して加速度条件を得る
- 運動方程式と連立する
の順で進める。
適用条件
- 糸は軽く伸びない、滑車は理想的とするのが本線
- すべりなし転がりでは静止摩擦が成立し、接触点の相対速度が 0 である
- 拘束が途中で外れる場合は条件を更新する
用語と定義
束縛条件
束縛条件とは、系の座標(または速度・加速度)の間に課される幾何学的な等式(または不等式)である。「束縛」という命名:constraint(制約・束縛)の訳。物理的な接触・糸・固定軸が運動の自由を縛ることから命名。
自由度との関係
n 個の質点が 3 次元空間にある場合、自由度は本来 3n。k 本の独立な束縛が課されると
N_{\mathrm{dof}} = 3n - k
ここで N_{\mathrm{dof}} は自由度である。束縛の数だけ未知数が減り、方程式の本数が決まる。
束縛の種類
1. 伸びない糸(Inextensible string)
糸が伸びない条件は、糸の全長が一定であることから始まる。たとえば糸の可動部分の長さを x_1、x_2 とすれば
x_1+x_2+\ell_0=L
である。ここで \ell_0 は滑車に触れている部分など、長さが変わらない部分である。時間で微分して
v_1+v_2=0,\qquad a_1+a_2=0
を得る。向きを各物体の進む向きに取り直せば、大きさとして
a_1 = a_2 = a
となる。つまり、加速度の大きさが等しいのであって、符号は座標の取り方で決まる。適用条件:軽い糸(質量無視)かつ伸びない。このとき張力 T は糸全体で等しい(定滑車がある場合も同様)。
2. 滑車(Pulley)
定滑車(軸固定):方向転換のみ。糸の速さは変わらず
a_1 = a_2
ただし速度の向きは逆(一方が上に a で加速すれば他方は下に a)。動滑車(滑車自体が動く):代表的な配置では、荷物を支える 2 本の糸の長さが同時に変わる。荷物が距離 x だけ動くと、引く端は 2x だけ動く。したがって
a_{\mathrm{load}}=\frac{1}{2}a_{\mathrm{end}}
となる。ここで a_{\mathrm{load}} は荷物の加速度、a_{\mathrm{end}} は引く端の加速度である。動滑車では力は小さくなるが、引く端の移動距離は大きくなる(理想的には仕事は等しい)。複合滑車では、丸暗記した倍率よりも、荷物を支える糸の本数と糸の長さ一定の式から比を出すほうが安全である。
3. すべりなし転がり(Rolling without slipping)
円断面半径 r の物体が平面上ですべりなしで転がるとき、接触点の速度が 0 であるという条件を用いると
v = r\omega, \quad a = r\alpha
ここで v は重心の並進速度、\omega は角速度。導出:接触点の速度は重心の速度 v と回転による相対速度 -r\omega(後方)の和。すべりなしより
v - r\omega = 0 \implies v = r\omega
使えない場面:摩擦が不十分ですべる(v \neq r\omega)とき。このとき摩擦力は動摩擦力 \mu_k N で与えられ、束縛条件は適用できない。
4. 面への拘束(Surface constraint)
物体が面から離れない条件:面に垂直な方向の速度が 0(面の形状によって変化する)。平面上の物体:法線方向の加速度 = 0(静止/等速)または = 向心加速度(曲面)。離れる条件の判定:垂直抗力 N = 0 になったとき面から離れる。N < 0 は物理的に不可能(引っ張れないため)。
5. 固定軸(Fixed axis)
軸が固定されているとき、軸に垂直な方向の移動が 0。結果として運動は回転のみに限定される:
\vec{v} = \vec{\omega} \times \vec{r}
見方の整理
- 各物体の自由体図を描く
- 各物体に別々に運動方程式を立式する(未知の加速度・張力を別々の変数で置く)
- 束縛条件を補助方程式として加える
- 連立して解く
長さ一定の式の作り方
滑車や糸の問題では、いきなり a_1=a_2 と置くのではなく、まず変わる長さだけを足す。
- 固定された部分の長さは \ell_0 などの定数にまとめる
- 動く部分の長さを x_1,x_2,\ldots と置く
- 全長を L として x_1+x_2+\cdots+\ell_0=L を書く
- 時間で 1 回微分して速度条件、2 回微分して加速度条件を得る
この手順を踏むと、動滑車や複合滑車でも加速度の比を暗記せずに決められる。
具体例:定滑車でつながれた2物体
質量 M の物体 A が水平面上、質量 m の物体 B がぶら下がる。定滑車で糸がつながれている。摩擦なし。物体 A の運動方程式(水平):
Ma_A = T
物体 B の運動方程式(鉛直):
ma_B = mg - T
束縛条件(定滑車、伸びない糸):
a_A = a_B = a
連立して T を消去すると:
a = \frac{mg}{M + m}, \quad T = \frac{Mmg}{M + m}
具体例:転がる円板
質量 M、半径 R、I = \frac{1}{2}MR^2 の円板が水平面上ですべりなしで転がるとき、中心に水平な外力 F が作用する場合を考える。並進の運動方程式:Ma = F - f(f:静止摩擦力)回転の運動方程式:I\alpha = fR
束縛条件:a = R\alpha
連立すると f = \frac{F}{3}(左向き)、a = \frac{2F}{3M}。
発展:自由度の見方
n 個の質点に k 本の独立な束縛があるとき、
N_{\mathrm{dof}}=3n-k
である。ここで N_{\mathrm{dof}} は自由度である。高校本線では、この抽象化を深入りするより、「束縛条件が独立変数を減らす」と理解するとよい。
見分け方
- 複数物体が接続されている → 束縛条件で加速度を関連付ける
- 転がる物体が出る → v = r\omega の条件を追加する
- 動滑車が出る → 幾何学的に糸の長さを追跡して加速度の比を求める
- 物体が面から離れるかどうか → N = 0 の時点を計算する
追加例: 面から離れる条件
物体が曲面に沿って動くとき、面に押しつけられている間は垂直抗力 N が存在する。面は物体を押すことはできるが、引くことはできない。したがって
N=0
が接触を失う境界条件である。N<0 という計算結果が出たなら、実際にはその前に面から離れており、束縛条件を更新しなければならない。
円軌道や曲面の問題では、法線方向の運動方程式を立てて N を求め、N=0 を代入して離れる位置や速さを決める。
どこまで成り立つか
束縛条件は理想化(糸は伸びない・質量なし、面は変形しない)を前提とする。糸の弾性・滑車の質量・面の変形を考慮する場合は補正が必要になる。非全拘束(不等式で与えられる束縛)では、どの段階で束縛が有効かを別途判定する(例:面から離れる瞬間)。
よくある誤り
- 幾何学条件を書かず、いきなり加速度を等しいと置く
- 速度条件は使うが、加速度条件へ微分しない
- すべりなしを「接触点が静止」とだけ丸暗記して意味を確認しない
- 糸の長さ一定なのに、どの部分の和が一定かを書かない
最終形
\boxed{a_1 = a_2}
伸びない糸と定滑車では、向きを各自に定めたうえで加速度の大きさを等しく置く。
\boxed{v = r\omega,\qquad a = r\alpha}
これはすべりなし転がりの条件である。
\boxed{N_{\mathrm{dof}}=3n-k}
k 本の独立な束縛条件は、自由度を k だけ減らす。
自由度を数える例
平面を動く 2 質点は、本来 x_1,y_1,x_2,y_2 の 4 自由度をもつ。2 質点の距離が長さ \ell の棒で固定されているなら
(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2=\ell^2
という 1 本の束縛条件がある。したがって自由度は
4-1=3
である。この 3 自由度は、たとえば重心の 2 座標と、棒の向きを表す 1 角度として解釈できる。
独立でない束縛に注意
束縛条件を数えるときは、式の本数ではなく独立な情報の数を数える。たとえば
x_1+x_2=\ell
を時間で微分すると
v_1+v_2=0
さらに微分して
a_1+a_2=0
が得られるが、これは同じ長さ一定の条件を位置、速度、加速度で見ただけである。未知数を減らす独立条件としては 1 本と数える。
束縛条件の本数を数えるときは、式の数ではなく、独立な条件の数を数える。同じ内容を別の形で書いた式を 2 本として数えてはいけない。
たとえば x_1-x_2=\ell と x_2-x_1=-\ell は同じ条件であり、独立な束縛は 1 本だけである。自由度を数えるときは、片方だけを使う。
一言でいうと
束縛条件は各物体の運動方程式を独立に立てたあと、未知の加速度を結ぶ補助方程式である—幾何から決まり、力の大きさには依存しない。
束縛条件は変位から作る
糸や面による束縛では、いきなり加速度の関係を書くより、まず長さや接触の条件を変位で書くほうが安全である。たとえば糸の全長が一定なら、動く部分の長さの和が一定になる。
変位の式を時間で 1 回微分すれば速度の関係、2 回微分すれば加速度の関係になる。符号は微分してから考えるのではなく、変位を定義する時点で決めておく。同じ向きを正にするか、糸が伸びる向きを正にするかを統一する。
拘束力は仕事をしないことが多い
理想的な糸の張力、滑らかな面の垂直抗力、固定支点の反力は、運動を制限するが、系の力学的エネルギーを直接増減させないことが多い。これは力が変位に垂直であったり、作用点が動かなかったりするためである。
ただし、動く支点や外部から引かれる糸では、拘束力が系へ仕事をすることがある。束縛条件を使うときは、力を消せるのか、仕事として残すべきなのかを系の取り方で判断する。
文字式の単位
束縛条件では、まず変位 x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、長さ L\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、角度 \theta\ [\mathrm{rad};\ \mathsf{1}] のように、幾何で使う量の単位を明示する。糸の長さ一定の式では、足し合わせる各項がすべて [\mathrm{m}] でなければならない。
変位の式を微分すると、速度 v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、加速度 a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] の関係になる。すべりなし転がりでは
v = R\omega
であり、rad を無次元として扱う。
動滑車を符号つき座標で扱う
動滑車では、荷物が 1\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] 上がると、荷物を支える 2 本の糸がそれぞれ 1\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] ずつ短くなる。したがって、引く端は 2\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] 動く。変位を x_{\mathrm{load}}\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、端の変位を x_{\mathrm{end}}\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] とすれば、向きの取り方に注意して
x_{\mathrm{end}} = 2x_{\mathrm{load}}
のような関係を得る。時間で 2 回微分すれば、a_{\mathrm{end}}\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]=2\ [\mathrm{1};\ \mathsf{1}]a_{\mathrm{load}}\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] である。したがって荷物の加速度は、端の加速度の半分になる。
符号が混乱するときは、上向きを正、下向きを正のように物体ごとに変えるのではなく、糸の長さが増える向きを正として統一する。長さ一定の式を先に書けば、速度と加速度の符号は自動的に決まる。
係数が 2 になるのは、力の大きさを決めているからではなく、同じ糸の長さを共有する区間が 2 本あるからである。張力の式を立てる前に、まず幾何として何が 2 倍になるのかを確定する。
仮想仕事として束縛を見る
理想的な束縛では、許された微小変位に対して拘束力が仕事をしないことが多い。滑らかな面の垂直抗力は面に垂直で、変位は面に沿うため、内積が 0 になる。固定支点の反力も、作用点が動かなければ仕事をしない。
この見方を使うと、張力や反力を明示せずに、重力やばね力の仕事だけから平衡条件を読めることがある。ただし、支点が動く場合や外部が糸を引く場合には、拘束力が仕事をすることがあるので、系の取り方を確認する。
束縛条件の誤答パターン
束縛条件で多い誤りは、長さの関係を書かずに、いきなり速度や加速度の比を暗記で使うことである。動滑車や複合滑車では、糸のどの部分が伸び縮みするかを数えなければならない。
安全な手順は、まず長さ L\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] を一定として式を書くことである。その式を時間で微分して速度 [\mathrm{m/s}] の関係を得る。さらに微分して加速度 [\mathrm{m/s^2}] の関係を得る。この順序なら、比だけでなく符号も同時に決まる。
束縛が切れる条件
糸は引くことはできるが、押すことはできない。したがって張力 T\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] を求めて負になったなら、その糸は張った状態を保てない。以後の運動は、糸の束縛を外して考える。
面との接触も同じである。垂直抗力 N\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] が 0\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] になる瞬間が、面から離れる境界である。N\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] が負になる解は、面が物体を引いていることを意味してしまうので、物理的には採用しない。
主要文字式の単位確認
束縛条件では、長さ L\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、変位 x\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、角度 \theta\ [\mathrm{rad};\ \mathsf{1}] を先に定義する。糸の長さ一定の式では、各項がすべて [\mathrm{m}] でなければならない。
速度の関係では v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、加速度の関係では a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] が現れる。すべりなし転がりでは、v=R\omega\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] において R\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、\omega\ [\mathrm{rad/s};\ \mathsf{T^{-1}}]、v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] である。張力 T\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] や垂直抗力 N\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] は、束縛を保つ力として読む。
数式内での単位明示
束縛条件は、まず長さの式として
L = x_1 + x_2 + \cdots
のように書く。微分したあとは、速度 v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、加速度 a\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}] の関係として読む。
束縛問題の解法テンプレート
束縛条件は、力の式より先に幾何の式として書く。糸なら全長 L\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}]、面なら接触を保つ位置関係、すべりなしなら接触点の相対速度 0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] が出発点である。
長さの式を微分すれば速度の関係、さらに微分すれば加速度の関係が出る。この順序を守ると、係数だけでなく符号も自然に決まる。
張力 T\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] や垂直抗力 N\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] が負になる結果は、束縛が保たれないことを示す。その時点からは、別の運動として扱う。
理想的な束縛と非理想な束縛
理想的な束縛では、拘束力が許された変位に仕事をしない。仮想変位を \delta r\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] とすると、
\delta W
=\vec{N}\cdot\delta\vec{r}
=0
と読める。面からの垂直抗力は面に沿った変位と直交するため仕事をしないが、摩擦のように接線方向へ働く力は一般に仕事をする。この違いが、束縛条件だけで解ける問題と、エネルギー損失まで考える問題を分ける。
理想的な束縛では、糸は伸びず、面はなめらかで、滑車は軽く、摩擦も無視できる。この場合、束縛は運動の自由度を減らすだけで、余分なエネルギー損失を入れない。
現実には、糸が伸びる、滑車に質量がある、軸に摩擦がある、面が粗い、という非理想な要素がある。このときは、束縛条件だけでは足りず、ばねのような伸びの式、回転の式、摩擦の仕事などを追加する。
問題文が理想条件を明示しているかを確認する。明示がなければ、高校・基礎力学の標準問題では理想化を仮定することが多いが、発展問題ではその仮定を外すことが狙いになる。