衝突と運動量保存
導入
このページの核心は、衝突の途中を細かく追跡せず、衝突前と衝突後の運動量を系全体で比較することである。接触時間は短く、接触力は大きく変化するため、力そのものを時間ごとに追跡するのは不利である。一方、系全体で見れば衝突中の力は内力であり、対になって打ち消し合う。したがって、外力の力積が無視できるなら、衝突前と衝突後をつなぐ主役は運動量保存則である。未知数が 2 つあるときは、もう 1 本の条件として反発係数またはエネルギー保存を追加する。
このページで解けるようになること
- 1 次元衝突での解法テンプレート
- 運動量保存則と反発係数の使い分け
- 弾性衝突、非弾性衝突、完全非弾性衝突の違い
- 反発係数の符号を相対速度で安定して扱う方法
何を解くページか
このページの本線は1 次元衝突である。したがって、まずは一直線上の衝突を確実に扱うことを優先する。2 次元衝突は発展事項として末尾で触れる。
方針
解法は常に次の 5 段階で進める。
- 系を決める
- 正方向を決める
- 運動量保存則を立てる
- 追加条件として e またはエネルギー保存を使う
- 解いた後に符号から運動方向を解釈する
この順序を守ると、反発係数の符号ミスと、運動量保存の書き忘れを大きく減らせる。
適用条件
- 運動量保存則は、衝突中に外力の力積が無視できるときに使う
- 反発係数 e は接触法線方向の相対速度に対して定義する
- エネルギー保存は弾性衝突でのみ使う
用語と定義
運動量保存則
2 物体の 1 次元衝突なら
m_1u_1+m_2u_2=m_1v_1+m_2v_2
である。ここで u_1,u_2 は衝突前、v_1,v_2 は衝突後の速度である。
反発係数
1 次元では、反発係数は「離れる相対速度の大きさ」を「近づく相対速度の大きさ」で割った量である。
e=\frac{|v_2-v_1|}{|u_1-u_2|}
正方向を固定して書けば
v_2-v_1=e(u_1-u_2)
となる。
ここで重要なのは、相対速度で書くことにより、接近と離反の向きを同じ基準で扱える点である。
弾性・非弾性・完全非弾性
| 種類 | 反発係数 | 運動量 | 力学的エネルギー |
| 弾性衝突 | e=1 | 保存 | 保存 |
| 非弾性衝突 | 0<e<1 | 保存 | 減少 |
| 完全非弾性衝突 | e=0 | 保存 | 減少、合体する |
相対速度で整理する理由
絶対速度は座標系の取り方で変わるが、衝突の「跳ね返り具合」は、接触している 2 物体の相対的な近づき方・離れ方に依存する。したがって、反発係数は相対速度で書くのが自然である。
導出または基本式
1. 運動量保存則
外力の力積が無視できるなら
m_1u_1+m_2u_2=m_1v_1+m_2v_2 \tag{1}
である。
2. 反発係数
1 次元なら
v_2-v_1=e(u_1-u_2) \tag{2}
である。
3. 一般式
(1)(2) を v_1,v_2 について解くと
v_1=\frac{(m_1-em_2)u_1+(1+e)m_2u_2}{m_1+m_2}
v_2=\frac{(m_2-em_1)u_2+(1+e)m_1u_1}{m_1+m_2}
を得る。
4. 弾性衝突でエネルギー保存を使う場合
e=1 のときは
\frac{1}{2} m_1u_1^2+\frac{1}{2} m_2u_2^2 = \frac{1}{2} m_1v_1^2+\frac{1}{2} m_2v_2^2
を使ってもよい。ただし、実戦では e=1 を反発係数の式へ代入したほうが短い場合が多い。
具体例 1: 同質量の弾性衝突
質量 m の 2 物体が一直線上で衝突し、片方だけが速度 u で進んでいるとする。
mu+0=mv_1+mv_2 \tag{1'}
v_2-v_1=u \tag{2'}
より
v_1=0,\qquad v_2=u
を得る。速度が交換される。
具体例 2: 完全非弾性衝突
e=0 なら衝突後は同じ速度で進むから
v_1=v_2\equiv v
である。したがって
m_1u_1+m_2u_2=(m_1+m_2)v
より
v=\frac{m_1u_1+m_2u_2}{m_1+m_2}
を得る。
比較例: 弾性衝突だからといって運動量保存を忘れない
弾性衝突ではエネルギーも保存されるが、だからといって運動量保存を省いてよいわけではない。未知数が 2 つある 1 次元 2 物体衝突では、運動量保存則がまず基本であり、そこへ e=1 またはエネルギー保存を追加する。
2 次元衝突への注意
発展として、2 次元では反発係数は接触法線方向にだけ用いる。接線方向まで同じ式で処理してはならない。したがって 2 次元では
- 法線方向では相対速度に対して e を用いる
- 接線方向では別条件を考える
という分離が必要になる。
保存させる量の選び方
衝突では、運動量、力学的エネルギー、相対速度の 3 つを同時に何でも保存させてよいわけではない。
| 量 | 使える条件 | 意味 |
| 運動量 | 外力の力積が無視できる | 系全体の並進運動が外からほぼ変えられない |
| 力学的エネルギー | 弾性衝突のとき | 変形や熱として失われない |
| 反発係数 | 衝突線に沿う前後の相対速度を比べるとき | 近づく速さに対して、離れる速さがどれだけ残るかを表す |
基本は、まず系を決めて運動量保存を使えるか確認し、つぎに衝突の種類に応じてエネルギー保存または反発係数を追加することである。
追加例: 完全非弾性衝突
質量 m_1 の物体が速度 u_1、質量 m_2 の物体が速度 u_2 で一直線上を動き、衝突後に一体となって速度 v で動くとする。外力の力積を無視できるなら
m_1u_1+m_2u_2=(m_1+m_2)v
より
\boxed{v=\frac{m_1u_1+m_2u_2}{m_1+m_2}}
である。この衝突では運動量は保存するが、力学的エネルギーは一般に保存しない。失われた運動エネルギーは、変形・熱・音などの内部エネルギーへ移る。
壁との衝突の見方
壁との衝突では、壁を含めた地球まで系に入れれば運動量は保存する。しかし壁の質量が非常に大きいため、壁の速度変化は無視されることが多い。そのため、物体だけを見ると運動量は保存していない。
滑らかな壁なら、壁に平行な速度成分は変わらず、壁に垂直な成分だけが反発係数に従って変わる。
v_{\parallel}'=v_{\parallel},\qquad v_{\perp}'=-e v_{\perp}
これは 2 次元衝突で法線方向と接線方向を分ける考え方の最も単純な例である。
2 次元衝突の成分の見方
平面で衝突する問題では、運動量保存をベクトルのまま使う。
\sum m\vec{u}=\sum m\vec{v}
これは x 成分と y 成分の 2 本の式に分けられる。
ここで x や y は単位ではなく方向の名前である。したがって成分の運動量は、p_x\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}]、p_y\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] のように、成分記号と単位を分けて読む。
\sum m u_x=\sum m v_x,\qquad \sum m u_y=\sum m v_y
滑らかな球どうしの衝突では、衝突力は中心どうしを結ぶ線、すなわち法線方向に働く。このとき接線方向の速度成分は変わらず、法線方向の成分だけに反発係数を使う。
どこまで成り立つか
- 運動量保存則は外力の力積が無視できるときに使う
- 反発係数 e は実験的な量であり、材質や衝突速度で変わりうる
- ここでの主線は 1 次元であり、2 次元では接触法線方向と接線方向を分ける必要がある
よくある誤り
- 反発係数の式を、速度差ではなく各速度の大きさだけで書く
- 弾性衝突なのに運動量保存を忘れる
- 完全非弾性衝突で衝突後の速度を 2 つのままにする
- 外力が無視できる理由を書かずに保存則だけ使う
まとめ
衝突の本線は、系全体の運動量保存則を立て、追加条件として反発係数またはエネルギー保存を加えることである。とくに 1 次元では、相対速度で反発係数を書くと符号処理が安定する。
反発係数を使う順序
反発係数を使う衝突では、最初に運動量保存を立て、次に相対速度の式を立てる。この 2 本の式で、1 次元の 2 物体衝突では衝突後の 2 つの速度を決められる。
反発係数は速さの比ではなく、接近の相対速度と分離の相対速度の比である。したがって向きと符号を含めて式にする。1 物体だけの速度を比べると、壁との衝突のような特別な場合を一般の衝突に誤用しやすい。
正の向きを右にとり、衝突前に 1 が 2 に近づく典型例では、
e = \frac{v_2'-v_1'}{v_1-v_2}
と書ける。分母は接近速度、分子は分離速度である。符号の取り方を変えたときは、分母と分子がどちらも正の量として読めるように式を作る。
文字式の単位
衝突では、各物体の運動量 m_1v_1\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}]、m_2v_2\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] を足し合わせる。運動量保存の式
m_1v_1+m_2v_2=m_1v_1'+m_2v_2'
では、m_1\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、m_2\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、v_1\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、v_2\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、v_1'\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、v_2'\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] であり、各項はすべて [\mathrm{kg\,m/s}] である。
反発係数 e は相対速度の比なので無次元である。たとえば (v_2'-v_1')/(v_1-v_2) では、分子も分母も [\mathrm{m/s}] であり、単位が打ち消し合う。
衝突を段階に分ける
衝突問題では、衝突前、衝突中、衝突後を分けて考える。衝突中は時間が短いため、外力の力積が無視できることが多い。この範囲で運動量保存を使う。
一方、衝突前に斜面を滑ったり、衝突後にばねを縮めたりする部分では、仕事とエネルギーを使うことが多い。衝突の瞬間と、その前後の移動を同じ式で処理しようとすると、保存する量を誤りやすい。
未知数の数で式を選ぶ
衝突では、未知の速度の数と独立な式の数を先に比べる。1 次元で衝突後の v_1'\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、v_2'\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] が未知なら、式は 2 本必要である。
m_1v_1+m_2v_2
=m_1v_1'+m_2v_2'
だけでは 1 本しかない。弾性衝突なら力学的エネルギー保存、反発係数が与えられるなら e\ [1] の式を追加して、未知数の数と式の数をそろえる。
1 次元の 2 物体衝突では、衝突後の速度 v_1'\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、v_2'\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] が未知であることが多い。運動量保存だけでは式が 1 本なので足りない。完全非弾性衝突なら v_1'=v_2'、反発係数が与えられるなら相対速度の式を追加する。
弾性衝突では運動エネルギーも保存するが、式が二次式になる。計算の見通しを優先するなら、運動量保存と相対速度の関係を使うほうが整理しやすい。
衝突で保存するもの・しないもの
衝突では、運動量と運動エネルギーを分けて考える。外力の力積が無視できる短時間なら、全運動量は保存する。しかし、運動エネルギーが保存するかどうかは衝突の種類で変わる。
| 衝突の種類 | 運動量 | 運動エネルギー |
| 弾性衝突 | 保存する | 保存する |
| 非弾性衝突 | 保存することが多い | 一部が失われる |
| 完全非弾性衝突 | 保存することが多い | 最大に失われる |
運動量は向きをもつので、成分ごとに保存を確認する。1 次元なら符号で向きを表す。2 次元なら x 方向と y 方向を別々に立てる。
反発係数の符号
反発係数 e は、衝突前後の相対速度の比なので無次元である。1 次元で向きを含めて書くと、
e\ [1]
=-\frac{v_2'-v_1'}{v_2-v_1}
となる。分子と分母はどちらも速度 [\mathrm{m/s}] なので、比は [1] になる。反発係数を力やエネルギーの係数として直接掛けるのではなく、まず相対速度の条件として使う。
反発係数 e は、接近する相対速度と離れる相対速度の比である。e は無次元であり、単位をもたない。速さの比ではなく、相対速度の比であることが重要である。
1 次元では、正の向きを決めてから速度を符号つきで入れる。衝突後に離れる条件を式に反映すると、反発係数の式の符号を丸暗記しなくてよい。
主要文字式の単位確認
衝突では、m_1\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、m_2\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、v_1\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、v_2\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、v_1'\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、v_2'\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] を符号つきで扱う。m_1v_1\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}]、m_2v_2\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] は運動量なので、同じ式で足し合わせられる。
反発係数 e は、相対速度の比なので無次元である。分子も分母も [\mathrm{m/s}] になり、単位が消える。運動エネルギーを使う場合は、各項が [\mathrm{J}] になっているかを確認する。
数式内での単位明示
1 次元の 2 物体衝突では、運動量保存を
m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v_1' + m_2v_2'
と書く。各項はすべて \mathrm{kg\,m/s} であり、同じ保存量として足し合わせられる。
衝突とエネルギーを接続する
衝突を含む複合問題では、衝突の瞬間と、その前後の運動を分ける。衝突前に坂を下る、ばねで押される、落下する、といった部分ではエネルギーを使いやすい。衝突中は運動量を使いやすい。
たとえば、衝突直前の速さ v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] をエネルギーから求め、その v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] を運動量保存の式に入れて衝突直後の速度を求める。衝突後にばねを縮めるなら、直後の運動エネルギー K\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] をばねの位置エネルギー \frac{1}{2}kx^2\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] に変換する。
このように、場面ごとに使う保存則を切り替える。全体を 1 本の力学的エネルギー保存で処理しようとすると、非弾性衝突で失われるエネルギーを見落とす。