運動量と力積
導入
このページの核心は、短時間の相互作用では、力の瞬間値よりも運動量の変化量を考えたほうが本質が明確になるという点にある。衝突の瞬間には力が急激に変化するため、各時刻の F を追跡するのは不利である。そこで、運動方程式を時間で積分し、力積と運動量の変化を直接結びつける。
このページで解けるようになること
- 運動量と力積のベクトル的意味
- \vec{I}=\Delta\vec{p} の導出
- F-t グラフの面積として力積を読む方法
- 1 物体で力積を考える場面と、系全体で運動量保存を考える場面の違い
何を解くページか
本線は
\vec{p}=m\vec{v},\qquad \vec{I}=\int \vec{F}dt
から
\vec{I}=\Delta\vec{p}
を得ることである。したがって、対象は「短時間の押し返し」「衝突前後」「打撃」「ボールの跳ね返り」のような問題である。
方針
このページでは、運動方程式
\vec{F}=\frac{d\vec{p}}{dt}
を時間で積分する。狙いは、瞬間的な力の細部を捨てて、「全体としてどれだけ押されたか」という累積効果だけを取り出すことである。
適用条件
- \vec{I}=\Delta\vec{p} は慣性系で用いる
- 系全体の運動量保存則は、外力の力積が 0 または無視できるときにのみ使う
- ベクトル量なので、向きを捨ててスカラーだけで処理してはならない
用語と定義
運動量
\vec{p}=m\vec{v}
運動量はベクトル量であり、向きをもつ。したがって成分ごとに扱える。
力積
\vec{I}=\int_{t_1}^{t_2}\vec{F}dt
一定力なら
\vec{I}=\vec{F}\Delta t
である。
平均の力
短時間相互作用では
\vec{I}=\vec{F}_{\mathrm{avg}}\Delta t
と書ける。ここで重要なのは、平均の力と最大の力は別物だという点である。衝突ではピーク力が非常に大きくても、接触時間が短ければ力積は有限に収まる。
導出または基本式
運動方程式
\vec{F}=\frac{d\vec{p}}{dt}
を t_1 から t_2 まで積分すると
\int_{t_1}^{t_2}\vec{F}dt=\int_{t_1}^{t_2}\frac{d\vec{p}}{dt}dt
よって
\boxed{\vec{I}=\Delta\vec{p}}
を得る。
ここで \vec{F} は、対象として取り出した物体にはたらく合力である。ある 1 つの接触力だけの力積を考えるときは、その力がどの運動量変化を生むのかを別に確認する。
単位確認
[\mathrm{N\,s}]
=\cdot =
であり、運動量の単位と一致する。
F-t グラフとの対応
力積は F-t グラフの面積である。したがって、瞬間的な力の波形が複雑でも、面積さえ読めれば運動量変化が分かる。この見方は
- ボールを打つ
- 壁に衝突して跳ね返る
- エアバッグで停止時間を延ばす
といった場面で特に有効である。
1物体で考えるか、系全体で考えるか
ここは使い分けが重要である。
1 物体で考える
ある 1 物体に対して、外からどれだけ押されたかを知りたいときは
\vec{I}=\Delta\vec{p}
を使う。
系全体で考える
複数物体の衝突前後をまとめて見たいときは、外力の力積が無視できるかを確認し、系全体の運動量保存則へ進む。したがって、
- 1 物体なら力積
- 系全体なら運動量保存
と整理すると分かりやすい。
一般には、系全体について
\Delta\vec{P}_{}=\vec{I}_{\mathrm{ext}}
である。ここで \vec{P}_{\mathrm{sys}} は系全体の運動量、\vec{I}_{\mathrm{ext}} は外力の力積である。したがって運動量保存は、\vec{I}_{\mathrm{ext}}=\vec{0} の特別な場合である。
外力の力積を無視できる判断
衝突や爆発で運動量保存を使うときは、外力が 0 であることよりも、短い時間で外力の力積が小さいことが重要である。目安として
\frac{F_{\mathrm{ext}}\Delta t}{p}\ll 1\ [1]
なら、外力の影響を近似的に無視しやすい。分子は [\mathrm{N\,s}]=[\mathrm{kg\,m/s}] なので、比は無次元である。
衝突では、重力や摩擦が存在していても、衝突時間が十分短ければ、それらの力積は衝突力の力積に比べて小さい。このとき
|vec{I}_{mathrm{ext}}|ll |vec{I}_{mathrm{collision}}|
とみなし、系全体の運動量を保存させる。一方で、斜面を長く滑る、空気抵抗を受ける、床との接触が長時間続く、といった場面では外力の力積を無視してはならない。
追加例: 三角形の F-t グラフ
力が 0 から最大値 F_{\max} まで直線的に増え、そのあと 0 まで直線的に減る。接触時間を \Delta t とすると、F-t グラフは三角形であり、力積は面積
I=\frac{1}{2} F_{\max}\Delta t
である。平均の力は
F_{\mathrm{avg}}=\frac{I}{\Delta t}=\frac{1}{2} F_{\max}
となる。最大の力と平均の力を混同すると、力積を 2 倍に見積もってしまう。
具体例 1: ボールの跳ね返り
質量 0.20\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] のボールが、右向き 5.0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] で進み、壁に当たって左向き 3.0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] で跳ね返る。右向きを正とする。
p_{\mathrm{before}}=0.20\times 5.0=1.0
p_{\mathrm{after}}=0.20\times(-3.0)=-0.60
よって
\Delta p=-0.60-1.0=-1.6
したがって力積は左向きに 1.6\ [\mathrm{N\,s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] である。
具体例 2: エアバッグの意味
同じ運動量変化 \Delta p を生じさせるなら
I=F_{\mathrm{avg}}\Delta t=\Delta p
であるから、停止時間 \Delta t を長くすると平均の力 F_{\mathrm{avg}} を小さくできる。エアバッグはこの原理を利用している。
追加例: 反跳の速度
静止していた台車の上から人が右向きに飛び出すと、台車は左向きに動く。人の質量を m、台車の質量を M、飛び出したあとの人の速度を v、台車の速度を V とする。外力の力積を無視できるなら、初めの全運動量は 0 なので
mv+MV=0
したがって
\boxed{V=-\frac{m}{M}v}
である。軽い人が重い台車から飛び出しても、台車の速さは小さい。向きは運動量の和が 0 になるように逆向きになる。
比較例: 力積保存ではなく運動量保存
力積という語から「力積が保存する」と誤解してはならない。保存するのは、外力の力積が 0 のときの系全体の運動量である。力積は「ある力が運動量をどれだけ変えたか」を表す量であり、それ自体を保存量として扱うわけではない。
どこまで成り立つか
- \vec{I}=\Delta\vec{p} は慣性系で常に使える
- 系全体の運動量保存則は外力の力積が無視できる場合に限る
- 斜面上や長時間接触では、重力や摩擦の力積を無視できるかを確認しなければならない
よくある誤り
- スカラーだけで処理して向きを落とす
- 力積保存と運動量保存を混同する
- 平均の力と最大の力を同じものだと思う
- 外力の力積があるのに、系全体で勝手に保存させる
まとめ
短時間の相互作用では、力の時間変化そのものより、時間積分した効果である力積を考えるほうが本質的である。1 物体なら
\vec{I}=\Delta\vec{p}
を使い、複数物体なら外力の力積を確認して運動量保存則へ進む。
系を広げると内力が消える
運動量を扱うときは、どこまでを一つの系に含めるかが本質である。2 物体が互いに力を及ぼすなら、それぞれを別々に見るとその力は外力として現れる。しかし 2 物体を一体の系として見ると、その力は内力になり、全運動量の変化には寄与しない。
このため、衝突や分裂では接触力の大きさを詳しく知らなくても、短時間で外力の力積が無視できれば全運動量を保存できる。力そのものではなく、外力の力積が十分小さいかを判断する。
文字式の単位
運動量 \vec{p}\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] は、質量 m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] と速度 \vec{v}\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] の積である。
\vec{p} = m\vec{v}
この式では、左辺も右辺も \mathrm{kg\,m/s} になる。
力積 \vec{I}\ [\mathrm{N\,s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] は、力 \vec{F}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] と時間 \Delta t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] の積である。
\vec{I} = \vec{F}_{\mathrm{avg}} \Delta t = \Delta\vec{p}
したがって、力積と運動量変化は同じ単位をもつ。
力積の向きを結果から読む
力積 I\ [\mathrm{N\,s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] は、運動量の変化である。したがって、計算した \Delta p\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] の符号は、そのまま平均力の向きの情報をもつ。右向きを正にして \Delta p<0 なら、力積は左向きである。
力の大きさだけを求めたい場合でも、途中では符号を残すほうがよい。最後に大きさとして |I|\ [\mathrm{N\,s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] や |F_{\mathrm{avg}}|\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] を取ればよい。
衝突時間を長くする意味
同じ運動量変化 \Delta p\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] でも、時間 \Delta t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] が長いほど平均力 F_{\mathrm{avg}}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] は小さくなる。
F_{\mathrm{avg}}=\frac{\Delta p}{\Delta t}
これはエアバッグ、マット、膝を曲げた着地などに共通する考え方である。止まるという結果は同じでも、止まり方の時間を伸ばすことで、体が受ける力を下げられる。
F-t グラフと p-t グラフの読み分け
F-t グラフでは、面積が力積 I\ [\mathrm{N\,s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] を表す。時間 t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] の間に力 F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] がどれだけ作用したかを足し合わせるからである。この面積は運動量の変化 (p_{\mathrm{after}}-p_{\mathrm{before}})\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] に等しい。
一方、p-t グラフでは、傾きが力 F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] を表す。運動量が時間に対して急に変わるほど、大きな力が働いている。グラフの面積と傾きのどちらを読むかを混同しない。
平均力は同じ力積を作る一定力
力が時間とともに変わるとき、平均力 F_{\mathrm{avg}}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] は「同じ力積を同じ時間で作る一定の力」として定義する。
F_{\mathrm{avg}}\Delta t
=I
=\Delta p
したがって、衝突時間 \Delta t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] が長くなると、同じ \Delta p\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] でも F_{\mathrm{avg}}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] は小さくなる。安全の議論では、運動量変化を消すのではなく、時間で割った力を小さくしていると読む。
実際の衝突では、力 F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] は時間とともに変わる。そこで、同じ力積 I\ [\mathrm{N\,s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] を同じ時間 \Delta t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] で与える一定の力を、平均力 F_{\mathrm{avg}}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] と呼ぶ。
F_{\mathrm{avg}}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] は、最大の力とは限らない。三角形の F-t グラフなら、平均力は最大値の半分になる。台形や曲線では、面積を時間幅で割って平均を読む。
主要文字式の単位確認
運動量 p\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] は、質量 m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] と速度 v\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] の積である。運動量変化 \Delta p\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] も同じ単位をもつ。
力積 I\ [\mathrm{N\,s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] は、力 F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] と時間 \Delta t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] の積である。単位として [\mathrm{N\,s}]=[\mathrm{kg\,m/s}] なので、I\ [\mathrm{N\,s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] と \Delta p\ [\mathrm{kg\,m/s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] は同じ量として等号で結べる。
数式内での単位明示
運動量は
p = m \times v
である。力積は
I = F\Delta t = \Delta p
なので、力積は運動量の変化と対応する。
力が大きいことと力積が大きいこと
力 F\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] が大きくても、作用する時間が短ければ力積 I\ [\mathrm{N\,s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] は小さいことがある。逆に、小さな力でも長い時間はたらけば、運動量を大きく変えられる。
力積で重要なのは、力の大きさだけでなく、時間との積である。平均力 F_{\mathrm{avg}}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] と作用時間 \Delta t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] を使えば、力積は F_{\mathrm{avg}}\Delta t\ [\mathrm{N\,s};\ \mathsf{MLT^{-1}}] と読める。
衝突では、最大力よりも力積が運動量変化を決める。安全装置は、運動量変化そのものをなくすのではなく、時間 \Delta t\ [\mathrm{s};\ \mathsf{T}] を長くして平均力を小さくする。