重心系での衝突
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導入
この講義の核心は、重心系(CM系)へ移ると全運動量が 0 になり、衝突が対称的に見えるという点にある。実験室系では 2 物体の速度が非対称で式が煩雑になる。しかし重心系では重心が静止しているため、1 次元の弾性衝突なら速度は向きだけを反転すればよい。
このページの位置づけ
このページは高校本線より一段発展である。1 次元衝突の基本は衝突と運動量保存のページで十分であり、ここでは視点変換で計算を簡約する方法を学ぶ。
このページで解けるようになること
- 重心速度 \vec{V} を求めて Lab系から CM系へ移る
- 1 次元 2 体衝突を CM系で対称的に解く
- 1 次元の弾性衝突で「CM系では速度が反転する」という見方を使う
- 失われるエネルギーが CM系の内部運動に対応することを理解する
方針
まず Lab系での重心速度 \vec{V} を求める。つぎに
\vec{u}_i=\vec{v}_i-\vec{V}
で CM系の速度へ移る。CM系で衝突を処理したあと、最後に \vec{V} を足して Lab系へ戻す。
適用条件
- 本線は 1 次元 2 体衝突である
- 外力の力積が無視でき、全運動量が保存されるとする
- 非相対論の力学を前提とする
用語と定義
重心系
重心系(CM系、質量中心系とも)とは、系の重心が静止している慣性系であり、全運動量が 0 の系である:
\vec{P}_{\mathrm{CM}} = \sum_i m_i \vec{u}_i = \vec{0}
「重心系」の意義:運動量が 0 の系では、衝突の前後で2物体の運動量が互いにつり合った形になり、対称性が見えやすくなる。
実験室系
実験室系(Lab系)とは、実験者(または標的)が静止している慣性系である。物理現象を観測する通常の視点。
Lab系と CM系の比較
| 実験室系(Lab) | 重心系(CM) |
| 全運動量 | \vec{P} = m_1\vec{v}_1 + m_2\vec{v}_2 \neq 0(一般) | \vec{P}' = \vec{0} |
| 重心の速度 | \vec{V} = \frac{m_1\vec{v}_1 + m_2\vec{v}_2}{m_1+m_2} | \vec{V}' = \vec{0} |
| 衝突の記述 | 非対称(計算が複雑) | 対称(2物体が逆向きに動く) |
| 弾性衝突後 | 速度の計算が複雑 | 1 次元では各物体の速度の向きが逆転し、大きさは不変 |
見方の整理
まず重心速度 \vec{V} を計算する。各物体の速度から \vec{V} を引いて CM系の速度 \vec{u}_i を得る。CM系で衝突を解析したあと、\vec{V} を足してLab系へ戻す。
直感的な説明
電車の中でボールを投げると、中の観測者には単純に見え、地上では複雑に見える。CM系は「重心に乗って衝突を見る視点」であり、対称的な問題へ変換する。
厳密な説明
1. 速度変換
重心速度(Lab系での重心の速度):
\vec{V} = \frac{m_1\vec{v}_1 + m_2\vec{v}_2}{m_1 + m_2}
CM系での各物体の速度:
\vec{u}_1 = \vec{v}_1 - \vec{V} = \frac{m_2(\vec{v}_1 - \vec{v}_2)}{m_1 + m_2}
\vec{u}_2 = \vec{v}_2 - \vec{V} = \frac{m_1(\vec{v}_2 - \vec{v}_1)}{m_1 + m_2}
確認:m_1\vec{u}_1 + m_2\vec{u}_2 = 0(CM系での全運動量 = 0)。また m_1|\vec{u}_1| = m_2|\vec{u}_2|、すなわち CM系では 2 物体の運動量の大きさが常に等しく逆向き。
2. 弾性衝突の CM系での解析
CM系での衝突前の速度を \vec{u}_1、\vec{u}_2(m_1\vec{u}_1 + m_2\vec{u}_2 = 0)とする。条件:
- 運動量保存:m_1\vec{u}_1' + m_2\vec{u}_2' = 0(CM系では衝突後も成立)
- エネルギー保存:\frac{1}{2}m_1|\vec{u}_1'|^2 + \frac{1}{2}m_2|\vec{u}_2'|^2 = \frac{1}{2}m_1|\vec{u}_1|^2 + \frac{1}{2}m_2|\vec{u}_2|^2
1次元の場合、この 2 条件から
u_1' = -u_1, \quad u_2' = -u_2
1 次元の弾性衝突では、CM系における各物体の速度の向きが逆転し、大きさは変化しない。Lab系に戻すと:
v_1' = u_1' + V = -u_1 + V = -(v_1 - V) + V = 2V - v_1
v_2' = 2V - v_2
V = \frac{m_1 v_1 + m_2 v_2}{m_1 + m_2} を代入すると、衝突と運動量保存の講義で導出した一般式と一致する。
3. 反発係数との接続
反発係数 e は、1 次元では CM系での速度の向きの反転割合として自然に解釈できる:
e = \frac{|u_1'|}{|u_1|} = \frac{|u_2'|}{|u_2|}
- e = 1:弾性衝突(CM系で完全な速度反転)
- e = 0:完全非弾性衝突(CM系で速度が 0 に合体)
- 0 < e < 1:非弾性衝突(部分的な反転)
4. CM系でのエネルギー損失
Lab系の全運動エネルギーは
K_{\mathrm{Lab}} = K_{\mathrm{CM}} + \frac{1}{2}(m_1 + m_2)V^2
ここで K_{\mathrm{CM}} = \frac{1}{2}m_1|\vec{u}_1|^2 + \frac{1}{2}m_2|\vec{u}_2|^2 は CM系での運動エネルギー(内部エネルギー)、\frac{1}{2}(m_1+m_2)V^2 は重心の運動エネルギー(衝突で変化しない)。衝突で失われるエネルギーは CM系の内部運動に対応する K_{\mathrm{CM}} の側だけである。重心そのものの並進エネルギーは衝突で変化しない。
\Delta K_{\max} = K_{\mathrm{CM}} = \frac{1}{2}\mu|\vec{v}_1 - \vec{v}_2|^2 \quad \left(\mu = \frac{m_1 m_2}{m_1 + m_2}\right)
これは完全非弾性衝突で 2 物体が合体し、CM系での相対運動が消えるときの最大の損失である。1 次元で反発係数が e なら、失われる運動エネルギーは
\Delta K_{\mathrm{loss}}=(1-e^2)K_{\mathrm{CM}}
であり、0<e<1 の非弾性衝突では最大損失の一部だけが失われる。
\mu は換算質量(2体問題の有効質量)。
5. 同じ質量の弾性衝突(CM系の見方)
m_1 = m_2 = m のとき V = \dfrac{v_1 + v_2}{2}、\vec{u}_1 = \dfrac{\vec{v}_1 - \vec{v}_2}{2} である。1 次元では CM系で速度が反転するので、Lab系では速度が交換される(v_1' = v_2、v_2' = v_1)ことが直ちに分かる。
具体例: 同質量の弾性衝突
Lab系で、同じ質量 m の 2 物体が u と 0 で衝突するとする。重心速度は
V=\frac{mu+0}{2m}=\frac{u}{2}
である。したがって CM系では
u_1=\frac{u}{2},\qquad u_2=-\frac{u}{2}
となる。弾性衝突なら反転して
u_1'=-\frac{u}{2},\qquad u_2'=\frac{u}{2}
であり、Lab系へ戻すと
v_1'=0,\qquad v_2'=u
となる。速度交換が一瞬で見通せる。
CM系で解く手順
1 次元 2 体衝突を CM系で解くときは、次の順に固定すると符号が崩れにくい。
- Lab系で重心速度 V を求める
- u_i=v_i-V で CM系の速度へ移る
- 衝突の種類に応じて u_i' を決める
- v_i'=u_i'+V で Lab系へ戻す
弾性衝突なら 1 次元では u_i'=-u_i である。完全非弾性衝突なら CM系では衝突後に u_1'=u_2'=0 となり、Lab系では 2 物体が重心速度 V で動く。
Lab系と CM系で変わらないもの
Lab系から CM系へ移ると、各物体の速度は変わる。しかし 2 物体の相対速度
\vec{v}_1-\vec{v}_2
は変わらない。なぜなら、両方の速度から同じ重心速度 \vec{V} を引くからである。
(\vec{v}_1-\vec{V})-(\vec{v}_2-\vec{V})=\vec{v}_1-\vec{v}_2
したがって反発係数のように相対速度で定義される量は、Lab系でも CM系でも同じ値として扱える。
見分け方
- 2体衝突で計算が複雑 → CM系に移ると単純になる
- 弾性衝突の一般解を求める → CM系での「速度反転」から導出する
- 最大エネルギー損失 → \frac{1}{2}\mu|\vec{v}_1 - \vec{v}_2|^2 の公式を使用する
- 散乱問題(入射角度・散乱角度) → CM系と Lab系の角度変換を使用する
どこまで成り立つか
重心系の手法は、外力が無視できる(または衝突時間が十分短い)条件で有効である。多体衝突や散乱理論にも同様の考え方が拡張できる。相対論的衝突では CM系(零運動量系)への変換にローレンツ変換が必要になる。
よくある誤り
- Lab系の速度と CM系の速度を混ぜる
- 重心速度 \vec{V} を求めずに議論を始める
- 弾性衝突 in CM を「停止する」と誤解する
- エネルギー損失が Lab系の全運動から直接消えると思う
最終形
\boxed{\vec{V} = \frac{m_1\vec{v}_1 + m_2\vec{v}_2}{m_1 + m_2}, \quad \vec{u}_i = \vec{v}_i - \vec{V}}
\boxed{\vec{u}_i' = -\vec{u}_i}
これは 1 次元の弾性衝突を CM系で見たときの速度反転である。2 次元や 3 次元の散乱では、CM系で速さは保たれるが、向きは散乱角に依存する。
\boxed{\Delta K_{\max} = \frac{1}{2}\mu|\vec{v}_1 - \vec{v}_2|^2,\qquad \mu = \frac{m_1 m_2}{m_1+m_2}}
\boxed{\Delta K_{\mathrm{loss}}=(1-e^2)K_{\mathrm{CM}}}
この式は 1 次元衝突で用いる。
一言でいうと
CM系に移ると全運動量が 0 になり、弾性衝突は「CM系での速度の向きが逆転する」の一言に帰着する。
文字式の単位
重心系では、まず重心速度を引く。重心速度 V_G\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] は
V_G
=\frac{m_1v_1+m_2v_2}{m_1+m_2}
である。分子は運動量 [\mathrm{kg\,m/s}]、分母は質量 [\mathrm{kg}] なので、結果は速度 [\mathrm{m/s}] になる。重心系での速度は
u_i=v_i-V_G
と定義し、同じ速度の単位どうしを引いていることを確認する。
CM系では、Lab系の速度 \vec{v}_i\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] から重心速度 \vec{V}\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] を引いて、\vec{u}_i=\vec{v}_i-\vec{V}\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] を作る。相対速度も [\mathrm{m/s}] であり、系を変えても単位は変わらない。
CM系の運動エネルギー K_{\mathrm{CM}}\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] は、\frac{1}{2}m_1u_1^2+\frac{1}{2}m_2u_2^2\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] である。換算質量 \mu\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] を使えば、\frac{1}{2}\mu|\vec{v}_1-\vec{v}_2|^2\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] と書ける。ここでも速度差は [\mathrm{m/s}] である。
換算質量で 2 物体の衝突を見る
2 物体の相対運動は、換算質量 \mu\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] を使うと 1 つの物体の運動のように扱える。
\mu=\frac{m_1m_2}{m_1+m_2}
ここで m_1\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、m_2\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] は 2 物体の質量である。CM系での内部運動エネルギーは
K_{\mathrm{CM}}=\frac{1}{2}\mu|\vec{v}_1-\vec{v}_2|^2
と書ける。\mu\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] と相対速度 |\vec{v}_1-\vec{v}_2|\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] から、単位は [\mathrm{J}] になる。
完全非弾性衝突で失われるエネルギー
完全非弾性衝突では、衝突後に 2 物体が一体となって動く。このとき CM系では、衝突後の相対速度が 0\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] になる。したがって、衝突前に CM系がもっていた内部運動エネルギーが最大限失われる。
Lab系で見ると、重心の並進エネルギーは残る。そのため、全ての運動エネルギーが失われるわけではない。失われるのは、重心から見た内部運動の部分である。
主要文字式の単位確認
Lab系の速度 v_i\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、重心速度 V\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、CM系の速度 u_i\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] は、すべて速度の単位をもつ。u_i=v_i-V\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] では、同じ単位の量どうしを引いている。
換算質量 \mu\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、相対速度 v_1-v_2\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] を使うと、\frac{1}{2}\mu(v_1-v_2)^2\ [\mathrm{J};\ \mathsf{ML^2T^{-2}}] は CM系での内部運動エネルギーになる。反発係数 e\ [\mathrm{1};\ \mathsf{1}] は無次元である。
数式内での単位明示
CM系の速度は
u_i = v_i - V
である。換算質量を使うと、CM系での内部運動エネルギーは
K_{\mathrm{CM}} = \frac{1}{2} \mu |v_1-v_2|^2
と読める。
CM系で解く典型手順
CM系で衝突を解くときは、まず Lab系で重心速度 V\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] を求める。次に、各物体の速度から V\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] を引いて、CM系の速度 u_1\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、u_2\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] を作る。
弾性衝突なら、CM系では衝突後に速度の向きが反転する。非弾性なら、相対速度が反発係数 e\ [\mathrm{1};\ \mathsf{1}] に従って小さくなる。最後に、CM系の速度へ V\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}] を足して Lab系へ戻す。
この手順では、重心の並進と内部運動を分けて見る。失われる運動エネルギーは、主に CM系で見た内部運動の部分である。