重心の基本
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導入
この講義の核心は、重心は質量の分布を 1 点に集約した基準点であり、系全体の並進運動を外力だけで記述するための道具であるという点にある。複数の物体や広がった物体では、各部分の力や運動を全部追うと見通しが悪くなる。そこで並進だけを代表する点として重心を導入すると、内部でどれだけ複雑な相互作用があっても、系全体の進み方は外力だけで決まる。
このページで解けるようになること
- 2 質点や複合体の重心を求める
- 対称性から重心位置を即座に判断する
- 重心の運動方程式 M\ddot{\vec{R}}=\vec{F}_{\mathrm{ext}}^{\mathrm{tot}} を使う
- 衝突や爆発で、重心の軌跡だけを追跡する
方針
まず 2 質点の場合で「重いほうへ近づく」という直観を確認する。つぎに一般式を立て、時間微分して重心の運動方程式を導出する。そのうえで対称性と複合体の例を通して、実戦での使い方へ接続する。
このページを使う場面
- 物体のどこを支えるとつり合うかを調べるとき
- 複数物体の系を 1 点へ圧縮して並進運動だけ見たいとき
- 衝突・爆発・分離の前後で重心の動きがどうなるかを知りたいとき
適用条件
- Newton 力学の範囲で考える
- 内力が作用反作用の対として打ち消し合う
- 回転運動そのものを記述する道具ではなく、あくまで並進を代表する点として使う
用語と定義
重心
質点 m_1,\dots,m_n が位置 \vec{r}_1,\dots,\vec{r}_n にあるとき、重心 \vec{R} は
\vec{R} = \frac{\sum_{i=1}^{n}m_i\vec{r}_i}{\sum_{i=1}^{n}m_i} = \frac{\sum m_i\vec{r}_i}{M}
で定義する。ここで M=\sum m_i は全質量である。
重心・質量中心・重力中心
| 語 | 意味 | BemStudy での扱い |
| 重心 | 日本語では通常、質量で重み付けした中心を指す | 高校物理では質量中心と同義で扱う |
| 質量中心 | center of mass の直訳 | 最も厳密な呼称 |
| 重力中心 | 重力の作用を 1 点に集約した点 | 重力場が一様なら重心と一致する |
一様重力場では重心と重力中心は一致するため、高校物理ではほぼ同じ概念として扱ってよい。
幾何中心との違い
密度が一様なら重心と幾何中心は一致する。しかし密度が偏ると一致しない。したがって、座標の平均を取るだけではなく、質量で重み付けることが本質である。
基本式と導出
1. 2 質点の場合
1 次元なら
R=\frac{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}
である。m_1=m_2 なら中点、m_1>m_2 なら m_1 側へ寄る。したがって、重心は「質量を考慮した平均位置」である。
2. 重心の運動方程式
定義
M\vec{R}=\sum_i m_i\vec{r}_i
を時間で 2 回微分すると
M\ddot{\vec{R}}=\sum_i m_i\ddot{\vec{r}}_i
となる。ここで各質点に Newton の第 2 法則
m_i\ddot{\vec{r}}_i=\vec{F}_i^{\mathrm{int}}+\vec{F}_i^{\mathrm{ext}}
を代入すると
M\ddot{\vec{R}}=\sum_i\vec{F}_i^{\mathrm{int}}+\sum_i\vec{F}_i^{\mathrm{ext}}
を得る。Newton の第 3 法則により内力は対になって打ち消し合うから
\sum_i\vec{F}_i^{\mathrm{int}}=\vec{0}
であり、したがって
\boxed{M\ddot{\vec{R}}=\vec{F}_{\mathrm{ext}}^{\mathrm{tot}}}
ここで \vec{F}_{\mathrm{ext}}^{\mathrm{tot}} は、系全体にはたらく外力の合力である。
内部でどれほど複雑に押し合っても、重心の運動だけを見るなら、その効果は内力どうしで打ち消し合う。したがって、重心を動かすのは外力の合力だけである。
が成り立つ。これが重心の運動方程式である。
3. 連続体への拡張
密度 \rho(\vec{r}) を用いると
\vec{R}=\frac{\int \vec{r}\rho(\vec{r})dV}{\int \rho(\vec{r})dV}
となる。対称性が強い図形では、この積分を実行しなくても重心が分かる。
対称性ショートカット
- 一様な棒の重心は中央
- 一様な円板や球の重心は中心
- 左右対称なら重心は対称軸の上
- 上下対称なら重心はその対称軸の上
この段階で対称性を見抜けると、計算量が大幅に減る。
具体例 1: 2 質点の重心
x=0 に質量 m、x=3a に質量 2m があるとする。このとき
R=\frac{m\cdot 0+2m\cdot 3a}{3m}=2a
となる。重いほうの質点へ近づいていることが式と直観で一致する。
具体例 2: 穴あき板の重心
一様な長方形板の中央から小さな円板を切り抜いた場合は、「長方形の質量」から「抜き取った円板の質量」を負の質量として引く方法で扱える。たとえば長方形の重心を \vec{R}_0、抜き取った円板の中心を \vec{R}_1、全体の質量を M_0-m_1 とすると
\vec{R}=\frac{M_0\vec{R}_0-m_1\vec{R}_1}{M_0-m_1}
となる。複合体の重心は「足す」「引く」の整理で処理できる。
具体例 3: 衝突での重心の運動
2 物体が衝突しても、外力が無視できるなら
M\ddot{\vec{R}}=\vec{0}
であるから、
\dot{\vec{R}}=\text{const}
すなわち重心は等速直線運動を続ける。これが運動量保存則の別表現である。
どこまで成り立つか
重心の運動方程式は、内力が作用反作用の対として打ち消し合う範囲で成立する。ただし、この式が記述するのは系全体の並進だけである。回転や内部変形は別に考察しなければならない。
よくある誤り
- 質量平均ではなく座標平均を取ってしまう
- 対称性で即決できる場面で不要な積分をする
- 重心の運動と各部分の相対運動を混同する
- 重心が分かれば回転まで全部分かると誤解する
連続体の重心
棒や板のように質量が連続的に分布している物体では、和を積分に置き換える。
\vec{R}=\frac{1}{M}\int \vec{r}dm
密度が一様なら、対称性から重心を決められることが多い。一様な棒の重心は中央、一様な円板の重心は中心である。密度が場所で変わるときは、重い側へ重心が寄る。
追加例: 空中で分裂する物体
空中を飛んでいる物体が途中で 2 つに分裂しても、空気抵抗を無視すれば、重心は分裂しなかったときと同じ放物線を描く。分裂による力は内力であり、重心の運動を変えないからである。
各破片の軌道は大きく変わっても、質量で重みづけた平均としての重心は
M\ddot{\vec{R}}=M\vec{g}
に従う。これは、衝突や爆発で内部の様子が複雑でも、系全体の並進運動は外力だけで決まるという重心の基本性質を表している。
重心運動と内部運動の分解
多粒子系の運動エネルギーは、重心が動く並進の部分と、重心から見た内部運動の部分に分けられる。
K=\frac{1}{2} M V_G^2+K_{\mathrm{int}}
ここで V_G は重心の速さ、K_{\mathrm{int}} は重心系で見た運動エネルギーである。衝突で失われる運動エネルギーは、重心の並進ではなく、この内部運動の部分から失われる。
一言でいうと
重心は質量の偏りを 1 点へ圧縮した基準点であり、系全体の並進運動だけを外力で記述するための道具である。
外から見える運動と内部の運動
重心の考え方は、複雑な物体群を「外から見た一つの点の運動」と「内部での相対運動」に分ける道具である。外力の合力が決めるのは重心の運動であり、内力は重心を直接加速しない。
爆発や分裂では、内部のエネルギーが各部分の運動エネルギーに変わる。しかし外力の力積が無視できる短時間なら、重心の速度は変わらない。破片が複雑に飛んでも、重心だけはもとの放物運動を続ける。
重心を使うと保存則が見える
運動量保存は、重心の速度が一定であることと同じ内容を別の言葉で述べている。したがって衝突を解くとき、全運動量を保存させる式と、重心速度を一定にする見方は一致する。
この視点を持つと、Lab系で見る衝突と CM系で見る衝突がつながる。Lab系では全体が流れて見え、CM系では内部の衝突だけが見える。
文字式の単位
重心の式は「質量で重みづけした位置の平均」である。2 質点なら
x_G
=\frac{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}
となる。分子の各項は [\mathrm{kg\,m}]、分母は [\mathrm{kg}] なので、結果は位置の単位 [\mathrm{m}] になる。重心は力ではなく位置なので、単位を見れば [\mathrm{N}] ではなく [\mathrm{m}] が出るべきである。
重心の位置 \vec{R}\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] は、
\vec{R}=\frac{\sum_i m_i\vec{r}_i}{\sum_i m_i}
で定義される。m_i\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、\vec{r}_i\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] なので、分子は [\mathrm{kg\,m}]、分母は [\mathrm{kg}]、したがって \vec{R}\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] になる。
重心の運動方程式 M\ddot{\vec{R}}=\vec{F}_{\mathrm{ext}}^{\mathrm{tot}} では、M\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、\ddot{\vec{R}}\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]、\vec{F}_{\mathrm{ext}}^{\mathrm{tot}}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] である。全質量と重心加速度の積が、外力の合力と同じ単位になる。
対称性で重心を読む
一様な物体では、対称性を使うと重心を計算せずに読める。左右対称なら重心は対称軸の上にある。上下にも対称なら、2 本の対称軸の交点が重心である。
円板、長方形板、一様な棒では、重心は幾何学的な中心にある。一方、穴が開いている板や、密度が場所で変わる物体では、見た形の中心と重心は一致しないことがある。
欠けた物体の重心
穴のある板や一部を切り取った物体は、「大きな物体」から「取り除いた部分」を引くと考える。取り除いた部分を負の質量として扱うと、重心の式をそのまま使える。
たとえば全体の質量を M\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、穴に相当する部分の質量を m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] とすれば、残った物体の質量は M-m\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] である。重心は質量の重みつき平均なので、取り除いた部分の重心から遠ざかる向きへ移る。
主要文字式の単位確認
重心の位置 R\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] は、質量で重みをつけた位置の平均である。m_i\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}]、r_i\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] とすると、m_i r_i\ [\mathrm{kg\,m};\ \mathsf{ML}] を足して、全質量 M\ [\mathrm{kg};\ \mathsf{M}] で割るので、結果は [\mathrm{m}] になる。
重心速度 V_G\ [\mathrm{m/s};\ \mathsf{LT^{-1}}]、重心加速度 A_G\ [\mathrm{m/s^2};\ \mathsf{LT^{-2}}]、外力の合力 F_{\mathrm{ext}}\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] を使うと、M A_G\ [\mathrm{N};\ \mathsf{MLT^{-2}}] が重心の運動方程式の右辺と同じ単位になる。
数式内での単位明示
重心の位置は
R = \frac{\sum_i m_i r_i}{\sum_i m_i}
である。分子は \mathrm{kg\,m}、分母は \mathrm{kg} なので、結果は \mathrm{m} になる。
重心が物体の外に出る場合
重心は質量の分布を代表する点であり、必ず物体の内部にあるとは限らない。輪、三日月形の板、L 字形の物体では、重心が空間の何もない位置に来ることがある。
これは矛盾ではない。重心は「そこに物質がある点」ではなく、全体の並進運動を代表させる点である。外力の合力が同じなら、重心はその点に質量が集まっているかのように動く。
計算では、位置 R\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] を質量つき平均として求める。結果の R\ [\mathrm{m};\ \mathsf{L}] が物体の外にあっても、平均として正しければ採用する。